食品ロスと貧困を救う「フードバンク」は資金不足 持続可能なあり方とは
まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限接近などの理由で流通できない食品を、食べ物に困っている人へ届ける活動、または活動を行なう組織のことを「フードバンク」という。支援の多くは無償で行なわれてきた。
しかし、最大手のセカンドハーベスト・ジャパン(東京都台東区。以下2HJ)が、食品を受け取る児童養護施設などの団体に対し、「運営協力費」を要請しているとわかった。運営協力費を求める行為を、無料で仕入れた食品を転売する構図と捉える人もいる。社会的な意義も大きいフードバンクの運営はどうあるべきか。現状を取材した。
フードバンク、いつ頃から広まった?
フードバンクは米国で1967年に始まった。企業や個人から、まだ食べられる食品を譲り受け、福祉施設や個人の困窮者らへ提供している。米国の場合、運営資金のほとんどが、篤志家などの個人や企業からの寄付で賄われている。食品ロスと貧困という2つの社会的課題に同時にアプローチできる仕組みとして注目されてきている。
日本では、2000年に2HJが発足した。その後、全国各地で設立されている。現在、日本には77のフードバンクがある。日本全体のフードバンク取扱量は約6,000トン(農林水産省調べ)。この数字は、日本の食品ロス(621万トン、農林水産省調べ)のうち、約0.09%、事業系由来の食品ロス(339万トン)の約0.17%に相当する。
2HJがメディアで大きく取り上げられたのは2007年の経済番組。その後もメディアに取り上げられる機会は多い。(テレビ東京系列 カンブリア宮殿『「もったいない」を「ありがとう」に変える奇跡の食料支援』)
活動を支える法律はないものの、農林水産省が毎年、助成事業を公募している。食品ロス削減推進PT(プロジェクトチーム)を擁する公明党を中心に、法制度化しようとする動きもみられる。
フードバンク礼賛の影で…資金不足
注目が高まる一方で、多くの団体が運営資金の捻出に苦慮している。活動母体の多くがNPO(特定非営利活動法人)で、寄付金や助成金に依存しているからだ。関係者の中には「1年先を見通せるフードバンクなどほとんどない」との声もある。
その最たる表出が2HJの「運営協力金」だ。これまで2HJから無料で食品を受け取っていた福祉施設などに、2018年4月以降はお金を払ってもらう仕組みを2HJ側から提案したそうだが、金額が年間数十万円と高額だったことから、「支払えない」といった反応が相次いだ。
フードバンクが持続可能な活動を実現するためにはどうすればよいのだろう。
「交番と同じ」セーフティーネットを目指す2HJ
最大手、2HJ。2016年次の予算規模は1億円近い。設立当初の2002年の年間取扱量は30トンだったが、2012年の年間取扱量は、東日本大震災の影響もあり3,152トンに及んだ。大手企業などから食品を集め、直接提供したり、連携関係にある他のフードバンクに分配したりしている。
知名度や事業規模で言っても困るはずのない2HJがなぜ資金難なのか。代表を務めるチャールズ・マクジルトンさんに取材した。
まず運営資金の捻出方法について。「主に寄付金に頼っている。寄付のうち、73%が法人。17%が個人、残りの10%が財団、学校、宗教法人、その他。省庁の助成金を申請し使っていたこともあるが、用途が限定され融通がきかないので使いづらかった」と話す。「今、寄付金額は予算に対して30%少ない」という。「景気が良くても知名度が上がっても、人々が寄付をするかは別問題だ」と説明した。
今まで無償で食品を提供してきた団体に「協力金」を求めた経緯についても聞いた。2017年11月、自治体や、食品を提供してきた団体に向けて、それぞれ説明会を開催した。今後は受け取る食品の量に応じて年額数十万円を支払ってもらいたいと「提案」の形で伝えたという。チャールズさんは、「これまでは無償で提供してきたが、それはあくまで外資系企業などからの高額寄付があって成り立つことだった」と説明する。フードバンクを運営するにはお金がかかる。食品を運ぶ車輌や駐車場、人件費、食べ物を保管する倉庫、働く人が常駐するオフィスの家賃など。それを寄付という不安定なものに頼っていては持続できないと考えての新方針だったという。
チャールズさんは、「今後は受け取る側にも支えて頂きたいというお願いや相談の意図だった」というが、現実には「数十万円の多額な資金を払わなければ食品を提供しない」といった誤解が広がり、それが拡散してしまったという。「払わなければ提供しない、ということはありません」と話す。
寄付が減ってもその範囲内でできることをやるという考えもある。しかし「食品を渡す拠点も今より増やしたいし、支える人もまだ必要。米国や香港ではフードバンクは交番と同じぐらい数があり、食べ物がなくて困っている人のセーフティーネットの役割を果たしている。将来的にはその規模までいきたい」と話す。
2HJは、2016年秋には厨房を備えたキッチンを、2017年3月には子どもを受け入れるキッズカフェを開設するなど、大きな設備投資を行なっている。スタッフは、フルタイムとパート合わせて25名。10年前から約2倍に増えている。個人への直接支援に加えて、福祉施設など組織への支援、毎週土曜日に行なう数百名単位の炊き出し、弁当づくりなども行なう。以前から規模は大きかったが、活動内容を広げ、規模を大きくしてきたからこその資金不足という側面もあるのではと感じた。
他のフードバンクの運営方法は?
