ドラマ映画化が迎えた時代の限界点 邦画実写ヒットはテレビではなくネットから
2024年上半期の映画興行を振り返って、邦画実写で注目したいポイントがある。
『変な家』が興行収入50億円前後、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が40億円を超える大ヒットになった一方、テレビドラマを映画化した『おいハンサム!!』が公開初週時点の最終興収見込み1〜2億円ほどという非常に厳しい成績になっている。
近年の傾向ではあるが、ドラマ映画はかつてのようなヒットが約束されたコンテンツではない。一方、ネットやSNSでバズったコンテンツには、それと同等か、それ以上のポテンシャルがあることが示された。
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YouTube動画、投稿サイト小説の映画化が大ヒット
『変な家』は、ホラー作家でありYouTuberの雨穴氏が、2020年10月にYouTubeに投稿した動画を元にする映画。ふつうに見える民家の間取り図に不可解な点があるというところから物語がはじまるミステリー。
家の間取りという題材の新鮮さと、サスペンスとホラーの要素が融合する予期せぬストーリー性が話題になっていた。ホラー映画のスマッシュヒットはよく生まれるが、10〜20億円ほどがほとんど。本作はその規模を大きく超える、映画関係者も驚くスーパーヒットとなった。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、もともと小説投稿サイトで公開されて話題になり、改題して出版されるとTikTokで人気を博した。作家・汐見夏衛氏による、そんなベストセラー小説の映画化作品だ。
現代の女子高生が戦時中にタイムスリップして特攻隊員と恋に落ちるストーリーだが、現在からは想像もできないような当時の生活や恋愛模様が若い世代の心に響いた。
元ネタがYouTube動画と投稿サイト小説という両作に共通するのは、ネットやSNSでの知名度と人気があったこと。若年層をはじめとしたネットフレンドリーな世代との親和性が高かった。
もちろん2作とも、SNS人気を観客層のベースに見込んだ映画企画になるが、その作品性と時代の波がうまく噛み合うと、従来の映画業界の常識を超える大きなヒットにつながることを示した。
従来のヒット方程式が通用しない邦画実写
一方、かつてはヒット方程式として成立していたテレビドラマの映画化が、近年は苦戦している。そうしたなか、今年上半期からは、ネットやSNSで話題になったコンテンツが、テレビドラマを超えるヒットポテンシャルを有する時代に入っていることわかる。
ただ、SNSで人気があれば何でもいいわけではない。これまでにもネット発コンテンツの映画化は少なくないが、ここまでのヒットになる作品は稀だ。映画『100日間生きたワニ』(2021年)は記憶に新しいだろう。SNSで絶大な知名度と話題性があったとしても、ひとつのボタンの掛け違いで風向きは180度変わる。
ネット空間でのコンテンツ人気と、映画という有料の映像作品のそれは別物になる。そこからのヒット創出は容易ではない。
『変な家』と『あの花が咲く丘〜』のヒットを振り返ると、要素として大きいのはやはり映画化に際しての作品の中身だろう。どちらも、いまの若い世代の興味関心に引っかかる時代性、社会性をうまく汲んでいた。それがふだん映画館に行かない世代に刺さっていた感がある。ただ、そこに火がつくかは偶然や運もありそうだ。
ドラマ映画は二極化が進む
テレビドラマの映画化作品と言えば、昨年は『ミステリと言う勿れ』が48億円、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』が45.3億円の大ヒットになっていたほか、『Dr.コトー診療所』も24.4億円と健闘。一方、『映画 イチケイのカラス』は10億円を超えたものの、『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』などは振るわない成績で終わった。
かつては、100億円超えヒットを誇った『踊る大捜査線』シリーズをはじめ、『海猿』『ガリレオ』『ROOKIES』『コンフィデンスマンJP』など、時代とともにヒット規模は遷り変わりながらも、テレビ人気を背景にしたドラマ映画は、邦画実写の鉄板ヒットコンテンツとして君臨してきた。
しかし近年は、その傾向に明らかな変化が生じている。昨年が象徴的だが、大ヒット作とそうでない作品の二極化が急速に進んでいるのだ。今年は従来の邦画実写のヒット方程式が通用しない時代に入っていることが、改めて如実に示されたと言えるだろう。
テレビドラマの世の中的な注目度は高い
ただ、ドラマ映画のヒットがなくなったわけでも、なくなるわけでもない。ここ最近では『VIVANT』や『不適切にもほどがある!』が社会現象的なムーブメントになっていたが、かつてもいまもテレビドラマには世の中的な話題を生み出すポテンシャルがある。
しかし、それが映画化されるときには、話題作とそうでない作品による差がこれまで以上にはっきりと分かれる。
舞台を海外にしてスケール感を出すといった小手先の手法や、ドラマと同時に撮影して効率よく収益化するといった内向きな理屈は、目の肥えた観客には通用しない。かつてのような大ヒットドラマ映画を生み出すには、従来のルーティンやセオリー、思考を打ち破る、新しいクリエイティブが必要になるだろう。
今年の冬は、木村拓哉主演のTBS日曜劇場『グランメゾン東京』(2019年)の劇場版『グランメゾン・パリ』、米倉涼子主演の「私、失敗しないので」でおなじみの『劇場版ドクターX』が公開される。ドラマのビッグタイトル2作が映画としてどう受け入れられるか。ドラマ映画の今後のひとつの指標にもなりそうだ。
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