海自もがみ型護衛艦(FFM)5番艦「やはぎ」が就役 京都・舞鶴に配備
海上自衛隊のもがみ型護衛艦(FFM)5番艦である「やはぎ」が5月21日、就役した。三菱重工業長崎造船所(長崎市)で同日、引き渡し式と自衛艦旗授与式があった。
海自の最新鋭艦である「やはぎ」は、もがみ型護衛艦としては初めて京都府舞鶴市にある舞鶴基地の護衛艦隊第14護衛隊に配備される。これまでは1番艦「もがみ」と2番艦「くまの」が横須賀基地の第11護衛隊に、3番艦「のしろ」と4番艦「みくま」が佐世保基地の第13護衛隊にそれぞれ配備されてきた。
●海自護衛艦として初の対機雷戦能力
基準排水量3900トンのもがみ型は、平時の監視警戒といったこれまでの護衛艦運用に加え、有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などにも対処できる新艦種の多機能護衛艦(FFM)だ。FFはフリゲートの艦種記号で、これに多目的任務対応(multi-purpose)と機雷戦(mine warfare)を意味するMが加えられた。対機雷戦機能は従来、掃海艦艇が有していたが、もがみ型は護衛艦として初の対機雷戦能力を有する。
もがみ型は軍拡を続ける中国の海洋進出をにらみ、全長1200キロに及ぶ南西諸島を中心に日本の海上防衛の一翼を担う主力艦となる。
●もがみ型は12隻で終了、新型FFMを12隻建造へ
もがみ型は年2隻というハイペースで建造が進められ、当初は計22隻が建造される計画だった。しかし、もがみ型は昨年度防衛予算に計上された、令和5(2023)年度計画艦までの計12隻で建造を終了する。
そして、今年度予算計上の令和6(2024)年度計画艦からは5年間にわたって、もがみ型の能力向上型となる新型FFMを計12隻調達する。今年度予算で最初の2隻の建造に1740億円を計上した。令和10(2028)年度に配備される予定だ。
(新型FFMの詳細については、関連記事「海自新型FFMは12隻を建造へ 2024年度防衛予算概算要求の主な注目点」と「海自新型FFMは2024年度からわずか5年間で12隻を調達へ 防衛装備庁が明かす」をご参照ください。)
●ステルス護衛艦
もがみ型は基準排水量が3900トン。全長133メートル、全幅16.3メートルと、従来の護衛艦と比べて船体をコンパクトにし、小回りがきく。乗組員数はあさひ型といった通常型の汎用護衛艦の半分程度の約90人に抑えた。建造費も5番艦やはぎと6番艦あがのをあわせて令和2年度予算で約943億円と、1隻当たりでは700億円を超えるあさひ型の3分の2程度にとどまっている。少子高齢化に伴う海自の常態化した定員割れを踏まえた省人化と船価を抑えて実現した初の護衛艦となった。
もがみ型は船体表面の凹凸を減らし、対艦ミサイルなどに探知されにくいステルス性の形状を備え、魚雷発射管やミサイルなどの電波を受けやすい機器を艦内に格納する。船体もロービジビリティ(低視認性)を重視した灰色と化しており、レーダーに映りにくい「ステルス護衛艦」とも称されている。
●海自護衛艦として初の複合機関CODAGを採用
もがみ型の速力は30ノット(時速約56キロ)以上。主機関としては、海自護衛艦として初めてガスタービンとディーゼルを併用する複合機関のCODAG(COmbined Diesel And Gas turbine)を採用した。巡航時など通常はディーゼルを使用し、急加速時や高速時はガスタービンを併用する。ガスタービンエンジンはイギリスのロールス・ロイス社から川崎重工業がライセンスを得て製造したMT30を1基搭載。MT30は海自護衛艦では初採用となった。ディーゼルエンジンはドイツのMAN社製の12V28/33D STCを2基搭載している。軸出力は7万馬力。
