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コンビニにクリスマスケーキは必要?コンビニ取材で垣間見た季節商品販売の実態

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

ファミリーマートがクリスマスケーキ完全予約制、ただし店頭販売も認める

2019年9月17日、ファミリーマートがクリスマスのケーキやチキンを完全予約制にすると発表した。2019年9月17日付の朝日新聞が報じていた記事によれば

ただ、売り上げが減ることを心配したフランチャイズ店が店頭販売を希望する場合には認めるという。

出典:2019年9月17日付朝日新聞

とある。

はたして、これを「完全予約制」と謳っていいのかわからないが、2019年9月17日付のファミリーマート発表のプレスリリースでは「完全」とまでは断言されていない。他のメディア記事では「完全予約制を推奨」と書いてある。あくまで原則としてであり、全店舗の扱う全てが完全予約制になったわけではないようだ。

「うなぎの廃棄金額80%減」そんなに捨てていたとは

ファミリーマートでは、2019年7月の土用の丑の日、うなぎを「原則」完全予約制にしたところ、廃棄金額80%減、売上総利益70%増となった。2019年8月16日付の日本経済新聞でも報じられている。今回のクリスマスケーキも、うなぎの事例にならうとのこと。ちなみに、うなぎの時も100%の完全予約制ではなく、当日の店頭販売を希望した店舗はそれを認めたそうだ。

うなぎを基本予約制にして廃棄を減らし、利益を増やしたことは、ある一定の成果だし、良い流れだと思う。が、逆に言えば、「廃棄金額80%減」とは、これまでそんなに捨てていたのか、とも思う。先日、筆者が出演したテレビ番組のディレクターは「これで『うちはロス減らしてますよ』と言われても、ねえ」とおっしゃっていた。

うなぎの中でもニホンウナギは2013年に絶滅危惧種に指定され、コンビニのセイコーマートは翌年2014年に、うなぎの販売からさんまの蒲焼き丼に切り替えている。2014年7月のセイコーマートの赤尾昭彦会長の発言を読むと、対応の早さと本気度が伝わってくる。

2019年11月21日放送のNHKニュースウオッチ9で放送

2019年11月21日に放送されたNHKニュースではこれを取り上げた。筆者もNHKニュースウオッチ9に収録で出演し、コメントした。

予約制を導入することは、「作り過ぎない」「売り過ぎない」ことにつながり、食品ロスの発生源を減らすことになる。

Twitter上では評価をする声も多く、「働き方改革でもある」「これがあるべき姿」「なんでもっと早くやらなかったの?」などと投稿されている。

コンビニ取材で垣間見た季節商品販売の実態

筆者はコンビニ大手の加盟店オーナーや店長に取材したことが何度もある。下記は、そのうちの1回のやりとりだ。店長とオーナーに伺った。

店長:おでんなどの季節ものの商品に関して、特別発注というのがあるんです。われわれは「特発」と呼んでいます。

オーナー:おでんは9月1日からセールが始まります。本部は「その2週間ぐらい前に9月1日用の商品を発注してください」と。2週間前なんて、誰が何を買うか分からないのに。

(筆者注:2019年は、おでん販売の開始時期がさらに前倒しになり、このコンビニでは連日最高気温30度を超える8月6日からスタートした)

店長:特別発注は、だいたい納品の2~3週間前発注なんです。実際、来たときには(状況が違ってしまい)さあ、どうしよう?となるんです。これ、売り切る努力をしないとだめなんですけど、見切り販売(筆者注:消費期限が迫った食品を値引きしての販売)ができない人たちは、たぶん、ほとんど捨てています。発注の強要が入るんで。

オーナー:本部は「前年比」も絶対言いますから。「去年、これだけ数字があります。今年はどうします?」と。

店長:9月1日や2日には、通常の発注ができない形になるんで。その分を(前もって)取らざるを得ない状況に(本部が)もっていっているんです。

オーナー:これが、おでんにケーキに恵方巻に・・・。

ーおでんにケーキに恵方巻にうなぎ・・・。

店長:通常発注だと天気とか予想できますよね。例えば台風が来るとなったら、やっぱり発注抑えるじゃないですか。特発だと、2〜3週間先の天気なんか分からないので。

ー100%予測は難しいですね・・・。

店長:そのときに台風でも来てしまえば、ぽんぽんぽんぽん、(おでんの)卵捨てるでしょう?

オーナー:そうなるでしょう。

店長:そういう現象が起きていると思うんです。見えないところで。仮説じゃなく、現実にあると思います。

オーナー:恵方巻は、店だけじゃなくて、社員もすごい買わされるんです。結局、その人、退職したんです。

ーへえ。

オーナー:恵方巻、本部は「別にそんなの強要してない」って。いやいや、買わされてたじゃない。

店長:10万円分ぐらい、自腹で買わされて。

ー10万円分!

オーナー:おでんも、ちょうど8月の時期にやって、「500個ぐらい買わないとだめです」と言っていましたから。

ー本部社員?1人で?

