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相続がガラッと変わる!その5 配偶者短期居住権~夫亡き後の妻の住まいを保護する

竹内豊行政書士
配偶者短期居住権によって、夫亡き後に「法律婚」の妻は居住権が保護されます。(写真:アフロ)

今年の7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「相続法」といいます)が成立しました(同年7月13日公布)。

相続法の改正は、配偶者の相続分を3分の1から2分の1に引き上げた昭和55年の改正以来、実に約40年振りです。

その間、実質的に大きな見直しはされてきませんでした。しかし、その間に社会の高齢化が進展し、相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため、「残された配偶者」(主に夫に先立たれた妻)の保護の必要性が高まっていました。

今回の相続法の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から,配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています(法改正の概要は法務省ホームページをご覧ください)。

この相続法の改正は、従来の相続の姿を大きく変える「大改正」と言ってよいものです。そこで、「相続がガラッと変わる!」と題して、「遺言書の保管制度」「遺産の仮払い制度」「相続人以外の者の貢献を考慮するための制度」そして「婚姻期間が20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与等」を見てきました。

今回は、改正の目玉のひとつ「配偶者短期居住権」をご紹介します。

配偶者短期居住権~配偶者の居住権を短期的に保護するための方策

配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していたという場合に、配偶者の短期的な居住の利益を保護するために、次のいずれか遅い日までの間、無償でその建物に住み続けることができるという制度です。この制度は、一般に亡夫が所有していた住居に住んでいた妻を想定しています。

1.遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間

2.相続開始の時から6か月を経過する日

配偶者短期居住権を創設した理由

この制度は、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合に「使用貸借契約の成立を推認する」という判例の考え方を参考にしたものです。(平成8年12月17日最高裁判決)。

【平成8年12月17日最高裁判決】

共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居をしていたときは、特段の事情のない限り、被相続人と当該相続人との間で、相続開始時を始期とする使用貸借契約が成立していると推認される。

【使用貸借】

民法593条

使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

もっとも、この判例の考え方は、「契約の成立を推認する」という構成を採っているために、被相続人が反対の意思表示をしていた場合、あるいは居住建物を第三者に遺贈等していた場合については保護がされないことになってしまいます。

そこで、このような場合でも、最低6か月は配偶者短期居住権を認め、配偶者の居住の利益を保護するために配偶者短期居住権を創設することにしたのです。

ここに注意!配偶者短期居住権

1.対象者は法律婚の配偶者に限定。内縁配偶者と事実婚のパートナーは対象外

配偶者短期居住権は、相続の場面で適用される制度です。相続権の有無は法律婚と事実婚の最も大きな違いの一つです。現行の判例においても、事実婚の相手は相続人となることはできないとされています。また、死別による事実婚の解消についても、財産分与の規定を類推することができないとされています。これらの点を踏まえて、配偶者短期居住権を取得することができる者は法律婚の配偶者に限定されています。

2.施行期日

公布の日である平成30年7月13日から2年以内に施行されます。施行日は別途政令で指定されます。したがいまして、現時点の相続ではまだ配偶者短期居住権は適用されません。

なお、配偶者短期居住権については、法務省ホームページも合わせてご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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