他のフードバンクの運営はどのような形態だろうか。
認定NPO法人フードバンク山梨(代表 米山けい子理事長)も、2HJ同様スタッフが多く、規模の大きなフードバンクだ。運営資金の多くを寄付に頼る2HJと異なり、年間約7,000万円の運営資金のうち、寄付の割合は大きいものの、助成金や行政からの補助金の割合も50%近くあるのが特徴だ。
フードバンク以外にも、学習支援や生活困窮者自立支援法の相談事業、実態調査事業、こども支援プロジェクトなども行なっており、それらの運営で得る公的資金が組織そのものを下支えしているという。得た資金をそのままフードバンクに使えるのではないので制約もある。
フードバンク山梨事務局次長の米山広明さん(全国フードバンク推進協議会事務局長)は「多くのフードバンクの予算規模は1,000万円以下。どこも資金面は厳しい」と打ち明ける。公的資金については「寄付文化のある米国ですら行政からの資金援助があることを考えると、公的資金をフードバンク事業に充てられる仕組みが必要」と話す。
小規模なフードバンクはどうか。
フードバンク岡山(代表 糸山智栄理事長)は、常駐スタッフを置かず、民間企業や農業の経営者、NPOの職員など本業を持つ10名がボランティアで集い、運営を回している。費用を抑えるため倉庫も持っていない。年間数十万円でやりくりしている。
食品は、岡山県に本社を置く「ハローズ」や「おかやまコープ」、県内の食品工場などが提供。中国電力から防災備蓄品の寄贈もある。
メンバーが曜日ごとに担当を決め、スーパーなどに直接取りに行き、社会福祉協議会やホームレス支援団体に届けている。配送スタッフも「木曜日だけ配送担当」など、スポット的な関わり方をしている。施設がスーパーへ直接取りに行くケースもある。
フードバンク岡山の三田善雄理事は「ご近所からもらうのは無料なのに、フードバンクという枠に入れるとコストがかかる活動になってしまう」と悩みを話していた。「運営資金をミニマムに抑えているが、ボランティアの域を出ない」のが課題であり、同じくフードバンク岡山の山本真也理事は「本当は配送の手間に少しお金を払ってあげられるといいんだが」と話していた。
コストを抑えたフードバンクの変化形「フードドライブ」
余っている食べ物を必要な人へ渡すとき、もっとコストを抑えられないだろうか──。
筆者が主宰する「食品ロス削減検討チーム川口」(以下、チーム川口)では、市民から余剰食品を集めて活用する「フードドライブ」を実施している。
フードドライブとは、家庭で余っている食べ物を持ち寄り、それらを福祉施設やフードバンクなどに寄付する活動を指す。フードバンクと違って溜めることをしない場合も多い。集めてすぐに施設側が取りに来たり、集めた側が配送のついでなどに運んで届けたりする。
チーム川口でも、年に2回、地元商店街の商店などに拠点になってもらい、家庭で余っている食品を持ち寄ってもらっている。事前に実施日を施設に知らせておき、食料を集めたその日に学習支援施設に車で取りにきてもらうため、倉庫は不要だ。取りにくる距離も車で5分くらい。コストは大幅に抑えられる。2018年1月までの3年7ヶ月で、合計1トン89kgの食料を集めて施設に届けられた。
チーム川口では、市議や商店など運営のコアメンバー約10人以外に、外部からの単発参加も受け入れている。北は北海道から南は沖縄まで、2018年1月までの3年7ヶ月で、のべ451名が定例会に参加した。参加者からは500円を徴収し、運営費に回している。
チーム川口のように「イベントとして」行なわれるフードドライブのほか、常設で行なわれているものもある。東京都世田谷区では区のリサイクル施設に市民に食べ物を置いてもらう場所を常設してあり、世田谷区社会福祉協議会(社協)を通して必要な個人や団体に寄付される。パルシステム千葉は、生協の商品配送時に各家庭で眠っている食品をあつめ、それらをフードバンクちば(千葉市)へ届ける活動を2016年に試験的に行なっている。共通する特徴は、食べ物の保管や配送を、本業で固定費を払っている企業や自治体が「ついで」に行なうことにある。フードバンクはわざわざ倉庫を借り、運ぶ人を用意しなければならない。固定費が払えなくなり、やめていくフードバンクもある。しかし、そもそも「固定費」が発生しないフードドライブなら、持続可能性が一気に高まる。フードドライブを行なう団体は、民間のフィットネスクラブや大手スーパー、全国の寺院にも広がっている。
