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49歳独身女性。無上の喜びは日曜日の一人晩酌。結婚願望はまったくありません~スナック大宮問答集76~

大宮冬洋フリーライター
東京・大塚にて。読者交流宴会の参加者の一人と改めて対談しました。(参加者提供)

スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
 筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
 その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。

***サキさん(仮名。独身、49歳)との対話***

深夜2時まで部下の原稿を直すのが新聞社の管理職。対価に見合わないので退職しました

――サキさんは昨年まで全国紙で記者として働いていてフリーのジャーナリストになったそうですね。どんな決断だったのでしょうか。

 入社して25年も経つので管理職をやらなくてはいけないタイミングでした。でも、管理職には「朝刊番」があり、深夜2時ごろまで頭をフル回転させて部下の原稿を直さなければなりません。ハイヤーで帰宅してお風呂に入って寝るのは早くて4時。翌日はたいてい休みですが、プライベートの予定などで活動すると時差ぼけみたいな状態になります。そんな生活に対価が見合いません。勤務先の経営状況も良くなかったので早めに辞めたほうがいいと判断しました。

――記者として仕事熱心そうなサキさんは他にも理由がありそうですね。

 はい。新聞社は組織なので基本的に自分の担当以外の分野のことは書けません。書ける場合も文字数が少ないので、たくさん取材しても深掘りした記事を書けなかったりします。思い切ってフリーランスになって、オンラインメディアなどで精力的に発信したいなと思いました。

年に一度、大塚の蕎麦店「小倉庵」を貸し切らせてもらっています。蕎麦前には生ビールではなく瓶ビールが合いますよね!(参加者提供)
年に一度、大塚の蕎麦店「小倉庵」を貸し切らせてもらっています。蕎麦前には生ビールではなく瓶ビールが合いますよね!(参加者提供)

男性との出会いを期待する気持ちはゼロ。結婚したいと思ったこともありません

――そんなサキさんがスナック大宮に参加した理由とご感想を教えて下さい。

 私はフリーランスになって日が浅いので、大宮さんをはじめとするフリーランサーの方々の働き方について聞きたいのが一番の理由でした。でも、フリーの方は意外と少ないのですね。それでも個人投資家の男性やフリーカメラマンの女性とはお話しすることができました。
 お店の方の大らかで迅速な接客も素晴らしくて、新蕎麦を含めた料理とお酒もとても美味しかったです。あれで飲み放題は安い! それにしても20名以上の満席だったのはすごいですね。大宮さんの集客力に驚かされました。参加者のみなさんと話して、熱心な大宮ファンや何回も出席している方がいることにもまた驚かされました。

――ありがとうございます。会場は、僕もしくはチーママ(常連客の中からボランティアスタッフを指名)が大好きな飲食店を貸し切らせてもらうのが恒例です。料理やお酒が美味しいのは大前提で、お店との信頼関係があるので温かい雰囲気になり、お客さんの満足度も高くなると感じています。
 スナック大宮は婚活パーティーではないので既婚者も歓迎ですが、僕は結婚に関する記事を書くことが多いので婚活中の独身者も少なくありません。スナック大宮で出会った人と結婚したケースも数組は知っています。サキさんも独身と伺っていますが、男性との出会いを探していたという側面はありますか。

 それは一切ありません。生々しくなるので言葉では表しにくいのですが、私は幼い頃からの家庭事情もあって結婚したいと思ったことはないからです。恋愛はしてきましたが、この年になったら「もういいかな」と感じてしまいます。男性にときめくこともなくなりました。人間には興味がありますが、あくまで取材先や仕事先としての興味です。

右端のメガネ男性が筆者。飲食好きの優しい参加者たちに囲まれて、接客を忘れて酔っ払っています。(参加者提供)
右端のメガネ男性が筆者。飲食好きの優しい参加者たちに囲まれて、接客を忘れて酔っ払っています。(参加者提供)

広く浅く付き合うことは好きですが、深入りしないように気をつけています

――かなり割り切っていますね。

 人と広く浅く付き合うことは好きですが、深入りしないように気をつけている面もあります。以前、社内報作りの仕事を手伝ったことがありました。担当社員の方が私を慕ってくれていたようなので、良かれと思って紙面づくりを厳しめに指導したら機嫌を損ねられてしまいました……。人のためと思って頑張っても自分が損するだけなのですね。今後は、ほどほどに浅い付き合いがいいのかなと思っています。

――仕事がらみの人間関係は気を遣いますよね。フリーランスは発注元の担当者の判断で仕事が増えたり消えたりしますから。お金があまり絡まない人間関係を持っておくといいかもしれません。

 残念ながら私には趣味がなく、趣味つながりで頻繁に会うような人間関係はありません。無上の喜びは、日曜日の一人晩酌です。好きな食材を値段はあまり気にせずに買って料理してお酒を飲みます。自分の健康と経済力を確かめられて幸せです。
 平日はインタビュー取材で人に会うことが多く、しかも相手に合わせて話を引き出さねばなりません。だから、日曜日は必ず休みにしてリセットしています。誰かと一緒に暮らしたいとはまったく思いません。

小倉庵店主の安藤さんによる新蕎麦のテイスティング講座。つゆではなく水に麺を浸ける「水蕎麦」と塩を少しつける「塩蕎麦」で食べると、蕎麦の風味をより明確に味わえるそうです。なるほど!(参加者提供)
小倉庵店主の安藤さんによる新蕎麦のテイスティング講座。つゆではなく水に麺を浸ける「水蕎麦」と塩を少しつける「塩蕎麦」で食べると、蕎麦の風味をより明確に味わえるそうです。なるほど!(参加者提供)

*****

美味しいものを一緒に飲み食いしながらの会話。一瞬でも気分を晴らして心を温め得る

 以上がサキさんとの対話内容だ。スナック大宮にはいろんな人が遊びに来てくれるが、「恋人も要らない」と言い切るサキさんのような独身主義者は珍しい。人嫌いではないけれど人に気を遣い過ぎる性質なのかもしれない。スナック大宮の後にも丁寧なお礼メールをくれて今回のオンライン取材にも快く応じてくれたが、30分間ほどで筆者との会話に疲れたような様子だった。
 フリーランスになったばかりで「働き方」の確立や取材先・仕事先の確保に集中しているサキさん。しかし、それだけのためにスナック大宮に参加したとは思えなかった。ゆるい共通点(スナック大宮の場合は筆者の読者同士)を持った人たちと、美味しいものを一緒に飲み食いしながらしがらみのないおしゃべりをすることは、一瞬でも気分を晴らして心を温め得るからだ。
 広く浅い付き合いでもいいと思う。それが爽やかなものであれば。狭くて深いけれど憎み合っているような人間関係から抜け出せずに苦しむよりははるかに健康的だ。サキさんにはまた気軽に飲みに来て欲しい。

スナック大宮は全国各地の良き飲食店で開催しています。今月は東京・西荻のアジア食堂で開催予定(ありがたいことに満席)、12月は東京・西荻のアイリッシュ・パブで開催予定です。(参加者提供)
スナック大宮は全国各地の良き飲食店で開催しています。今月は東京・西荻のアジア食堂で開催予定(ありがたいことに満席)、12月は東京・西荻のアイリッシュ・パブで開催予定です。(参加者提供)

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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