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遺言書でほとんどの人が「しくじる」こと

竹内豊行政書士
遺言でほとんどの人がしくじることをご紹介します。(ペイレスイメージズ/アフロ)

本日は敬老の日。敬老の日は、「国民の祝日に関する法律」で次のように規定されています。

国民の祝日に関する法律

第1条 自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞつて祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。

第2条 「国民の祝日」を次のように定める。

敬老の日 九月の第三月曜日 多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う。

さて、ひょっとしたら敬老の日に「遺言を書いてみようかな」と思っている方もいるかもしれませんね。

そこで、遺言作成でほとんどの方がしくじってしまうことを紹介します。そして、しくじらないための極意をお伝えします。

遺言でしくじらないために知っておくべきこと

遺言の効力が発生する時期

遺言は人の最終の意思表示について、その者の死後に効力を生じさせる制度です。つまり、遺言を残しても遺言を残した人(「遺言者」といいます)が死亡するまで遺言に記した内容は効力ゼロです。

そして、遺言者が死亡した正にその瞬間に遺言書の効力が発生するのです。

遺言の効力が発生しても遺言者はこの世にいない

ここで覚えておいていただきたい事があります。遺言の効力が発生した時には、遺言者はこの世にいないという現実です。

確かに遺言の効力は発生しますが、遺言の内容を実施に実現させる手続きをしなければ意味がありません。具体的には、次のような手続きがあります。

・法務局で遺産の土地・建物の登記を実行する

・銀行で預金を払戻しする

遺言でほとんどの人がしくじること

遺言執行者の記載が欠けている

私は仕事柄、自筆証書遺言(自分で書く遺言)を拝見する機会がよくあります。

そのほとんどに「遺言執行者」の記載、つまり「遺言執行者の指定」が欠けています。また記載されていたとしても1名のみです。このような遺言では、遺言者の死後に遺言の内容を実行する際に(遺言執行と言います)思うようにできないことが多々あります。

銀行の手続きが困難になる

遺言書に遺言執行者の指定がないと、銀行は銀行所定の書類(一般に「相続届」といいます)に、相続人全員の署名と実印での押印、それに印鑑登録証明書の提出まで要求します。

法的には遺言があればそのような面倒なことをする必要はないのですが、実務上では要求してきます。このような事態になってしまうと、遺産の払戻しが困難になります。

具体的には相続人の中に次のような人がいると相続届に署名・押印がもらえなくて遺産の払戻しが暗礁に乗り上げてしまうのです。

・遺言の内容をこころよく思っていない人

・海外に居住しているなどで連絡が付きにくい人

・行方不明者

・認知症等で意思能力がない人

・未成年者

・遺産に関心がない

・めんどうくさがり屋の人 

などなど

一方、遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者が単独で銀行で手続きを行うことができます。相続人全員から署名・押印などもらう必要はありません。

遺言を実現するキーマン「遺言執行者」を知る

遺言執行者とは

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務があります(民法1012第1項)。

1012条(遺言執行者の権利義務)

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

そのほか、遺言執行者が指定されていると、相続人は遺言を執行することを妨げることができなくなります。

1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

いわば、遺言の内容を実現するための最高責任者といってよい存在です。

遺言執行者にふさわしい人

このように遺言執行者は遺言の内容を実現するキーマンになります。では、どのような人を遺言執行者に指定すればよいでしょうか。

遺言の効力が発生するのは遺言者が死亡したその時です。したがってその時に遺言執行者が死亡していたり健康を害して執行事務ができないようでは困ります。また、遺言執行は法律に関する知識がないと速やかに執行できない場面があります。さらに、遺言執行は面倒な手続きが伴うので「遺言者の願いを叶える」という強い意志がないと遂行できません。以上の理由から、次の3つの条件をクリアしている人を遺言執行者に指定することをお勧めします。

1.自分より若くて健康な人

2.法律の知識に明るい人

3.責任感が強い人

遺言執行者は2人以上指定する

前述の3つの条件をクリアした人を遺言執行者に指定しても、遺言を執行する時にその人がどのような状態(最悪死亡)になっているかはわかりません。実は、遺言執行者は複数指定することができます(民法1006条1項)。そこで、遺言執行者を2名以上指定することをお勧めします。

1006条(遺言執行者の指定)

遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

ただし、複数指定した場合は、遺言を執行する際に「過半数」で決しなければなりません(民法1017条1項)。

たとえば、遺言執行者を2名指定した場合は、銀行の払戻し手続きをする際に、2名で行わなければならなくなります。実際、これは面倒です。そこで、2名以上指定した場合は、「ただし、遺言執行者は単独で遺言を執行できる」という一文を入れておくことをお勧めします(民法1017条1項ただし書き)。

1017条(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)

遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

遺言執行者に遺言書を託す

最後に忘れてならないのは、遺言執行者に遺言を託すことです。いくら立派な遺言書を残しても、自分の死後に発見されなければ遺言の内容は実現されません。このことを忘れないでください。

なお、相続法改正で法務局が自筆証書遺言を保管する「遺言の保管制度」が新設されました。

遺言の目的は内容を「実現する」こと

遺言の目的は、遺言を「残す」ことではありません。遺言の内容を「実現する」ことです。

そして、実現するときには遺言者はこの世にいません。あの世で「しまった!」とならないために、遺言を残す時はこのことを肝に銘じて作成してください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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