備蓄食品や飲用水「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 災害時の命綱、どう確保するか
九州で豪雨被害が相次いでいる。熊本県では、自衛隊による支援物資の配布が行われているものの、孤立している集落では手元の食料を分け合い、飲用以外は雨水でしのぐ状況も出ている(2020年7月7日付、毎日新聞)。飲用水や食料の確保が急務になっている。災害時、備蓄していた飲用水や食料の取り扱いについて、どんな点に気を付ければいいのか。食品ロス削減の観点も踏まえて紹介する。
賞味期限切れペットボトルのミネラルウォーターはすぐ捨てないで!
ペットボトルに入ったミネラルウォーターに表示されている「賞味期限」は、正確には賞味期限ではない。「内容量が担保できる期限」だ。長期間保存しておくと、ペットボトル容器を介して、中の水が蒸発する。「1リットル」「2リットル」など、明記してある内容量から欠けてしまうと、計量法に抵触することになり、販売できない。だが、外から穴が開けられるなどでなければ、ミネラルウォーターはろ過や殺菌の工程を経ており、期限を過ぎても飲める場合がほとんどだ。日本ミネラルウォーター協会の会長は「水の賞味期限は、表示された容量が確保できる期限です」と全国紙の取材で答えている。
2019年7月29日付熊本日日新聞の記事によれば、熊本地震の支援物資の飲料水130トンが、地震から3年経っても保管場所に山積みされていると報じられた。熊本市によれば、2019年の7月時点で、ほとんど賞味期限切れになっていた。
また、2019年9月12日付東京新聞夕刊によれば、台風15号の被害があった千葉県富津(ふっつ)市で被災者に配られたペットボトルのミネラルウォーターのうち、約1800本が賞味期限切れだった。市民からの指摘を受けて富津市がお詫びし、「飲用ではなく生活用水として使ってほしい」と呼びかけた。
地震や台風、豪雨など、自然災害が起こるたびに、「賞味期限切れ」の備蓄食料のことが報道される。「賞味期限」は、品質が切れる期限ではなく、おいしさの目安に過ぎない。
千葉県での事例を見ても、一般市民も、賞味期限のことを誤解しているし、行政もマスメディアも理解していない。みんなが誤解したまま、「飲めないもの」と誤解されて、貴重な水が全国で捨てられてしまっている。
賞味期限が過ぎた缶詰もすぐに捨てないで!
賞味期限が過ぎた缶詰も、すぐに捨てないでほしい。缶詰は真空調理してあり、外から損傷を受けたりしなければ、理論的には半永久的に持つものだ。缶それ自体の品質保持期限が3年間であるため、缶詰は3年間の賞味期限が設定され、缶詰の底にその賞味期限が印字されている。
食品保存に詳しい東京農業大学名誉教授の徳江千代子先生は、自身の実験で、味の濃いものやシロップ漬けの缶詰は15年以上、品質が保たれたという実験結果を得ている。ある缶詰メーカーの社員は、自社商品の缶詰は、「賞味期限が切れる頃、あるいは切れてから2〜3年のものしか食べない」と、NHKの缶詰特集番組で発言していた。
もちろん、備蓄していたペットボトルのミネラルウォーターも缶詰も、期限が切れる前に入れ替えをして適切に使われることが理想だろう。でも、もし期限が切れていたとしても、前述のことを知っていたら、災害時に限られた飲料水や食料を有効に使うことができる。
水・缶詰以外も「賞味期限」は2割以上短くなっている
ミネラルウォーターや缶詰以外の備蓄品の賞味期限も、実際は、2割ぐらい短くなっていると考えたほうがいい。
たとえばカップ麺。備蓄食としても、支援食としても、人気の食品だ。賞味期限を設定する各種試験をおこない、10ヶ月程度おいしく食べられる期間がある(=賞味期限)と分析されると、企業は、その期間に対し、安全係数という1未満の数字をかけて、実際の賞味期限を設定する。
消費者庁は、0.8以上1未満の数字を推奨しているが、これは義務ではないため、ある分析機関では0.7〜0.9を使っているし、企業によっては0.5〜0.7を使う場合もある。つまり、いずれにせよ、リスクを考慮して2割以上短めになっているということだ。
それを推測するためには、食べ物が製造されてからどれくらいの賞味期限になっているかを知っておく必要がある。缶詰なら2年間、パスタなどの乾麺なら2〜3年、レトルト食品なら1年以上など、ざっくり覚えておけば、多少過ぎたからといって即座に捨てなくていいということがわかるだろう。
個人の支援は食料でなくお金を
すでに報じられているが、個人からの支援は、食料を含めた物資ではなく、お金にしたほうがよい。被災地の状況は、秒単位で変わっていく。手配した物資が現地に届いたときには、もう必要なし、という場合もある。
物は、自動的に困っている人に届くわけではない。それを運んだり仕分けしたりするのは「人」だ。混乱している被災地に、善意の名のもとに、一方的に物を送りつけるのは迷惑になってしまう。
熊本地震でも「現地ではまだ受け入れ体制が整っていないため、送らないでほしい」と報道があった(2016年4月16日付、毎日新聞)。
東日本大震災では筆者も支援活動をした。食料品と衣類や衛生用品をごっちゃにして一箱で送ったり、衣類もサイズがわからなかったりすると、被災した人たちが仕分け作業をしなければならず、負担をかけてしまう。いずれにせよ、要請があるまでは、善意はお金の形がよい。
参考:
被災地支援、まずはモノよりお金 個人の物資は負担にも(朝日新聞)
支援金はすぐに使えるメリットが
お金を寄付する場合、大きく分けて自治体などが募る「義援金」と、被災地支援団体に寄付する「支援金」がある。義援金は、配分までに時間がかかる。「支援金」を活動団体に直接寄付すれば、使えるまでの時間は早い。
外国籍やアレルギーの方への配慮も
熊本地震から2年のタイミングで書いた記事でもまとめたが、外国籍の方やアレルギーの方への配慮も必要だ。いざ災害が起こってからは、なかなか冷静に対処することは難しい。被災していない方は、ぜひ、災害時の食の支援について、この機会に目を通していただけるとありがたい。
参考情報
熊本地震から2年 3.11の支援の経験から食品ロス削減の観点も含め、食の支援で必要と考える10ヶ条
豪雨災害に備えるガイドブック たすけあいセンター「JUNTOS」認定NPO法人茨城NPOセンター
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賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?(産経新聞)
令和2年7月大雨災害への緊急災害支援募金(Yahoo!基金)
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