賞味期限切れ卵は生で何日食べられる?ニワトリが24時間かけて産んだ卵を賞味期限で容赦なく捨てる私たち
賞味期限の切れた卵って、生で何日食べられる?
2018年5月8日、テレビ朝日系列「林修の今でしょ!講座 3時間スペシャル」で、今回は健康に良い朝食メニューがわかる春の特別講座! 健康長寿が良く食べる「卵」「コーヒー」「牛乳」はスゴい食材だったSP!!が放映された。
街頭インタビューで、卵の賞味期限に関して次のような声が寄せられた。
「(卵の)賞味期限って、切れて(から)何日くらい大丈夫なのか?」
「(賞味期限が)切れた卵は生で食べていいのか?期限の目安、きっちり知りたいです」
「賞味期限って、こう(シールが)貼ってあるけど、いつまでを指しているのか?よくわからない」
番組では、フリップ(説明用の大型のカード)に、卵に関する国民の疑問として4点が挙げられ、そのうちの1つとして「賞味期限が切れた卵は捨てるしかない?!」が挙げられた。
卵の賞味期限は「生で食べるのが前提」で設定される
林修さんからは「農林水産省によると、卵の賞味期限とは、生で食べられる期限のこと。加熱調理すれば食べても大丈夫」との説明があった。
次に東京慈恵会医科大学附属病院、管理栄養士の赤石定典氏が登場。
林修さんより「先生、(食べるにしても)限度はありますよね?」と質問が出た。赤石氏からは、「見て、ダメだこりゃ、という(ふうに判断する)」という回答がなされた。
その後、水槽に大量に準備された塩水に、古い卵と新しい卵を同時に入れ、沈めてみると、古い卵はすぐに浮くのでわかる、という実験が行なわれた。
その次のVTR(事前に収録されたもの)では、卵を出荷する工場の様子が紹介された。養鶏場から運ばれてきた卵に殺菌力の強いお湯がかけられて殺菌され、その後、工場のラインで機械のハンマーで叩き、音の波形で判断し、肉眼ではわからない傷や穴がないかをチェックするなど、卵が安全管理されてからパック詰めして出荷される様子が放映された。
最後に、「賞味期限が切れたものは火を通して食べましょう、でも、賞味期限が切れていないのが一番」ということで、このコーナーが締められた。
卵は冬場(気温10度以下)57日間、生で食べられる
卵の業界団体である日本卵業協会の公式サイトには、次のように書いてある。
あくまで計算上の話だが、夏場は産卵後16日間、春と秋は産卵後25日間、冬は産卵後57日間、生で食べられるとされている。でも、パックしてから2週間(14日間)目が賞味期限として表示されている、ということだ。つまり、冬は、パックする7日間と賞味期間として表示された14日間を引くと、まだ36日間(1ヶ月以上)、生で食べられるということになる。
下記に、採卵してから生で食べられる期間を青い棒グラフで示した。採卵後、7日以内にパックされ、パックされてから2週間が賞味期限。赤い線で示してあるところだ。
では、先の回答に書いてある「表示とタマゴの安心」のページを見てみよう。
食べられる期間のカギを握っているのは、保存される温度であることが強調され、理論値として、生食できる卵の日数が表で示されている。
また、卵の賞味期限が過ぎたものについては、このように説明がある。
まとめると、卵の賞味期限とは、「卵を生で安心して食べられるための期限」であるということがわかる。そして、気温が低い冬場にきちんと温度管理がなされていれば、2週間の賞味期限より1ヶ月長く生で食べられるということになる。実際、市販の卵のパックには、賞味期限が過ぎたら早めに加熱調理して食べるよう、表示が入っている。
では、養鶏に関する組織である、一般社団法人日本養鶏協会の公式サイトを見てみよう。「にわとりと卵の質問コーナー」や「たまごの知識」には、卵の賞味期限について、わかりやすく書かれている。
鶏卵の知識は鶏卵の専門家に聞くのが一番
卵は、全国の家庭に広く普及している、身近な食品だ。テレビ番組で卵のことを紹介するなら、数字をまじえて、わかりやすく紹介して欲しかった・・・という気持ちもある。
