シリアがアラブ世界、中東地域で復権するなか、トルコと米国がシリアでの爆撃を通じて互いを牽制
サウジアラビアのジェッダで4月14日、GCC加盟国(サウジアラビア、UAE、オマーン、バーレーン、クウェート、カタール)、エジプト、イラク、ヨルダンの外務大臣が協議会合を開催し、シリア内戦の政治的解決に向けたあらゆる取り組みを支援し、紛争によるすべての弊害を解消し、シリアの統合、安全保障、安定、アラブ・アイデンティティを保全し、同国をアラブ世界に復帰させ、その国民の利益を実現するとした声明を発表した。
最終段階に入ったアラブ世界におけるシリアの復権
12日のシリアのファイサル・ミクダード外務在外居住者大臣のジェッダへの公式訪問を受けるかたちで行われた協議会合においては、カタールのムハンマド・ビン・アブドゥッラフマーン・アール・サーニー首相兼外務大臣が、カタール・テレビに対して「アラブ連盟におけるシリアの加盟資格停止には理由があり、その理由は我々にとっていまだに存在している」と述べ、依然として異議を唱えている。
とはいえ、「アラブの春」波及に伴う抗議デモ弾圧を理由に、2011年11月以来アラブ連盟への加盟資格を失っていたシリアは、アラブ世界において事実上復権した。現在は、5月19日にサウジアラビアの首都リヤドで予定されているアラブ連盟首脳会議へのアサド大統領の出席の是非が最大(そして最後)の争点となっている。
トルコとシリアの和解も大詰めに
中東地域におけるシリアの復権に向けた動きも進んでいることは周知の通りだ。
2011年半ば以降敵対関係にあるシリアとトルコは、ロシアの仲介のもと、昨年12月28日に国防大臣会合を、今月3日に外務省次官会合を開催した。両国の間には、シリア北部を占領するトルコ軍の撤退、米国を後ろ盾とする「分離主義テロリスト」の民主統一党(PYD)の処遇、難民の帰還などをめぐって隔たりがある。だが、5月14日に予定されているトルコ大統領選挙における有力候補である現職のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領(公正発展党(AKP))も、ケマル・クルチダルオール(共和人民党(CHP))も、シリアとの関係改善に前向きな姿勢を示しており、両国が和解するのは時間の問題だろう。
シリア復権に逆行するかのような外国の攻撃
だが、こうした動きに逆行するかのように、シリアでは諸外国の爆撃、空挺作戦が相次いだ。
攻撃を行ったのは、シリア軍でもロシア軍でもイスラエル軍でもなく、今回は米国とトルコだった。
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イスラーム国に対する「テロとの戦い」を根拠とした米軍の攻撃
米中央軍(CENTCOM)は4月12日に声明を出し、8日晩にシリア東部でヘリコプターによる強襲を実施し、イスラーム国のとりまとめ役(facilitator)であるフダイファ・ヤマニーと仲間の2人を殺害したと発表した。
攻撃に際して、民間人に死傷者は出なかったという。
米軍が違法駐留を続けるシリア領内で爆撃や空挺作戦を実施するのは、3月23日から24日にかけてのダイル・ザウル県内の「イランの民兵」を狙った爆撃、2月24日と4月3日のイドリブ県北部のフッラース・ディーン機構の指導者を狙ったと見られる無人航空機(ドローン)による攻撃に続いて、今年に入って4回目。
CENTCOMはまた、17日にも声明を出し、米軍ヘリコプター(unilateral helicopter)1機が同日早朝にシリア北部で、中東や欧州でのテロ攻撃の計画立案者だったイスラーム国のシリア人指導者の1人を攻撃し、この指導者は殺害されたと見られると発表した。
攻撃ではまた、他に2人も殺害され、米軍側に負傷者はなく、市民の負傷者もなかったという。
トルコを拠点とする反体制系サイトのイナブ・バラディーによると、攻撃を行ったヘリコプターは、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局の支配下にあるアレッポ県のハッラーブ・ウシュク村に違法に設置されている基地を離陸、トルコ占領下のいわゆる「ユーフラテスの盾」地域のジャラーブルス市近郊のスワイダ村で空挺作戦を実施、2時間にわたって武装集団が交戦した。