オーナー:そうそう。直営店の店長と。

店長:今、離職率がはんぱないと言ってました。

オーナー:本部社員もかわいそうです。若い子は、いじめたらかわいそうと思ってますけど。

店長:半分は、すぐ辞める。中途採用者のほとんど辞めるね。

便利を享受する裏側で失っているもの

販売側は、いわば、水道の蛇口が開けっ放し(作り過ぎ、売り過ぎ)になっていたのを締める形だ。

一方で、その「水」を受け取る消費者側は、「いつでもどこでもなんでも買える」という便利さを享受する裏側で何が起こっているかを認識する必要がある。

たとえば、廃棄が多いということは、消費者側は、事業者が払う廃棄コストも食料品価格で負担させられているということ。企業は赤字を出してまで経営し続けられない。

世界共通の環境配慮のキーワード「3R(すりーあーる)」で最優先は「Reduce(リデュース)」。いわば水を出しっぱなしの水道の蛇口を締める。ごみやロスを出さない、廃棄物の発生抑制(3Rの原則から筆者作成)
世界共通の環境配慮のキーワード「3R(すりーあーる)」で最優先は「Reduce(リデュース)」。いわば水を出しっぱなしの水道の蛇口を締める。ごみやロスを出さない、廃棄物の発生抑制(3Rの原則から筆者作成)

店頭の売れ残り廃棄コストは消費者も負担させられている

クリスマスケーキや恵方巻きなど、店舗での売れ残りの廃棄コストを負担するのは100%事業者だと勘違いしている人が多い。

産業廃棄物と違って、店の売れ残りや飲食店の食べ残しは「事業系一般廃棄物」という区分だ。多くの自治体では家庭ごみと一緒に焼却処分される。そのコストは税金だ。

2000年からごみほぼ半減を果たした京都市ですら、コンビニ・スーパーのごみの54%は生ごみ

京都市の事業ごみの分け方・減らし方によれば、コンビニ・スーパーから出るごみのうち、54%が「厨芥(ちゅうかい)類」と呼ばれる生ごみだ。飲食店でも同様の数値となっている。京都市は、全国でも、ごみの少ない自治体だ。2000年には81.5万トン/年あったごみを、現在では、ほぼ、半減を果たしている。

全国の中で、ごみを減らす先進自治体と言われる京都市でも、これだけの売れ残りや食べ残しが事業者から出ている。いわんや他の自治体をや・・・だろう。

京都市の小売業(スーパー・コンビニなど)のごみ組成(京都市発行資料「事業ごみの分け方・減らし方」より)
京都市の小売業(スーパー・コンビニなど)のごみ組成(京都市発行資料「事業ごみの分け方・減らし方」より)

便利を提供するために無理を強いられる販売店

便利を享受する裏側では、販売店など、一部の人たちに我慢や無理を強要している。欠品、つまり棚にない状態を防ぐためには、コストがかかる。必要量以上に製造せざるを得ない。

恵方巻きやクリスマスケーキのノルマの話も、今では多くの人に知られるところとなった。

恵方巻きの処分は、店頭のものだけでなく、製造工場からも出荷されなかったものも(日本フードエコロジーセンター提供)
恵方巻きの処分は、店頭のものだけでなく、製造工場からも出荷されなかったものも(日本フードエコロジーセンター提供)

平均世帯人数2人プラスアルファの現在、購入当日しか消費期限のない、丸い大きなクリスマスケーキは必要なのか

厚生労働省の国民生活基礎調査(平成28年)によれば、「平均世帯人員」(平均世帯人数)は年々減少し、2.47人となっている。ほぼ2人と半分。小数点以下を切り捨てれば2人だ。

しかも、ケーキは、購入当日に消費期限が切れる。もちろん、短めに設定されている背景はあるにしても、「本日中にお召し上がりください」とされるケーキ。講演の時に「当日中に食べきってますか?」と聞くと、多くの人は「残して翌日にも食べる」と答える。消費期限を過ぎたケーキを食べることになる。世帯人数が2〜3人の今、大きなものを買う必要があるのだろうか。

「年に一回の楽しみ」ということであればいいが、にわとりが24時間かけて1個しか産めない卵を大量に使って作られているわけで、捨てる前提で欠品防止で大量に作るのは、もう時代にそぐわない。

2019年8月19日付、不破雷蔵氏のコンビニ来訪客の年齢階層別分布をグラフ化してみる(最新)を見てみると、コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンの来訪客年齢階層がグラフで示されている。傾向のまとめとして「コンビニの来客は確実に高齢化している」とあり、1989年には9%に過ぎなかった50歳以上の層は、2017年には46%と、半数近くを占めるまでになっている。

世帯人数が減った現代にふさわしいコンビニの「100円おせち」

世帯人数が減った現代にふさわしい季節食品では、と思うのが、コンビニのローソンストア100が展開する100円おせちだ。筆者は買ったことがないが、朝日新聞の記事によれば、2009年からの累計で550万個を売ったという。

2万円・3万円するおせちは、それこそ「完全予約制」だ。元旦の当日になって、急に思い立って3万円のおせちを店に買いに行く人は、あまりいないだろうし、当日に店頭で売っている店も限られているだろう。

気軽に、少量で、季節感を味わう、ということであれば、100円おせちは一つの選択肢と言える。

ケーキも、大きな丸いものでなく、家族1人ずつ、小さなサイズの違う種類をそれぞれが選ぶのも楽しいだろう。

平成も終わり、元号は令和になった。昭和の「大量生産・大量販売」の時代とは、もう違う。

SDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHP)
SDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHP)

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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