ベラルーシからウクライナを爆撃後、核弾頭搭載可能なミサイル移送を発表。ルカシェンコの綱渡りはどうなる
25日土曜日の早朝5時(現地時間)、20発のミサイルが、ベラルーシとの国境地域チェルニヒフのデスナ村を襲った。首都キーウから北に70キロにある村だ。
ウクライナ軍の発表によると、ベラルーシの地上と空の両方から攻撃された。
ロシアの西部カルーガ地方にあるシャイコフカ空港を飛び立った6機の爆撃機「Tu-22M3」は、ベラルーシ南部のペトリコウの町のあたりで、巡航ミサイルを12発を発射したという。その後は、ロシアに戻ったとのこと。
ロシア軍はデスナ村のほか、キーウとスーミ地方を標的にして攻撃したことが明らかにされた。
今の段階では、死者は確認されていないという。「インフラが攻撃された」と発表では付け加えたが、それが軍事的なものであるかどうかは、特定されなかった。
ウクライナ側は、ロシアがベラルーシを戦争に引き込もうとしていると非難した矢先に、核弾頭が搭載可能なミサイルの移送の方針がニュースとなった。
ベラルーシはロシア軍がキーウ攻略戦から撤退するまで、ロシアに対して外交と後方の支援を行ってきたが、軍そのものは出していない。
25日土曜日に、サンクト・ペテルスブルクで会談したプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領は、会談の冒頭で、「今後数ヶ月の間に、弾道ミサイルや巡航ミサイルを使用できる戦術ミサイルシステム『イスカンダル-M』(通常バージョンと核バージョンで可能)をベラルーシに移送する」と述べた。ロシアのテレビで放送された。
ルカシェンコ大統領は、ベラルーシの空軍を近代化し、核兵器を搭載できるようにしたいと発表。ベラルーシは先月既に、核弾頭を搭載可能なイスカンダルシステムを購入したと発表していた。
このミサイルシステムが首都キーウを狙ったものなのか、カリーニングラードの援護で、バルト海やカリーニングラード、スヴァロキ回廊方面に向けてNATOとEUを脅すものなのかは、まだ不明である。
参考記事:とうとう火薬庫に火がつくのか。ロシアの飛び地カリーニングラードとスヴァウキ回廊、リトアニアの列車問題
欧米の制裁は、ベラルーシにも科されている。それでも兵は出さないというルカシェンコ大統領の、危険な綱渡りは続いている。
今から思うと開戦のほぼ直前に、ルカシェンコ大統領は、クレムリンの御用ジャーナリストのインタビューに答え、プーチン大統領はまだ、自分をロシアの大佐にしてくれるという約束を果たしていない、と述べた。
この公の「下僕志願」表明は、ヨーロッパ人を驚かせた。
ロシアとベラルーシの間には20年ほど前、合意のもとに「統合」の話があったのだ。条約も結ばれたが、ほとんど死文化していた。
ルカシェンコ大統領は、統合を常に拒否してきた。経済的にロシアに依存し、常にロシアの味方でありながらも、欧米(NATO・EU)とロシアの間を上手に泳いできたはずだった。
しかし、統合話しが復活しそうになったのが、昨年の9月のことだ。ルカシェンコ大統領は、ロシアに譲歩を強いられるほど弱い立場になっていた。
2020年に、全土で大規模な反ルカシェンコ大統領デモが起こった。鎮圧はしたものの、独裁政権は孤立を深めていったのだ。米とEUに制裁されたために、ロシアと排他的な関係を持ち、プーチン大統領が唯一の支援者となった。
彼は昨年9月の時点でも「主権を放棄することは問題外だろう」と繰り返し述べていた。しかし、ウクライナをめぐり高まっていく欧米とロシアの間の緊張と、ロシアからの圧力を前に、どうやらロシアに屈するようだという空気が濃厚になっていた。
そんな状況にあって、今年2月の上旬「私をロシアの大佐にしてほしい」発言が飛び出した。完全にヤラセであるが、あそこまで芝居がかったインタビューと発言を公表するとは。
筆者は「あそこまで私はプーチンの下僕であると、世間にはっきりと見せたではないか」と言う必要があるほど大きな動きが、背後にあるという仮説も成り立つのではないかーーと思っていた。それは今から思うと、ウクライナ攻撃だった。
ルカシェンコ大統領の、決して兵を出さない、決して参戦国にならないという綱渡りは、果たしてどこまで続けられるだろうか。
参考記事(開戦直前の2月):ベラルーシはどうなっているか。下僕志望を公に表明のルカシェンコと軍事演習の行方:ウクライナ危機