文政権が倒れるか安倍政権が倒れるかの戦争が始まった
フーテン老人世直し録(451)
文月某日
6月末のG20大阪サミットは「米中貿易戦争」が中心課題だった。日本の安倍総理は議長として会議の冒頭「対立よりも相互利益で持続可能な世界を実現することに努力したい」と述べ、米中首脳会談で更なる米国の制裁が見送られると、最終日に「自由貿易体制を維持していく基本原則で合意できた」と会議を締めくくった。
ところがG20が終わるや否や、7月1日に安倍政権は韓国向け半導体材料の輸出規制強化を参議院選挙公示日の4日から実施すると発表した。当初の説明は徴用工の問題や慰安婦問題などで韓国政府との信頼関係が崩れたことを理由に、これまで優遇してきた措置を見直すというものだった。
韓国の主力輸出製品である半導体の製造に欠かせない3種類の材料は、ほとんどを日本からの輸入に依存しており、しかも輸入額が5000億ウォン(664億円)なのに半導体製品としての輸出額は170兆ウォン(15.8兆円)に達する。つまり措置の見直しは日本の打撃が少なく韓国の打撃は大きい。
当初の説明からフーテンは、韓国の文在寅政権に反発を強める安倍総理の支持者たちを意識した参議院選挙対策と受け止めた。それは80年代に日本からの集中豪雨的な製品輸出で職を失い、貧困化したラストベルトの白人労働者の怨念から誕生した米国のトランプ大統領が、次の大統領選挙を意識し、貿易赤字の原因となる相手国に関税強化を打ち出す姿と似ている。
しかし日本の安倍政権に「トランプ外交」を真似できるのか、フーテンは疑問だった。トランプが傍若無人ともいえるやり方を押し通せるのは、世界最強の軍事力と、ドルが世界の基軸通貨であること、さらに世界の情報を操れるソフトパワーを有しているからだ。
米国という一強に立ち向かうには集団となって一致結束するしかないのだが、トランプはそれを分かっているから世界を分断し、二国間の交渉に持ち込んで米国を有利にしようとする。だから日本との関係でもTPPの枠組みから出て、日米二国間交渉に持ち込み日本から利益を吸い上げる。
その日米貿易交渉が始まる矢先に、いくら参議院選挙のためとは言え、外交力の弱い日本がトランプ流を真似して成算はあるのかという思いを前回のブログに書いた。ところがその後、韓国に対する輸出規制の理由が変化した。徴用工や慰安婦問題への報復ではなく、韓国が北朝鮮に生物化学兵器の材料を流していたからだという。その安全保障上の理由で日本は韓国に対する優遇措置を見直すと説明された。
安全保障の問題と貿易を絡めるのはそれこそトランプ流だ。トランプは去年、鉄とアルミの関税や自動車の関税を「安全保障上の脅威」を理由に引き上げると言った。中国からの輸入を制限する目的かと思ったら、同盟国に対しても同様の措置を採ると言う。EUやカナダ、メキシコがやり玉に挙がった。
安全保障上の味方である同盟国に対し、何が「安全保障上の脅威」なのか。トランプの考えは、鉄やアルミを自国で生産できなければ、つまり輸入をするようでは安全保障上の脅威になるというのである。
しかしカナダやメキシコとの間では、他の案件で譲歩が得られると、鉄とアルミの高関税は撤廃された。従って他の目的を達成するための「脅しの材料」という気がしなくもない。ともかく米国の鉄鋼業は遠い昔に衰退した。それを「米国第一」のトランプは、復活させると言えば、選挙民から喝さいを浴びると思っているようだ。
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