複数の地元筋の証言によると、米軍によって殺害されたのは、トルコの支援を受けるシリア国民軍に所属する北部の鷹旅団の司令官だったという。
これに対して、北部の鷹旅団はツイッターを通じて声明を出し、殺害されたのがアーイド・ハラールを名乗るアレッポ県サフィーラ郡出身の人物で、6ヵ月前にスワイダ村に避難していたことを明らかにしたうえで、旅団のメンバーではないと発表した。
その後、4月19日、「北部の鷹師団」を自称する北部の鷹旅団はツイッターを通じて声明を出し、この攻撃でメンバー2人(ムハンマド・イスマーイール・ジャースィム、ムハンマド・ムハンマド・サイード・マアン)が殺害されたことを認めた。
声明によると、攻撃時、北部の鷹師団は、民間人を保護し、住民の安全を守る義務を果たしたが、米軍部隊は同師団のメンバーを直接標的としたという。声明は、シリア国民軍の司令部が、無辜の人名を奪った違法な攻撃に沈黙していること、恣意的な暗殺を拒否するとしたうえで、米軍が師団のメンバーを狙ったことを厳しく非難すると表明した(4月20日加筆)。
「分離主義テロリスト」に対するトルコの戦い
一方のトルコは、4月14日午前1時45分、シリア政府と北・東シリア自治局の共同支配下にあるハサカ県のカーミシュリー市のヌサイビーン国境通行所に近い環状道路を走行中の車1輌をドローンで攻撃した。
この攻撃に関して、PYDの民兵組織で、イスラーム国に対する米主導の有志連合の「テロとの戦い」の「協力部隊」であるシリア民主軍を主導する人民防衛隊(YPG)の広報センターは声明を出し、所属メンバーの1人バーラーン・ヌサイビーン氏が死亡したと発表した。
トルコがシリア領内をドローンで爆撃したのは、1月2日(ハサカ県タッル・タムル町近郊)、3日(タッル・タムル町近郊)、6日(アレッポ県タッル・リフアト市近郊)、11日(ハサカ県カーミシュリー市・ハサカ市間)、12日(ハサカ県アームーダー市近郊)、15日(アームーダー市近郊)、18日(ハサカ県カフターニーヤ市近郊)、19日(ハサカ県ルマイラーン町近郊)、24日(ラッカ県アイン・イーサー市近郊)、2月12日(アレッポ県アイン・アラブ(コバネ)市近郊)、22日(カーミシュリー市・カフターニーヤ市間)に続いて今年に入って12回目。
PYD(あるいはYPG、シリア民主軍)をめぐっては、4月7日晩、シリア民主軍のマズルーム・アブディー総司令官が乗った車列が、米軍高官やイラクのクルディスタン愛国同盟(PUK)の幹部らとイラク・クルディスタン地域のスライマーニーヤ市のテロ対策本部での会談を終え、同市の国際空港に向かう途中、トルコ軍所属と見られるドローンの攻撃を受けていた。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』がCENTCOMのジョー・ブッチーノ報道官(大佐)らの話として伝えたところによると、攻撃を受けた際、米軍関係者3人が、アブディー総司令官が乗っていた車に同乗していたという。
「テロとの戦い」を口実とするトルコと米国の牽制合戦
前述の通り、シリアとトルコとの間には、いくつかの争点をめぐって隔たりがあると述べた。だが、両者の和解における最大の障害は、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすPYDを支援し、シリア北東部における実効支配地の各所に部隊を駐留させている米国の存在であることは誰の目からも明らかだ。
シリアでの米国とトルコの爆撃は、いずれも「テロとの戦い」の一環に位置づけられている。トルコの爆撃は、「分離主義テロリスト」のPYDを封じ込め、米国の爆撃は「国際テロリスト」のイスラーム国の殲滅が根拠となっている。だが、その背景には、シリアのアラブ世界、中東地域における復権をめぐるトルコと米国の水面下の対立があり、シリアでの爆撃は互いの「行き過ぎ」を牽制しようとする意味合いが強いと見て取ることができる。