「何億円パンを売ろうが大量に捨てるなら何の価値もない」借金店を年商2500万円にした 捨てないパン屋
Facebook(フェイスブック)に投稿された記事を読んだのが、「捨てないパン屋」の「ブーランジェリー・ドリアン」を知った最初だったと思う。
830件ものシェア、人々の共感を呼ぶ
ブーランジェリー・ドリアンの店主、田村陽至(ようじ)さんのこの「捨てないパン屋」の投稿は、読んだ人の共感を呼び、830件ものシェア(共有)がなされた。
筆者はマスメディアの方から「食品ロスをなくしているいい事例を知りませんか」と声をかけられることがある。2016年11月、全国紙の朝日新聞の記者から依頼を受け、このブーランジェリー・ドリアンをご紹介した。
朝日新聞の記者の方は、ブーランジェリー・ドリアンを取材しに、広島市へ飛んだ。そして、2017年3月22日付と24日付の朝日新聞で、ブーランジェリー・ドリアンの記事を載せて頂いた。筆者のコメントも掲載された。
「食品ロスを減らせば売り上げが下がるんじゃないの?」という懸念を払拭
筆者は全国から依頼される食品ロスの講演でも、ブーランジェリー・ドリアンの事例を紹介している。というのも、事業者の間では「食品ロスを減らそうとすると、モノが無くなり、売り上げが下がるんじゃないの」という懸念を抱いていることが少なからずあるからだ。
ブーランジェリー・ドリアンは、売り上げをキープし、その上で、休みを増やすことができている。
雇用する人もパンの種類も減らし、そのかわり、原材料となる小麦は、北海道産の質の優れた小麦を使っている。
こういう事例を紹介しても、「食品ロスを減らすと経済が収縮するから減らしちゃダメ」という意見も多い。2018年10月の、ある地方都市での講演会場の質疑応答の時間にも、背広姿の男性から、そのような趣旨の質問が出された。
回転寿司は、通常、決められた回転数を超えると、廻っていた寿司を廃棄する。これを「廻さない」形態の寿司店にし、食品ロスを減らし、かつ、売り上げを1.5倍に伸ばした回転寿司チェーンの「元気寿司」の事例なども、講演で紹介している。が、事業者の事例をエビデンス(証拠)としてさらに紹介していく必要があるのを感じている。
企業に経済効率向上と環境配慮を同時にもたらす「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」
2000年にドイツから日本に紹介された、環境会計の手法の一つである「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」も、経営手法として今こそ見直される時機だろう。製造工程で発生したロスに着目し、ロス(廃棄分)も考慮する。廃棄物のコストや廃棄による環境負荷の大きさを可視化できる。企業にとっては、環境負荷を低減すると同時にコストダウンにもつながる。
「何億円パンを売ろうとも、ドカドカとパンを捨てるのであれば、なんの価値もない」
ブーランジェリー・ドリアンの田村さんは、2018年11月16日、清流出版株式会社から著書『捨てないパン屋』を発行した。本の帯には「借金を抱えたパン屋を再建、年商2500万円に!」という文字が並んでいる。2015年秋から2018年11月に至るまで、焦がしてしまった数個を除けば、パンを1個も捨てていない。
本の中には、大手食品関連企業に、声を大にして伝えたい言葉が詰まっている。
その通り。持続可能な開発目標(SDGs:エスディージーズ)が2015年9月に国連サミットで採択され、今さえよければ、自分(の会社)さえよければ、という考え方では通らなくなった。
売り上げの大きさばかりを追い求め、競い合う一部の企業の姿は、滑稽なばかりだ。いくら勝ち誇ろうとも、その裏で大量の食品を捨てていることは、高校生・大学生のアルバイトやパートとして働く人始め、何人もが知っている。
成人の日の新聞広告に掲載された、作家・伊集院静さんの言葉を下記に引用する。
「食べ物は、死にたくなかったのに、死んで恵みを与えている」
田村陽至さんは、著書の中でこうも書いている。
食べ物を捨てることは、食べ物の命を二度捨てることである。