相続がガラッと変わる!その7~遺言執行者の権限の明確化
相続法の改正は、配偶者の相続分を3分の1から2分の1に引き上げた昭和55年の改正以来、実に約40年振りです。
その間、実質的に大きな見直しはされてきませんでした。しかし、その間に社会の高齢化が進展し、相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため、「残された配偶者」(主に夫に先立たれた妻)の保護の必要性が高まっていました。
今回の相続法の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から,配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。
この相続法の改正は、従来の相続の姿を大きく変える「大改正」と言ってよいものです(法改正の概要は法務省ホームページをご覧ください)。
そこで、「相続がガラッと変わる!」と題して、「遺言書の保管制度」「遺産の仮払い制度」「相続人以外の者の貢献を考慮するための制度」「婚姻期間が20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等」そして、「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」を見てきました。
今回は、遺言の作成と執行に大きな影響を与える「遺言執行者の権限の明確化」を見てみましょう。
遺言執行者の権限を明確化
遺言執行者は遺言の執行を職務とする者です。しかし、民法上その権限が明確でなく、争いの原因になっているという指摘がありました。そこで、規定を設けて、その権限の内容を明確にしました。
具体的にはまず、民法第1012条及び第1015条の規律を改めて、遺言執行者の一般的な権限を明らかにしました。
その上で、「特定財産承継遺言」(いわゆる相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたもの)がされた場合等について、対抗要件の具備や預貯金の払戻しに関する具体的な権限などを定めました。
遺言には必ず遺言執行者を指定すること
このように遺言執行者は、遺言の内容を実現するために非常に強い権限を与えられています。遺言執行者の力量によって遺言の内容が速やかに実現するかしないかが決まるといっても過言ではありません。
しかし、業務で亡くなった方が自書で残した遺言書(自筆証書遺言)を拝見すると、遺言執行者が描かれていないものが多いのです。
遺言執行者が抜けてしまっていると、特に金融機関の払戻し手続きが難航します(詳しくは、「遺言書でほとんどの人が『しくじる』こと」をご覧ください)。
「遺言を残そう!」と決めたらまず遺言執行者を選定する
相続法の改正によって遺言執行者の権限はより強化されました。その趣旨は「遺言の内容の実現」です。
「遺言を残そう!」と思ったら、「遺言執行者をだれにするか」をまず決めるようにしてください。