自民党56議席減なら安倍退陣の流れが出来る
フーテン老人世直し録(330)
神無月某日
第48回衆議院選挙が公示された。希望の党の小池百合子代表は出馬せず「安倍一強を終わらせよう」と言いながら日本国のリーダーを誰に代えるのかを言わないまま選挙が始まった。フーテンが注目した「最大の勝負手」は行使されず、先の見えにくい選挙になった。それが誤算でないことを祈るのみである。
フーテンが注目した「最大の勝負手」とは、小池氏が選挙に出馬し安倍総理に代わる顔になるには、都民の圧倒的な支持を得て就任した都知事を辞めなければならない。それをするには誰しもが納得できる後継者を明らかにし国政と都政の連携をアピールしなければならない。それが可能かどうかだった。
逆に出馬しない場合には国会の首班指名で安倍総理に代わる候補を勝たせなければならない。自分に代わる有力候補を選挙前に明示することは可能かということである。いずれも可能でないと判断されたわけだ。次の顔が見えない選挙で勝てるのかとフーテンは危惧するが、しかし賽は投げられた。前を見ていくしかない。
今回の選挙の特徴を言えば、第一に安倍総理が妻と友人を守るため衆議院議員全員の首を切った前代未聞の極私的解散・総選挙である。第二に野党第一党の民進党を現実派とリベラル派に分裂させ、共産党が初めて選挙協力を行う政界再編の選挙である。第三に小選挙区と比例区の重複立候補をしないことが政治家の評価につながる流れが出て来た。
安倍総理は消費増税の使途と北朝鮮情勢を解散の理由としたが、消費増税は2年も先の話でありこの時点で解散する理由にならない。また北朝鮮問題でしきりに危機を強調するが、米朝は激しく対立して見せながら落としどころを探って詰めの交渉を続けており、それにロシアと中国の利害が絡み合っているだけで日本に出番などない。解散の理由がこじつけであることは首を切られた議員たちが一番良く知っている。
小池氏が「排除」という言葉を使ったため民進党の分裂を批判する国民が多いが、この分裂でリベラル勢力の塊が出来たことをむしろ評価すべきだとフーテンは思う。これまで水と油の安倍政権を公明党が選挙協力で支えてきたのに対し、公明党に対抗できる全国組織を持つ共産党は全選挙区に候補者を立て野党票を分散させてきた。それが「安倍一強」を可能にした一つの要因である。
しかし2年前の安保法制の強行採決で共産党もようやく選挙協力に前向きになった。これで自公に対決できる構図が生まれ、今回の選挙で立憲民主党はその恩恵にあずかれる。これが恒常化すれば以前より強いリベラルの塊が生まれる。
一方の希望の党は自民党から保守票を引きはがす。安倍総理周辺の右派勢力は本来の自民党支持層と一致するわけではない。そこに楔を打ち込んで「安倍一強」を倒そうとするのが希望の党である。
従って希望の党は自民党内の反安倍勢力とは距離が近い。野田聖子氏と小池氏が一緒に政党を立ち上げる構想もあった位で将来合流する可能性はある。それを共産党は「自民補完勢力」と批判するが、しかし「安倍一強」という権力私物化を終わらせるにはありうる選択肢である。この選挙は保守を右派と中道に分け、リベラルの塊を作る政界再編のスタートになる。
政権交代可能な政治を作るため導入された小選挙区制は諸外国に比べ不備な点もある。最大の問題は小選挙区と比例代表の重複立候補による「ゾンビ議員」の誕生だ。小選挙区で落選した議員が比例で復活し、中には小選挙区の得票数が他の落選候補より少ないのに当選する議員もいる。
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