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コンビニの夏おでんは必要?あるテレビ番組の視聴者投票では84.2%が「不要」

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

テレビ番組の視聴者投票では84.2%が「コンビニ夏おでんは不要」

2019年11月16日、TOKYO MX『田村淳の訊きたい放題!』に生出演した。この日のテーマは「コンビニの夏場のおでんは必要?」。視聴者からの投票結果が番組の最後に紹介された。

2019年11月16日 TOKYO MX『田村淳の訊きたい放題!』出演者(番組公式サイトより)
2019年11月16日 TOKYO MX『田村淳の訊きたい放題!』出演者(番組公式サイトより)

結果は、「必要」が1,214pt(ポイント)。「不要」が6,476pt(ポイント)。84.2%が「不要」と答えた。司会の田村淳さんも「要らないでしょ」と言ってコーナーを締めた。

販売開始時期が年々早まりセブンとローソンは2019年8月6日からスタート

筆者がコンビニ取材を始めたのは2017年。欠品を許容しているスーパーマーケットの取材を企画し、Yahoo!ニュース個人編集部に提案したところ、「スーパーだけでなく、コンビニも取材しては?」と勧められたのがきっかけだ。

当時は、おでんの販売開始は、お盆より後だった。ところが、年々、おでんの販売時期は早まっている。2019年は、セブン-イレブン・ジャパンとローソンが8月6日から開始した。

日本気象協会「おでんは最高気温30度を下回らないと売れない」

筆者は、2社がおでん販売をスタートさせた翌日の2019年8月7日、なぜ猛暑にコンビニおでん売る?連日最高気温30度超え 日本気象協会は「最高気温29度以下で売れる」という記事を書いた。

この記事で、日本気象協会の気象予報士、小越久美(おこし・くみ)さんは、「おでんは最高気温が30度を割り込んでから売れる」と話している。

気象庁の公式サイトで2019年8月の東京の最高気温を調べると、30度を下回ったのは、8月下旬の6日間しかない。しかも、その6日間の平均最高気温は28.6度で、30度と1度ちょっとしか変わらない。

2019年8月、東京の最高気温(気象庁公式サイトより2019年8月分のデータを引用)
2019年8月、東京の最高気温(気象庁公式サイトより2019年8月分のデータを引用)

案の定、2019年8月は、コンビニでおでんが売れ残って廃棄するという声や、無断発注の件を、お会いしたオーナーから聞いただけでなく、ツイッター上で何度も目にした。2019年8月中旬には、ツイッター上で「社員が上から圧力をかけられ、無断でおでんを勝手に発注入れる件が相次いでいる」と投稿されている。

日本気象協会は、2019年7月の気温が上がらないことも予測し、筆者の取材で警鐘を鳴らしていた。異常気象の昨今だが、前もって、ある程度の気象情報を予測できるわけだから、それに従って売る時期や売る量を調整できる。先進的な食品企業は既に実行しており、豆腐メーカーが年間2,000万円の食品ロスを削減できた事例も筆者の記事やテレビ番組で公開されている。予測できるのにそうしないのでは、遅れていると言わざるを得ない。もしくは、自然気象よりも「俺たちの都合が先決」なのだろう。

店舗オーナー不在時に無断発注 セブン-イレブンで横行

経験のあるオーナーは、夏の時期にはおでんが売れ残るということがわかっている。だから、什器(じゅうき)もおでんも発注しない。なのに、無断で発注される事態があり、セブン社員2名が懲戒処分となった。筆者も記事でコメントを書いた。

おでん「ほとんど定価で売れない」

前述の番組に一緒に出演した流通ジャーナリストの渡辺広明さんは、冬に実施したおでん70円セールでは、店内の声がけもした結果、1日に1,000個売れた例もあると話した。逆に言えば、夏場に定価で売っても売れない(売れづらい)ということだろう。渡辺さんによれば、おでんは1日100個以上売れないと採算がとれないそうである。

2019年8月7日のおでん記事では、筆者が取材したファミリーマートの事例を書いた。オーナーの高中隆行さんは、下記のように答えている。

高中隆行さん:おでんは全然もうからないです。おでんは、食べ頃、もうじっくり煮えているのを、「これはもう駄目ですね」と(販売期限で)処分しますから。食べ頃なのに、「もう販売時期を超えている」と。それはそうだけど、今、ここで食べるんならいいんじゃないの、と思いますけれどもね。