世界各国の先進国では、すでに民間企業らが実施するフードドライブが浸透している。たとえば米国では、毎年5月の第二土曜日に、郵便局員が郵便配達のついでに、家の玄関や郵便受けに置かれた余剰食品を回収し、必要な場所に届けるフードドライブを行なっている。日本同様、米国では、夏休みになると給食がなくなり、何も食べるものがなくなる子がいる。そこで、夏休み(6月)前の5月に実施し必要な子どもに活用するのだ。郵便局員の手を借りることで、輸送コストも大幅に削減できる。
ただ、フードドライブも万能ではない。企業からの大口の寄付ではなく個人からの寄付なので、少量かつ多品種である。日本のフードドライブの多くは毎日行なってはいないので、経常的な寄付は望めない。「何が入っているかわからない」と安全性を危惧する意見もある。また、これは企業からの食料にも言えることだが、栄養バランスが整った食品ばかりではないため、困窮者のエネルギー補給や栄養改善に必ずしも役立つとは限らない。
フードバンク事業はコスト高で無駄が多い活動になっていないか
余っている食品を活用し、必要な人へと渡す手段は、「フードバンク」でない方法でもよいのではないだろうか。倉庫などの固定費がかかるし、保管中に、日本人の多くが「それを過ぎると品質が損なわれる期限」だと誤解している「賞味期限」が近づいてくる。
また、大規模なフードバンクが遠方の地域に食べ物を送り続けると、そのたびに輸送コストがかかる。もったいないものを生かすためにエネルギーをたくさん使うのはもったいない。フードバンクが持続可能であるために必要なことは、支援する量や規模を1つの組織だけで担うのではなく、地域に根ざし、近くから近くへと届ける仕組みづくりではないだろうか。
フードバンクを等身大で評価しよう
食品ロスがゼロであれば、食べ物に困っている人がいなければ、フードバンクは必要ない。究極的にはフードバンクのない社会が理想なのではないかと、2HJのスタッフが話したことがある。筆者は当時、2HJに食品を寄贈する食品メーカーの社員だった。スタッフは「NPOって社会課題を解決するのが目的だから、究極、無いのが理想。でもボランティアって楽しいから、ついハマっちゃって抜けられないんだよね」と言った。当時はその気持ちはわからなかったが、震災後に2HJの広報となり、被災者への炊き出しに毎月通い、あの時「ハマっちゃう」と言ったスタッフの気持ちが少しわかった気がした。フードバンクは、”もったいない”を活かしている清々しさを感じることができるし、ボランティア活動は、”誰かから感謝されて自分が役に立っている感”が味わえるのだ。
フードバンクは、人助けの高揚感から、活動をすること自体が目的化し「フードバンクを続けるがゆえの資金難」になってはいないだろうか。フードバンクは手段の一つであり、フードバンクが発展すること自体が目的ではないはずだ。
フードバンクは、困っている人を助ける活動だ。メディアで報道すれば、見ている人の感情を揺さぶる。大量の食品の映像は衝撃的なので、メディアに好まれる。そのため、フードバンクを、やけに礼賛する報道も近年目立っている。10年以上前から運営資金のあり方や持続可能性に課題が多いことは、表面的にフードバンクを知る人からは、きちんと伝えられることはない。
フードバンクのスタッフは、活動と並行しながら、現場にいるからこそわかる、食品ロスや貧困の現状や実態を社会に伝え、課題解決に繋げていくことが必要だと考える。また、フードバンクを過剰評価や過小評価をすることなく、等身大で評価してほしい。そのことが「持続可能なフードバンク」への第一歩につながる。
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