ただ、制作側の立場に立てば、大変なこともわかる。
視聴者として3時間のテレビ番組を観る分には「ああ、撮影で3時間かかったんだな」と思うだろうが、1つのテレビ番組を制作する背景には、その2倍どころか、10倍以上の膨大な時間が費やされている。出演者への出演依頼やそのやりとり、スタジオの外での撮影が必要であればロケハン(ロケーションハンティング:適切な撮影場所を探して廻ること)など。筆者は14年以上、食品企業の広報を務め、3年間フードバンクの広報を務め、その間、何度ものテレビ撮影に携わり、出演もして来た。15分間のVTRを撮影するのに2週間以上かけたものもあった。だから、番組制作者の苦労も察せられる。
だが、今回の卵の件は、事前に番組スタッフが、日本卵業協会や日本養鶏協会の公式サイトを調べて、台本を作っていれば、街頭インタビューで出された質問には次のように回答できただろう。
「市販の卵の賞味期限は、生で食べられる前提で設定されています。春や秋は、賞味期限が切れてから4日間、気温が10度以下と低い冬場であれば、賞味期限が切れてから36日間、生で食べられます。ただし、念のため、早めに加熱調理して食べることをお勧めします。」
日本の食品業界は、業界団体が大きな力や豊富な知識、ネットワークを持っている。卵に関しては、卵やニワトリの専門家である日本卵業協会や日本養鶏協会に問い合わせたり、公式サイトの情報を読んだりしていれば、番組の、卵の賞味期限に関する内容は、もっと専門的できちんとしたものになったはずだ。なぜなら、「食」を専門にしている筆者も含め、管理栄養士の資格を持っている先生も大学教授も、それぞれ専門分野が異なるため、すべてを網羅して100%把握している訳ではないからだ。なんでもかんでも答えられると思って丸投げされても困ってしまう。
卵は採卵してから寝かせた方がプリプリの食感が楽しめる
拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、3刷)では、冒頭で、この卵の賞味期限について解説してある。食品の保存や賞味期限に詳しい、元東京農業大学教授の徳江千代子先生が「気温が低い冬場は50日間程度、生で食べることができる」とおっしゃった話や、海外では生で食べないため1ヶ月半以上の賞味期間があること、採卵から10日ほど経った卵は二酸化炭素が抜けているので、卵独特のプリプリの食感が楽しめる、サルモネラ菌に注意するため冷蔵庫にはパックのまま奥に入れよう、といった話を載せている。
法人向けの卵は温度管理がしっかりしているから「冬は58日間の賞味期間」
より詳しい情報であれば、日本養鶏協会内にある、鶏卵日付表示等改訂委員会が平成22年3月18日付で発表している鶏卵の日付等表示マニュアルが参考になる。
なお、日本卵業協会によれば、消費者向けの卵は夏も冬も一律「パックされてから2週間」で賞味期限が設定されているが、法人(レストランなど)向けであれば、温度管理が徹底しているという理由で、夏は16日間、冬は58日間など、季節による違いも考慮に入れて設置されているそうだ。
微細な孔が空いている卵を水で洗ってから保存するのは食品衛生上お勧めではない
番組では、卵を塩水に浸けて新しさを判断する方法が取られていた。が、卵を水に浸けてから再度保管することは食品衛生上、お勧めされていない。
そもそも、水がもったいない。
卵は、割ってみて、黄身の部分がこんもりとふっくらしていたら新しい・・と筆者は母親から教わった。
24時間以上かけてようやく1個の卵を産み出したニワトリの立場に立って考えてみて
ニワトリは、何時間かけて卵を産むのだろうか。
一般社団法人 日本養鶏協会の公式サイトによれば、1日1個が限度とのこと。
日本農産工業株式会社の公式サイトの説明も、とてもわかりやすい。
24時間以上かけて、ようやく1個の卵を産み出したニワトリの立場に立って考えれば、”賞味期限”でさっさと捨てられてしまうのは、せつないではないか。