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トム・クルーズも手本にするヤバすぎアクションのレジェンド。傑作なのに日本で完全無視された一作について

水上賢治映画ライター
「おかしなおかしな大冒険」より

 これまで三回開催され、いずれも大好評のうちに終了した<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>(※以後、JPB傑作選)がいよいよグランドフィナーレを迎える。

 早いものでいまから3年近く前の2021年9月6日にこの世を去ったフランスの国民的俳優、ジャン=ポール・ベルモンド。

 俳優としては異例となるフランス政府主催の追悼式が執り行われたことからもわかるように、彼はフランスのみならず全世界に多大な影響を与えた映画スターだった。

 ところがなぜか日本ではいつからか忘れかけられた存在に。

 そこで映画史に名を残す偉大な俳優でありアクションスターである彼に再びスポットライトを当てようとスタートしたのが<JPB傑作選>だった。

 迎えた2020年の秋に第一弾が開催されるとコロナ禍にもかかわらず連日満席に。その反響を受ける形で翌年開催された第二弾もベルモンドのアクションをスクリーンで体感しようと多くの人々が劇場へかけつけた。

 続く2022年の第三弾は2021年に亡くなったベルモンドを追悼する開催に。このときも、ジャッキー・チェンやトム・クルーズらの挑むアクションシーンにも大きな影響を与えたベルモンド・アクションに劇場は大いに沸いた。

 そして、今回、第四弾の<JPB傑作選グランドフィナーレ>を迎える。

 「ルパン三世」や「コブラ」のモデルにもなり、現在に続くアクション映画の原点、お手本にもなっているアクションに果敢に挑んだジャン=ポール・ベルモンド。

 「グランドフィナーレ」と銘打たれた中で、最後にベルモンドの何を見せてくれるのか?

 本特集の仕掛け人、配給プロデューサーで映画評論家の江戸木純氏に過去三回に続き話を訊く。全五回/第四回

<JPB傑作選グランド・フィナーレ>の仕掛け人、江戸木純氏  筆者撮影
<JPB傑作選グランド・フィナーレ>の仕掛け人、江戸木純氏  筆者撮影

映画ってこんなに自由で意味がなくても成立するんだと感じられる

 前回(第三回はこちら)に続き、今回も本特集の目玉作品となる『おかしなおかしな大冒険』『ライオンと呼ばれた男』『レ・ミゼラブル』についての話から。

 まず『おかしなおかしな大冒険』から触れるが、本作でベルモンドが演じるのは、人気冒険小説家。

 現在メキシコを舞台にした新作を執筆中の彼が、同じアパートに住む美女に一目惚れしてしまう。

 そこからあらぬ妄想が始まり……。小説の主人公に自身を投影させた彼は、小説の中でジェームズ・ボンドばりのスパイになってメキシコで大暴れを繰り広げる。

 いわば小説家としての現実世界と、小説の中のヒーローとなった妄想世界と、二つの世界の主人公をベルモンドが熱演。

 現実世界と小説世界を往来しながらの痛快冒険大活劇となっている。

「これは『007』シリーズのパロディのような作品で、当時、人気を集めていたサム・ペキンパー監督の映画の影響があってか、バイオレンス描写でやたら過剰なまでに血が出る(笑)。

 それから、モンティ・パイソンのようなブラック・ユーモアの要素も垣間見えるところがある。

 手掛けたのは、『リオの男』『カトマンズの男』の名コンビ、フィリップ・ド・ブロカ監督。

 ド・ブロカ監督とのコンビの流れで言うと、『リオの男』『カトマンズの男』の次が、『おかしなおかしな大冒険』で、そのあと、『ベルモンドの怪盗二十面相』となり、最後のコンビ作となった『アマゾンの男』となっていく。

 この流れでみると、だんだん暴走度合いが強くなっていくというか、物語が壊れていくといいますか。どんどんバカバカしい喜劇ギャグ映画になっていって最後に集大成として『アマゾンの男』みたいな系譜になっている。

 『おかしなおかしな大冒険』は、もう完全に振り切っていて、バカさ加減が半端ない。バカバカしさに裏の意味があるとか、何かを風刺しているとかもなくて、ひたすらバカバカしい内容に徹している。

 いま、映画ってなにかメッセージや意味を求められがちですけど、そんなものはない。

 主人公がひたすら暴走しまくって最後のオチも『どういうこと?』といった感じで、深い意味はない。

 けど、ナンセンスさも突き抜けると、痛快で自由で楽しい。

 いろいろなことを考えさせられるのも映画の良さですけど、何も考えることなくその作品の世界に浸ってただただ楽しむというのも映画の醍醐味だと思うんですよね。

 『おかしなおかしな大冒険』はまさに、何も考えずに見て楽しめる作品。

 映画ってこんなに自由で意味がなくても成立するんだと感じられるのではないかと思って。今見た方が逆に新鮮じゃないかと思います」

「おかしなおかしな大冒険」より
「おかしなおかしな大冒険」より

まったく評価されてこなかったというかほぼほぼ無視された映画

 そういう意味で、ベルモンドの再評価にさらにつながっていく1作かもしれない。

「そうですね。

 <JPB傑作選>を続ける中で、ベルモンドの再評価や再発見の流れを作ることができました。

 『おかしなおかしな大冒険』に関しては、その極めつきといいますか。

 ある意味、日本の映画界において、まったく評価されてこなかったというかほぼほぼ無視された映画なんです。

 1974年の公開当時というのは、ブルース・リーのカンフー映画の大ブームで。前年は、『エクソシスト』でオカルト映画ブームが起きた。その後には、パニック映画のブームがある。

 そういう世界の映画の潮流がある中で、『おかしなおかしな大冒険』というバカバカしい喜劇が置かれたとき、完全に無視されてしまった。

 それで大コケしてしまったものだから、ベルモンドの映画は=当たらないというイメージになって悪循環に入り、20年後の『レ・ミゼラブル』になってもその負の連鎖は解かれることなく、大作なのに単館公開ということになってしまった。

 ある意味、公開当時、不幸な目に遭ってしまった映画なので、いまこそ負のイメージを抜きに改めて見ていただければいいなと思っています」

(※第五回に続く)

【<JPB傑作選グランド・フィナーレ>江戸木純氏インタビュー第一回】

【<JPB傑作選グランド・フィナーレ>江戸木純氏インタビュー第二回】

【<JPB傑作選グランド・フィナーレ>江戸木純氏インタビュー第三回】

<JPB傑作選グランド・フィナーレ>ポスタービジュアル 提供:エデン
<JPB傑作選グランド・フィナーレ>ポスタービジュアル 提供:エデン

<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選グランドフィナーレ>

詳細は公式サイト belmondoisback.com

全国順次公開中

「おかしなおかしな大冒険」の場面写真は(C)1973 / STUDIOCANAL-Nicolas Lebovici-Oceania Produzioni Internazionali Cinematografiche S.R.L. AllRights Reserved

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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