警視庁が「飲料水としてダメ」とした水は飲用可能 ペットボトル水の賞味期限は飲めなくなる期限ではない
筆者の元に、記事を読んだという読者の方から一通の手紙が届いた。台風15号や19号の被害により、今なお避難生活を余儀なくされている状況を見て、いてもたってもいられない。期限の切れた備蓄水を「飲めない」といってムダにしないで欲しいと、そのような広報をしている警視庁に嘆願したが、その主張がかなわなかった、という内容だった。
ペットボトルの水に表示された期限は飲めなくなる期限ではない
筆者が書いた記事とは、ペットボトル容器の備蓄水の期限表示が、実は飲めなくなる期限ではないことを指摘した内容だった。
熊本や千葉など、地震や台風の被害を受けた被災地で、大量の賞味期限切れの水を抱えた自治体が、困ったあげく、花壇の水やりや足洗いに水を消費していることを知り、書いたものだ。知らなかった方が多いようで、驚くほどのアクセスがあった。
賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解
なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは
「ペットボトル水の期限は表示容量が担保できる期限」
2018年7月3日付の産経新聞の記事、賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?では、日本ミネラルウォーター協会の事務局長が「水の賞味期限は、表示された容量が確保できる期限です」と答えている。ペットボトルのミネラルウォーターに表示してある期限は、長期間の保存期間中に、容器を通じて水が蒸発し、表示量が担保できなくなるために設けられた期限なのだ。
食品を製造・販売するためには、食品衛生法や食品表示法など、様々な法律を遵守する必要がある。それら法律の一つが「計量法」だ。表記した容量を守らなければ、計量法違反となる。
ガラス瓶入りの水なら国の規定で賞味期限を書かなくてもOK
ペットボトルではなく、ガラス瓶に入れて製造・販売されている飲料水は、品質の劣化が極めて少ないとして「賞味期限表示が省略できる」と国が決めているほどだ(消費者庁の加工食品の表示に関する共通Q&A、Q5より。飲料水及び清涼飲料水、ただしガラス瓶入りのもの【紙栓をつけたものを除く】は省略できる)。
品質の劣化が少ないガラス瓶入りの水は、賞味期限の表示がなくてもOK。
中身は同じ水で、容器が異なるだけのペットボトル水。期限が表示してあるのは、保存期間中に水が蒸発するため。
もちろん、きちんと保管されていなかったために、ペットボトル水で品質劣化が起きる可能性はゼロではないだろう。でも、その場合でも、五感で判断して飲むことは可能ではないだろうか。
警視庁は「期限の切れた保存水、飲料水としてダメでも生活用水として十分使えます」
手紙を下さった方は、警視庁の災害対策課ベストツイート集にある、期限の切れた水の使い道について述べていた。
警視庁のツイート集には次のように書いてある。
2017年8月23日に投稿されたツイートだ。
このツイートを書いた警視庁の方は、「賞味期限切れの水=もう飲めないから生活用水として使う以外ない」と信じていると思われる。前述の「備蓄水は長期間保存すると水が蒸発し、内容量が担保できないために記載してある期限」ということをご存知ないのだろう。無理もない。ほとんどの国民はこの事実をきちんと知らされていない。なぜか?事実を知ることで、誰かが損するからだろう・・・か。
全国の方が警視庁のツイートを読み「期限の切れた水は飲んではいけない。飲まないで、花壇の水やりや泥水のついた手足を洗うのに使えばいい」と理解する。そして、十分に飲用可能な水が、飲用されずに浪費されていく。
実は、このツイートに対し、事実を把握している一般の方から
と投稿されている。が、この返信を受けても、警視庁警備部災害対策課は、事実をきちんと調べなかったと思われる。
水は命の綱
今回、手紙を下さった方は次のように述べている。
警視庁警備部災害対策課の方々は、今この瞬間に自然災害が発生して目の前に賞味期限切れの水しかなかったとしても、「賞味期限が切れているから」という理由で、自分たちも飲まないし、市民にも決して飲ませないということであろう。
十分飲用可能な水をバンバン浪費しておいてSDGsも何もあったものではない
目の前の日本だけでなく、世界を見ると、基本的な飲料水のサービスを受けられていない人が7億8,500万人もいる(国連広報センターによる)。
世界の20億人は、深刻な水ストレスを抱える国で暮らしている。
千葉の台風の際も、市が誤って賞味期限切れに気づかず、一年以上、賞味期限が過ぎているペットボトルの水を配ったため、市民から苦情が来て、それを受けた市が謝罪し、それを新聞が報じた。市民も自治体もメディアも、水の賞味期限が飲めなくなる期限であることを把握していない。
最近、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)のバッジを背広やジャケットに付けるのが流行っている。筆者も間伐材(日頃、捨てられてしまう運命にある木材)で作ったSDGsバッジを講演で登壇する時やメディア出演の時につけている。でも、いくらSDGsバッジを誇らしげに胸につけていても、肝心の行動をしていなければ、それは「SDGsウォッシュ(SDGsをやっているフリ)」に過ぎない。
「賞味期限切れの水を勧めるなんて」と、おそらく食品安全を重視する界隈からは批判があると思う。でも、水が飲めなくて命を失うリスクを抱えた人が世界中に億単位でいるのに、「内容量が担保できない」という理由で設けられた期限を杓子定規に守ることが正しいことだろうか。
国は「賞味期限が切れた食品がすぐに食べられなくなる訳ではありません。期限表示の意味を正しく理解して、これからも食品の無駄を減らしましょう!」と勧めている。
食料の不足する災害時ですら期限切れの水を飲まないで処分することが、はたして地球人としてすべきことなのだろうか。ここ最近、日本は世界の中で恥ずべき言動が目立っている。せめて飲用可能な水は、足を洗ったり花壇にまいたりする前に、人間が飲むことに使おうではないか。