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米国とイスラエルが相次いでシリアを爆撃:「テロとの戦い」、「イランの民兵」排除を口実とする主権侵害

青山弘之東京外国語大学 教授
Facebook(@ahilalkisweh)、2023年4月4日

シリアで4月3日から4日未明にかけて2回の爆撃が実施された。

爆撃を行ったのは、シリア内戦において、無差別爆撃のレッテルを西側諸国や一部活動家によって貼られてきたシリア軍でも、ロシア軍でもなければ、シリア北東部で散発的な爆撃を実施してきたトルコ軍でもなかった。

米軍によるドローン爆撃

最初に爆撃を行ったのは米国だった。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は4月3日、米主導の有志連合所属と見られる無人航空機(ドローン)が、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構の支配下にあるイドリブ県北部のキフタイン村とカッリー町を結ぶ街道で男性1人を狙ってミサイル攻撃を行ったと発表した。また、このシャーム解放機構と協力関係にあるホワイト・ヘルメットはフェイスブックを通じて、この攻撃の被害に対応し、1人の死亡を確認、また1人をバーブ・ハワー国境通行所の病院に搬送したが、その後死亡したと発表した。

Facebook(@ SyriaCivilDefense)、2023年4月3日
Facebook(@ SyriaCivilDefense)、2023年4月3日

さらに「観測者アブー・アミーン80」を名乗るテレグラムのユーザーは、速報として、有志連合の航空機が身元不明の人物1人を狙ったと発表、攻撃に使用されたとみられるミサイルの残骸の写真を公開した。

Telegram(@syrianevent1)、2023年4月3日
Telegram(@syrianevent1)、2023年4月3日

反体制系サイトのイナブ・バラディーは、攻撃が、有志連合所属のMQ-9リーパー1機で、AGM-114ヘルファイア1発が使用されたと伝えた。同サイトによると、攻撃に先立って、有志連合の(無人)偵察機2機が上空に飛来、そのうちの1機が男性1人を狙ったという。

クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いニュースサイトのANHAは、複数のメディア筋の話として、攻撃が新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構の指導者の1人を狙ったものだと伝えた。

だが、イナブ・バラディーは、複数の情報によるとして、狙われたのがダイル・ザウル県出身のハーリド・アブドゥッラー・ハリーフを名乗る人物で、10日ほど前にこの地域に来たばかりだったと伝えた。

こうしたなか、米中央軍(CENTCOM)は声明を出し、シリアへの爆撃によって、イスラーム国の幹部ハーリド・イヤード・アフマド・ジャブーリーを殺害したと発表した。声明によると、ジャブーリーは、欧州への攻撃の契約やダーイシュの指導体制の構築を担っており、攻撃による民間人の死傷者はなかったという。

イスラエルがまたもやミサイル攻撃

次に爆撃を行ったのは、イスラエルだった。

シリア軍筋は4月4日未明に報道声明を出し、イスラエル軍が同日午前0時15分に占領下のゴラン高原上空から首都ダマスカス周辺地域や南部地域の複数ヵ所を狙って多数のミサイルを発射、シリア軍防空部隊がこれを迎撃し、そのほとんどを撃破したものの、この攻撃で、民間人2人が死亡、若干の物的被害が出たと発表した。

イスラエル軍によるミサイル攻撃(爆撃)は、今年に入ってから10回目、2月6日のトルコ・シリア地震発生以降で8回目。シリアの外務在外居住者省は声明を出し、イスラエルによる度重なる攻撃に関して、危機を輸出し、国内問題を国外での攻撃や犯罪に転嫁するという欧米諸国と同じ足跡を辿ることで、国際法や国連憲章にあからさまに違反する手法を確立し、法と人道の力に代えて、力の法と混沌の法を確立しようとしていると非難した。

シリア人権監視団、反体制系のサイトのサウト・アースィマやスワイダー24は、攻撃によって、ダマスカス郊外県のダマスカス国際空港一帯、サイイダ・ザイナブ町近郊のイランの複合施設、キスワ市の工場地区、スワイダー県のサフン丘のレーダー・サイト、各所のシリア軍防空部隊拠点や「イランの民兵」の拠点が狙われる一方、シリア軍防空部隊が迎撃し、ミサイル少なくとも2発を撃破したと伝えた。

また、シリア軍が発表した2人の民間人犠牲者については、複数の住民からの情報だとして、イスラエル軍のミサイルではなく、シリア軍防空部隊が発射した迎撃ようの地対空ミサイルがキスワ市の養鶏所に着弾などした結果だと断じた。

映画「娘は戦場で生まれた」(For Sama、2019年)は「空」がキーワードだった。そこでは、シリア軍とロシア軍による爆撃で奪われたという自由や尊厳を象徴するものとして「空」が描かれる一方で、自らカメラを手にしてシリアの惨状を記録しようとした監督は、平和への願いを込めて、授かった娘にアラビア語で「空」を意味する「サマー」と名づけた。

シリアに対する爆撃が、イスラーム国に対する「テロとの戦い」や「イランの民兵」の排除を口実しているとの主張は、いかにも耳ざわりがいい。だが、米国とイスラエルの行為は、シリア政府も国連安保理の承認も得ていないという点で、主権侵害であり、国際法違反だ。

自由、尊厳、そして平和への願いが込められている空を蹂躙しているのが、この映画、あるいはその視聴者が思い描くイメージにはまったく登場しない自由や民主主義を掲げる国だという事実は、皮肉以外の何ものでない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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