セブン-イレブン・ジャパンのオーナー複数にも取材したが、多くは売れ残ると話していた。下記は、8月に取材した時の会話の一部である。

ーあれはどうですか?おでんとかフライとか。

店長:おでんとフライヤーは、なるべく8割ぐらい、見切って(値引きして)売っています。ほとんど、定価で売れないんで。

ーおでん、100円くらいですよね?1個。

店長:そうです。百何十円というのもある。200いくら、というのもあります。

ーそれを値下げして。

店長:値下げします。見切り品をそんなに仕込まないです。正直。今は暑いですけど、冬ですと、おでんでしたら、やっぱり早朝は売れないんで、昼前にちょこっと、あと夕方、夜にかけて。余ったやつは、見切って。

オーナー:おでん鍋が2つあるとしたら、こっち側は全部古いやつを集めて「70円均一」と書いて。こちら側は新しいおでん。それでも、味が染み込んでいるのが好きな人は、70円に値引きしたのを買っていく人もいます。

コンビニおでんはバナナと一緒

前述の番組で、筆者は「コンビニおでんはバナナと一緒」と話した。おでんや揚げ物は、「何時間経ったら廃棄」という規定がある。おでんは、一定時間煮込むと、味が染みる。その、味が染み込んだ時が、ちょうど捨てるタイミングと重なるのだ。

バナナも同じで、茶色いシュガースポットが出た時が熟して香りや味もよく、体によい成分も多いのに、茶色いバナナはスーパーでは廃棄処分される。

スーパーで廃棄処分されるバナナを引き取りアイスに商品化したスウェーデンの会社のバナナアイス(株式会社ワンプラネット・カフェ撮影)
スーパーで廃棄処分されるバナナを引き取りアイスに商品化したスウェーデンの会社のバナナアイス(株式会社ワンプラネット・カフェ撮影)

社長自ら朝4時起きで買い付け、「自分が美味しいと思うものを買う」スーパー

父親の代からスーパーマーケットを経営している、福岡県柳川市のスーパーまるまつ。取材に伺った際、社長の松岡尚志さんは、「朝4時起きで市場に行く。自分が美味しそう、食べたいと思うものを仕入れるため」と語っていた。

スーパーまるまつ。看板はカタカナだが公式サイトはひらがな(筆者撮影)
スーパーまるまつ。看板はカタカナだが公式サイトはひらがな(筆者撮影)

先日、ビジネス番組に出演した株式会社田園プラザ川場の代表取締役社長、永井彰一氏。レストランの厨房に自ら立ち、そこからお客さんの表情や、何を食べ残しているかを見ている様子が紹介された。

彼らは、社長だからといってデスクの前でふんぞり返るのではなく、自ら、現場に出向いている。自分が美味しいと信じるものだけを商品として売っている。商売の基本は、「自分がよいと思うものを売る」ことではなかったか。

コンビニ社員は8月6日からおでんを食べているのか?

2019年の8月6日からおでんの販売を始めた大手コンビニ。この企業のトップや社員たちは、連日、最高気温30度を上回る中、おでんを食べていたのだろうか?

一部のコンビニでは、毎日、食べ物を捨てている。価値のあるものなら捨てないだろう。毎日捨てているということは、価値のないものを売っているということになってしまう。実際は違うだろう。売れ残ったものの金銭的リスクの大半が本部ではなく、店舗オーナーがかぶる「コンビニ会計」の現状では、本来、価値のあるものまで、ごみになってしまわざるを得ない。

良心にそった商売を

人生を終えるとき、「これで自分の人生、満足」と思えるか。たくさんの金を稼いだか、より、良心にそった生き方をし、どれだけ多くの人に幸せをもたらしたかが人徳につながるのではないだろうか。人徳のある人が多い組織は、組織の徳も上がるであろう。

SDGs(エスディージーズ)バッジを胸につけているコンビニ社員も多いようだ。SDGsの理念は、地球上の「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」である。自社で働いている社員やオーナーが心身を害したり、何かを我慢したり、ノルマに無理をしたりしている状況では、SDGsの精神に反する。胸にバッジはつけられないはずだ。

SDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHP)
SDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHP)

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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