「本部の圧力・ノルマ・強要」合法ならOKの奢り 経産省コンビニ調査が表すESの低下と持続可能性の欠如
2019年3月26日、経済産業省が実施したコンビニ調査2018の結果が発表された。
2018年12月7日に経済産業省の公式サイトで発表されたこの調査、もともと2019年2月末日が締め切りと設定されていた。
だが、2019年2月中旬、大手コンビニ各社から全国の店舗への通知が十分でないことを弁護士ドットコムが報じ、急遽、2019年3月24日まで締め切りが延長された経緯があった。
回答率37%、パスワードは経産省に電話すれば教えてもらえた
コンビニ調査2018(正式名称:コンビニエンスストア加盟者向け調査2018」の調査対象は、日本フランチャイズチェーン協会加盟8社の加盟店オーナー(国分コミュニティストア、セイコーマート、セブンイレブン、デイリーヤマザキ、ファミリーマート、ポプラ、ミニストップ、ローソン)。
対象者約30,757人に対し、11,307の回答が得られた(回答率37%)。
調査は、協会および本部を経由して加盟店オーナーへ通知され、オーナーが経済産業省設置のウェブページに直接、回答を入力した。
回答するには数字4桁とアルファベット1文字から成るパスワードが必要だった。だが、2019年2月に通知が来ていないことに気づいたオーナーが経済産業省に電話して店名を言うと、すぐに電話口で教えてくれる程度のものだった。
2019年2月14日、筆者が前述のオーナーに直接聞いたところ、この時期、本部からの通達が十分でなかったため、経産省には全国のオーナーから電話が殺到しており、経産省の担当者は「加盟店からの問い合わせが多い」と話している。
なお、筆者も質問と回答の選択肢を見ることができた。選択肢は「よい」の方が回答が多く、「悪い(不満)」の項目が1つしかないという不公平さだった。一般的には、「どちらでもない」を真ん中にして、5者択一あるいは7者択一など、良い方と悪い方の項目の数を同じに設定する。調査のプロならあり得ない設定の仕方で、素人が見てもクエスチョンマークが付いた。この点は、国会議員やコンビニオーナーはじめ複数の人が指摘している。
「人手不足」は2014年の3倍近くに増加
人手不足に関する設問では、前回2014年度の調査と比較して、「従業員が不足している」が22%から61%へと3倍近くに増加している。回答の選択肢が2014年度と2018年度と一致しておらず、厳密には比較することはできない。2014年度には「不足して従業員不足の目処なし」と「不足だが従業員補充の目処あり」を加えての22%なので、実際には、2014年度の「不足」は22%より低かった可能性もあり、より深刻な状況が増えたとも推察される。
「加盟したことに満足していない」が2014年の2倍以上に増加
加盟したことへの満足度に対しては、2014年度には「大変満足」(21%)と「おおむね満足」(48%)が足して69%だった。2018年度には「大変満足」(8%)は半分以下に減少しており、「おおむね満足」(45%)と足すと53%という結果となった。
「満足していない」と答えた数は、2014年度の17%から、2018年度は39%へと、2倍以上に増加している。
「契約更新したい」は68%から45%へと減少
契約を更新したいかどうかの意図について、これも2014年度と2018年度で回答の選択肢が微妙に異なるので、厳密には比べられないが、「経営を続けたい」が2014年度には68%、2018年度には45%に減少している。「経営を止めたい」が2014年度に17%、「更新したくない」が2018年度に18%。
回答には「本部の圧力」「発注ノルマ」「廃棄額の強要」の文字が並ぶ
自由記述を見ると、コンビニ本部が主張している「本部と加盟店主(オーナー)とは対等」と現実とに齟齬(そご)があることがわかる。
たとえば、加盟したことに満足しているかどうかの設問に対しては、次のようなコメントが並んでいる。
- 廃棄の強要
- 本部との力関係が不平等
- 本部のサポートが不足・本部とのコミュニケーションが困難
- 自らの営業成績upを目的として本部指導員の指導
- ロイヤリティの高さ・手元に残る利益の少なさ
- 発注ノルマ/廃棄額の強要/一定在庫額の強要(の見直しを求める)
など。
契約更新への意志を問う設問には、次の回答が並んでいる。
- ロイヤリティを勝手に上げられた
- 本部の圧力/ロイヤリティが高すぎ
- 利益が得られない
- 休みが取れない、体力的に限界
- 本部の圧力/契約打ち切り(が不安)
- 低利益/高いロイヤリティ/ドミナント(近隣に他店舗を出店されること)による売り上げ減少(が不安)
- 24時間営業の継続/休みの取得が困難(なのが不安)
など。
ES(従業員満足度)の低下と持続可能性の無さが明らかに
一部の大手コンビニ本部は「加盟店主(オーナー)と本部は対等」と主張しているので、オーナーは労働者ではないのかもしれないが、今回の結果は、明らかにES(労働者満足度あるいは従業員満足度:Employee Satisfaction)が低下している。
2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)では、持続可能性を追求することが世界の組織や個人の使命であることが明確化されている。が、この結果では、持続可能性があるとは言い難い。
ハードローでは合法でもソフトロー対応を誤ると企業の存続は危うい時代へ
オルタナオンラインでアクセス1位となっている、オルタナ編集長の森摂氏の記事、東洋経済CVS記事に補足したい「ソフトロー」視点は、今の時代に必要なことへの示唆を与えてくれている。
日本企業が重視する「コンプライアンス」は、ハードロー(硬い法律)のみを意識したものが多い。合法であればいい、という考え方だ。
それに対し、「ソフトロー(柔らかい法律)」、つまり社会からの要請や意見、批判などは、「広義のコンプライアンス」と称される。前者は「狭義のコンプライアンス」。森摂氏は、
と述べている。
「合法だからOK」ではないのである。
筆者の記事に対し、「そもそもコンビニ会計は違法じゃないし、ここを攻めても意味ないんだけど。」とつぶやいている方がいらっしゃった(2019年3月29日現在、当該ツイート削除)。
コンビニ会計は、見切り販売して売り切るより廃棄した方が本部の儲けが大きくなる、コンビニ独自の会計システムだ。
ただでさえ食料自給率が低く、世界各国から多額の費用とエネルギーをかけて輸入した貴重な食資源を、活かさずに棄てる方が儲けが大きくなることが、現行の法律では合法となっている。「合法ならOK」なのだろうか。
合法ならOKで問題ないのなら、なぜ経済産業省は多額の税金を投入して今回のコンビニ調査を実施したのだろうか。今回の調査項目の中には、廃棄食品に関するものも含まれている。何の問題もないなら数千万円の税を投じてわざわざ全国規模で調べる必要はないのでは?
森摂氏なら、ソフトロー視点の欠如を指摘するであろう。
現行の法整備では不十分だから超党派の議員連盟が発足し法案が動いている
前述調査の回答に「廃棄額の強要」とあった通り、一部のコンビニは、食品ロスを排出する代表格だが、この廃棄を規制する一つである食品ロスの削減に関する法律案が動いている。超党派による議員連盟も発足している。
なぜか。
現行の法律では十分でないから、ではないのだろうか。
「違法じゃないから問題ない」では済まされないのである。
「ノブレス・オブリージュ」とは、「人の上に立ち、権力を持つ者には、その代価として身を挺してでも果たすべき重責がある」とする考え方である。
「違法じゃないからOK」という開き直りは、社会的に弱い立場の人に寄り添って彼らの意向を汲もうとしない、強者の奢りだと考える。