日韓貿易戦争と思っていたら日本側の説明が二転三転する醜態
フーテン老人世直し録(452)
文月某日
前回のブログで「戦争が始まった!」と書いた対韓国半導体材料輸出規制強化は、日本政府の説明が二転三転しており、フーテンから見ると早くも腰砕けの様相だ。メディアがなぜかもてはやす「安倍外交」は醜態をさらし続けている。
輸出規制強化の最初の説明は、徴用工判決や慰安婦問題を巡り、日韓両政府間の信頼関係が崩れたことを理由に、安全保障上友好的な「ホワイト国」に指定されていた韓国を指定から外すというものだった。
それによって韓国の基幹産業である半導体製造に欠かせない三品目の日本からの輸出規制が強化され、結果として日本経済への影響は軽微だが、韓国経済には大打撃を与えることが予想された。
安倍総理や世耕経産大臣は、韓国の文在寅政権の対日政策に非があると主張し、その姿勢を改めない限り規制を強化し続けると言った。またそれは禁輸ではなく、日本国内のルールを変えるだけでWTO(世界貿易機関)が取り上げるべき問題ではないとも言った。
対する韓国政府は、直ちにこれを徴用工判決や慰安婦問題を巡る「歴史問題への報復」と受け止め、国際社会と連携して安倍政権と対峙する姿勢を見せる。WTOに提訴する構えを取り、政府高官を米国に派遣して政府や議会に働きかけを行った。
日本の世論は、文政権に代わってからのぎくしゃくした関係から、「悪いのは文政権で日本政府は毅然とした態度を貫け」との主張が大勢になる。輸出規制強化は圧倒的な国民の支持を得ているとメディアは報道している。
一方の韓国では、日本が不当な「貿易戦争」を仕掛けてきたとの認識から、日本製品の不買運動や日本旅行を取りやめるなど、若い世代を巻き込んで反日の国民世論が盛り上がる。
ところがすぐに日本政府の説明が変わった。文在寅政権がWTOや米国に働きかけを強めるのを見て、文政権は「問題を分かっていない。誤解している」と言い始めた。原因は徴用工判決や慰安婦問題を巡る日韓の政治的対立にあるのではなく、貿易管理の安全保障上の懸念があるためだと言う。
歴史問題を巡る政治的対立と貿易を絡めればWTOで問題にされる可能性がある。しかし安全保障上の問題となれば、WTOが口を差し挟む問題ではなくなる。そう考えたからなのか、安全保障上「不適切な事案」があるから韓国を「ホワイト国」から外すのだと言った。
しかし何が「不適切な事案」なのか、政府は具体的に言わない。ただ産経新聞には「生物化学兵器に転用できる日本からの半導体材料が韓国から第三国を経由して北朝鮮やイランに流れている」との報道があった。政府が書かせた記事と思われる。
そうした時点で、12日に日韓の事務レベル担当者が日本の経産省で会合した。日本側の極めて冷ややかな対応が日韓両国民に向けて放送され、会合の内容について両者の発表はまったく食い違う。それを見てフーテンは「戦争が始まった!」とブログに書いた。
「不適切な事案がある」と言うのなら、その事案を韓国に突きつけなければならない。韓国の杜撰な貿易管理によって、日本からの輸入品が北朝鮮やイランに流れていたことを証明できれば、国際社会に日本の非を主張した文在寅大統領は政治生命を絶たれる。
しかしそれが出来なければ、逆に貿易戦争を仕掛けた安倍政権が国際社会から断罪される。ところがここにきて再び日本政府の説明が変わった。杜撰な貿易管理を行っていたのは韓国政府ではなく日本政府だというのである。日本の民間企業が行っている韓国向けの半導体材料の輸出におかしなところがあるというのだ。
だからWTOで取り上げる問題ではないとの説明になる。何だかキツネにつままれたような話になった。日本政府は徴用工判決や慰安婦問題で、1965年の日韓請求権協定や前政権との合意を持ち出し、国際的な約束を履行するよう韓国に求めたが、文政権は聞く耳を持たなかった。だから輸出規制に踏み切ったのではなかったのか。
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