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相続がガラッと変わる!その4~結婚生活「20年」がキーポイント

竹内豊行政書士
結婚生活20年以上の夫婦を対象に相続の新しい法律が創設されました。(写真:アフロ)

今年の7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「相続法」といいます)が成立しました(同年7月13日公布)。

相続法の改正は、配偶者の相続分を3分の1から2分の1に引き上げた昭和55年の改正以来、実に約40年振りです。

その間、実質的に大きな見直しはされてきませんでした。しかし、その間に社会の高齢化が進展し、相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため、「残された配偶者」(主に夫に先立たれた妻)の保護の必要性が高まっていました。

今回の相続法の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から,配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。

この相続法の改正は、従来の相続の姿を大きく変える「大改正」と言ってよいものです(法改正の概要は法務省ホームページをご覧ください)。そこで、「相続がガラッと変わる!」と題して、「遺言書の保管制度」「遺産の仮払い制度」「相続人以外の者の貢献を考慮するための制度」を見てきました。

今回は、「婚姻期間が20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等」についてご紹介します。

婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与等が行われた場合に、いわゆる「持戻し免除」の意思表示があったものと推定するという規定を設けました。

この規定によって遺産分割において残された配偶者がより多くの財産を取得できるようになります。

この規定は、夫が、所有する居住用不動産を生前に妻に贈与した後に死亡した場合の相続を想定しています。

妻への贈与は遺産の先渡しとみなされしまう

現行の民法では、相続人に対して贈与等が行われた場合には、原則として、その贈与を受けた財産も遺産に組み戻した上で相続分を計算し、また、贈与を受けた分を差し引いて遺産分割における取り分を定めることとされています。

つまり、贈与等を行ったとしても、原則として「遺産の先渡しを受けたもの」として取り扱われてしまうのです。

そのため、配偶者が最終的に取得する財産額は、結果的に「贈与等がなかった場合と同じ」になってしまいます。

その結果、一般に、居住用不動産の生前贈与等を受けた配偶者は、遺産分割においては少ない財産しか取得できないということになってしまいます。

これでは、せっかく被相続人が「自分の亡き後でも妻が安心して暮らせるように」と願って居住用不動産を生前に贈与等を行っても、その妻を思う気持ちが遺産分割の結果に反映されません。

夫亡き後の妻の生活安定が可能に

そこで、民法上新たな規定を設けて、婚姻期間が長期にわたる夫婦間で居住用不動産の贈与等が行われた場合には、遺産分割において「持戻し計算をしなくてよい」という旨の被相続人の意思表示があったものと推定するということにして、配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得することができるようにしました。

このことで、夫の「自分の亡き後」の妻を思う気持ちが反映された遺産の分割が可能となります。

ここに注意!夫婦間の居住用不動産の贈与

1.事実婚、内縁関係は対象外

「婚姻期間が20年以上」が対象なります。「婚姻」とは、法律婚を指します。したがって、事実婚や内縁関係が20年以上続いていてもこの規定を受けることはできません。

2.施行期日

この規定は、原則として、公布の日(平成30年7月13日)から1年内に施行されます。施行日は別途政令で指定されます。現時点ではまだ施行されていません。

なお、「長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等を保護するための施策」については法務省ホームページも合わせてご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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