主要兵装としては、三菱重工業製の新型の17式艦対艦誘導弾(SSM-2)の4連装発射筒を2基、短射程艦対空ミサイルのRAMブロックIIA(RIM-116C)を使用する近接防御火器システム(CIWS)11連装発射のレイセオン製の対艦ミサイル防御装置(SeaRAM)を1基、12.7ミリ重機関銃M2を射撃できる日本製鋼所製のRWS(リモートウェポンステーション)である遠隔操作式無人銃架を2基、BAEシステムズ製の62口径5インチ(127ミリ)単装砲を1基、ロッキード・マーティン製のMk41垂直発射装置(VLS)を1基(16セル、搭載弾薬はアスロック)それぞれ搭載する。VLSは後日装備となる。
●最初の2隻分のVLSが今年度中に三菱重工から防衛省に納入
防衛省によると、もがみ型護衛艦12隻のうち、最初の2隻分のVLSが2024年度に製造元の三菱重工業から防衛省に納入される予定だ。具体的には令和3年度計画艦の7番艦「によど」と8番艦「ゆうべつ」搭載向けとなる。
(関連記事:【独自】「後日装備」の海自もがみ型護衛艦搭載VLS、来年度に最初の2隻分が三菱重工から防衛省に納入へ)
また、令和7(2025)年度に3式(3隻分)、令和9(2027)年度に4隻分、令和10(2028)年度に3隻分のVLSがそれぞれ三菱重工業から防衛省に納入される予定だ。
(関連記事:「後日装備」となっている海自もがみ型護衛艦VLSの納入予定が判明した)
竣工時から設置されるのは令和5年度計画艦の11番艦、12番艦からとなっている。
もがみ型の対潜水艦戦用としては、NEC製ソナーシステム「OQQ-25」や324mm魚雷発射管2基を装備し、SH-60K哨戒ヘリコプター1機を搭載する。
●従来の護衛艦にない新装備のUSVとUUV
さらに、対機雷戦用として、日立製のソナーシステム「OQQ-11」を搭載。機雷の敷設された危険な海域に進入することなく、機雷を処理することを可能とする無人機雷排除システム用の無人水上航走体(USV)1艇と無人水中航走体(UUV)を1機装備する。USVとUUVは従来の護衛艦にない新装備となる。
●豪海軍、次期フリゲート候補として「もがみ型」を選定
オーストラリア政府は今年2月20日、昨年4月の国防戦略見直しの勧告に応じて、豪海軍の水上戦闘艦隊能力についての独立した分析報告書を発表した。その中で、豪海軍艦の増強を目指して11隻の調達を計画する次期汎用フリゲートの候補として、ドイツのMEKO A-200型、三菱重工業が建造するもがみ型護衛艦、韓国の大邱級フリゲートBatchIIとBatchIII、スペインのナバンティア ALFA3000の4つを順に挙げた。
海自トップの酒井良海上幕僚長は3月6日の記者会見で、オーストラリア政府が同国海軍の水上戦闘艦隊の見直しの中で、次期フリゲートの候補としてもがみ型護衛艦を選出したことについて、「我が国の装備品に対する高い信頼と評価の表れであると受け止めている」と述べた。
共同通信の5月7日付の報道によると、日本政府はオーストラリア海軍が導入を計画する新型艦の入札に参加する方向で検討に入ったという。もがみ型をベースにした共同開発を想定しているという。共同通信は「殺傷能力が高い護衛艦の輸出が決まれば異例だが、他国と競合する可能性があり、受注するかどうかは不透明だ」と報じた。
(関連記事)
●豪政府、次期フリゲート候補に海自もがみ型護衛艦を選出 海幕長「日本の装備品への高い信頼の表れ」と評価
●海自新型FFMは12隻を建造へ 2024年度防衛予算概算要求の主な注目点 #イージスシステム搭載艦
●海自もがみ型護衛艦搭載の水上無人艇(USV)運用試験が横須賀で始まる
●海上自衛隊の最新鋭もがみ型護衛艦搭載のUUV「OZZ-5」の詳細が明らかに