N国は伏魔殿NHKの闇に光を当てられるか
フーテン老人世直し録(454)
文月某日
「NHKから国民を守る党(N国)」が参議院選挙で一議席を獲得した。「NHKをぶっ潰す!」と叫んでキワモノ的な言動をし続けた政党が国政の場に橋頭保を築いたことになる。キワモノとしか見えない「N国」だが、しかしその主張はまさにこの国の権力構造の核心を突いている。NHKが潰れれば日本国家の構造はガラリと変わる。
NHKは公共放送とされ、受信料制度に支えられている。受信料制度とは公共の福祉のためみんなでNHKを支えていこうという趣旨で、「受信設備を設置した者には受信契約を結ぶ義務がある」という放送法を根拠に料金を徴収している。ただ契約を結ばない者を罰する規定はない。
戦前の大日本帝国は、ラジオ放送を電報や電話と同じく「公益性の高い事業」として民間を排除した。電報や電話は国家が運営し、ラジオは社団法人日本放送協会(NHK)に独占させて管理下に置いた。そして利用する国民から料金を徴収した。
戦後はGHQがテレビとラジオに民間企業を参入させる一方、NHKを社団法人から公共の福祉を目的とする特殊法人にし、政府や企業からの圧力を排除するという名目で受信料制度を採用した。電報と電話も特殊法人の電電公社が運営し、NHKと電電公社は同じ境遇に置かれた。
受信料制度によって政府や企業の圧力が排除されたのなら問題はないかもしれない。しかしフーテンが見てきた現実はまるで違う。むしろ受信料制度によってNHKは政府与党の圧力から逃れられない構造になった。
受信料は税金と違って支払う義務があるわけではないが、しかしNHKは何もしなくとも受信料が入ってくる。税金の使い道に国会が目を光らせなければならないのと同様に、受信料の使い道にも国会は目を光らせなければならない理屈になる。
そのためNHKの予算は国会の委員会で議員たちからチェックされる。それは株式会社の経営者が株主総会で株主からチェックされるのと同様だ。経営者は株主総会を乗り切ることが最も重要で株主の意向に逆らえない。零細な株主は無視出来ても大株主には逆らえない。
NHKにとって国会の委員会は株主総会である。そうなると野党は無視出来ても多数の議席を持つ与党には逆らえない。逆らえば予算が通らず、NHK経営者は更迭される。それを避けるため、NHKは与党幹部に職員を貼り付け、細かいところまで面倒を見る関係が生まれる。
一方で政治の側にもNHKを牛耳ることが権力への道だという認識がある。それは田中角栄が切り拓いた。田中角栄は39歳で郵政大臣になった時、官僚が躊躇する民放テレビ局の大量免許を果断に実行し、放送業界に隠然たる力を持った。日本中のテレビ局が免許を得るには田中詣でが欠かせないと言われた。
田中が総理になった時、朝日新聞社の陳情でNET(日本教育テレビ)という教育専門チャンネルを全国朝日放送に格上げした。そしてそれを機にその他の新聞社と民放との系列を完成させる。読売―日テレ、毎日―TBS、産経―フジ、朝日―テレ朝、日経―テレ東という系列が出来た。
それによって本来は政府の関与を受けずにいた新聞社が、政府の免許事業であるテレビと一体化したことで政府の意向を無視できなくなる。さらにメディア同士が相互批判することもなくなり、全体がもたれ合って国民を同じ方向に向かわせるようになった。
田中が逮捕されたロッキード事件で、当時のNHK会長が目白の田中邸に駆け付けたことが問題にされたが、当時のNHK会長人事と電電公社総裁人事は田中の意のままだった。逆に言えばNHKと電電公社は政治の権力闘争と無縁ではいられなかった。
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