参議院選挙の勝利者は山本太郎ただひとりである
フーテン老人世直し録(453)
文月某日
第25回参議院選挙は投票率が5割を割り込んだ。つまり半数以上の有権者が選挙に背を向けた。投票率が5割を割り込んだ前例は一つしかない。自民党が社会党の村山富市委員長を総理に担いだ自社さ政権下の参議院選挙だけである。
戦後日本の投票率は概ね6割から7割で推移した。自民党と社会党が万年与党と万年野党の役割を演じた55年体制ではその傾向が続いた。しかし冷戦が終わり、世界が激動期に入ると、日本の55年体制は世界の激動に対応できなくなる。
新たな政治の枠組みを求め、日本政治は混迷を重ねた。それにつれて投票率は5割台を推移するようになる。それでも5割を割り込むことは一度しかない。自民党と社会党が手を組んで権力を行使した一時期、1995年の参議院選挙で44.5%という前代未聞の低投票率になった。当時の国民は政治に期待する心を失っていた。
その後、2007年の参議院選挙と2009年の衆議院選挙で民主党が自公政権を破った時、投票率がそれぞれ6割弱と7割弱にまで回復した。国民の政治に対する期待が戻ったかに見えた。
ところが第二次安倍政権が誕生する2012年の衆議院選挙で6割弱の投票率を記録してから、安倍政権での2度の参議院選挙と2度の衆議院選挙は投票率がすべて5割台の下の方で低迷する。メディアは「安倍一強」ともてはやすが、国民はそれほどの期待を安倍政治に向けているように思えない。
そして今回の投票率は再び5割を切り、半数以上の国民が選挙に背を向けた。その結果は、メディアが「与党過半数確保」、「改憲勢力3分の2割る」と見出しを掲げたように、6年半の安倍政権は支持されたが、念願の憲法改正は難しくなったと解説される。
議席の数だけを見ればそういう話だ。しかし前提として半数以上の国民が選挙に背を向けた事実を忘れてはならない。フーテンは与党の勝利でも野党の敗北でもなく、与党も野党も敗北した選挙だと思う。それが今回の選挙結果だ。
なぜ国民は政治に期待する心を失ったのか。責任の第一は旧民主党政権にあるとフーテンは考える。冷戦後の自民党政権は米国による日本型資本主義改造要求を飲まされ続けてきた。構造協議や年次改革要望書によって世界一格差の少ない経済構造が変質を迫られた。
その経済要求の背後には軍事的に自立できない日本の弱みがあり、米国は軍事と経済を絡めるやり方で日本に隷属化を迫ってきた。旧民主党政権にはそうした隷属からの脱却が求められた。しかし鳩山政権は辺野古新基地問題で迷走の挙句に米国の言いなりになり、菅政権は米国から要求されたままTPPを受け入れた。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2019年7月
税込550円(記事6本)
※すでに購入済みの方はログインしてください。