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【長期化しかねない休校、どこに影響するのか】3月までとは段違いの3つの意味

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
休校は受験生たちへどう響くか(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「4月以降の休校(臨時休業)は、3月までのとは、違いますか?」

 先日ある取材でこんな質問を受けた。もちろん、違う、と答えた。それも段違いに。少なくとも、次の図の3点で影響、性格が異なると思う。

筆者作成
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 第一に、中3や高3などの受験生にとっての影響。3月の休校は、受験生にも一定の影響はあったが、4月以降の休校ほど大きくはなかっただろうと思う。もちろん、個人差や状況によって差はあったが。入試直前にバタバタと休校になり、中学校や高校は、十分なケアができないまま入試に突入した。その影響はあったものの、中学校なり高校の学習はほとんど履修済だったはずだ。

 それに対して、この4月からの休校は、受験生にとって学習の機会と時間が減るし、学習が遅れがちになる。休校中の生徒は、学校再開したところよりも1ヶ月以上ビハインドしてのスタートとなる。これでは不利、不公平だろうという話だ。産経新聞は「新高3生、受験に響く」という見出しでこのことを報じている(2020年4月1日)。

写真素材:photo AC
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 第二に、受験生に限らず、すべての児童生徒にとっての影響だ。3月の休校は、1年間の総仕上げ、まとめが十分にできなかったし、一部の単元は教科書を読んでおいてね、という程度になってしまった。児童生徒の卒業や教員の異動もあるなか、引き継ぎも課題として残った。そうした影響は無視できない大きなものだが、4月以降の休校が今後長引けば、もっと事態は深刻だ。3月までの積み残し課題に対処しつつ、この1年間に予定していたことを行うといっても、授業内容、教育課程が終わらない、という事態が濃厚になりつつある。

 第三に、児童生徒の教職員との関係性上の影響だ。これも4月以降のほうが深刻なダメージがある。”黄金の3日間”といった表現もあるが、学級づくりでは4月の数日や数週間が、その一年を決めるうえで決定的に重要だと言われる。担任等と児童生徒との信頼関係ができるか、できないかの瀬戸際だからだ。ところが、4月以降に休校にしたところの多くは、教職員と児童生徒との関係性は十分に構築できないまま現在にいたっている。

 これら3点は、休校が長引けば長引くほど、大きくなっていくだろう。わたしは医療、感染症の専門家ではないので、的確なコメントはできないが、専門家のなかには、この新型コロナウイルスの影響は、まだ数ヶ月か1年単位で続く可能性もある、と指摘する声もある。地域によっては、ゴールデンウィーク明けまでどころか、1学期が(ないし2学期も)丸々ふっとぶ可能性もある

長期の休校を想定した備え、対策ができているか?

 では、どうするか。5月や6月以降も休校が続くかもしれないことを想定した対策、準備を、国、自治体(都道府県と市区町村の教育委員会)、各学校などが分担しつつ、協力して進める必要がある。次の図は、ラフなアイデアだが、おおまかな役割分担とやることをリストアップした。(各地の実情などに応じてどんどん加筆修正してほしい。)

筆者作成
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 一つ目の受験生への影響については、国や自治体、大学等が救済措置や方針を、なるべく早めにアナウンスする必要があるのではないだろうか。たとえば、「大学入試は通常の高校3年生の前半(あるいは2学期まで)で終えるであろう、○○の単元までを出題範囲とします」などだ。今後の新型コロナの影響しだいというところはあろうが、遅くなるほど、不満や不公平感は高まる。

 入試のメインの目的は、選抜である。学習の定着度を測るというものではない。実際、かなりの数の大学では、高校・数学などの補習を入学後に行っている。であるならば、この非常事態に出題範囲を狭くしても大きな問題、弊害はないのではないか。

 二つ目のすべての児童生徒の学習等への影響については、いろいろな対策が必要だし、一部には動きがある。休校にしても、オンライン授業やウェブを通じた課題のやりとりなどで、子どもたちの学びを止めない、という努力は重要だ。

 だが、学校や教育委員会によっては、セキュリティ管理が厳しすぎて、オンラインでの授業配信など夢のまた夢、というところもあるようだ。先日も、YouTubeにパスワード付きで授業や先生からの声がけを限定公開するのもダメ、ましてやzoomで朝の会なんてもってのほか、という学校もあると聞いた。

 セキュリティを心配するのはもっともだが、どんなサービスを使っても、完全に安全なんてあり得ない。さらに言うと、運動会や卒業式に保護者の写真撮影OKとしている学校がほとんどだと思うが、これも肖像権や情報漏洩上のリスクは残っている。が、リスクには配慮しつつも、メリットのほうが大きいから許可しているのだろう。同じ話がウェブやICTなどにも言える。保護者にも一定のリスクやトラブルの可能性はあることをお知らせしたうえで、許可を得て、テクノロジーは使っていくべきであろう。なお、デバイスや通信のない家庭へのケアはもちろん別途必要だ。

 ただし、前回の記事で書いたように、各学校、各教師にとって、授業動画を作ることが、優先順位の高いことかどうかはクエスチョンだ。別の人でもできることだからだ。たとえば、横浜市教委は500本以上も動画をつくる予定にしていて、さすが大きな市ならではの動きだとは思うが、横浜市の子どもたちに閉じずに、ぜひ全国で共有してほしい、と思う。また、民間サービスも含めると、多くの動画や教材、サービスはある。

参考記事:【休校中に学校、教師は何を進めるべきか】こんなときこそ、時間の使い道をよ~く考えよう

 教育委員会や学校がやらないといけないのは、ウェブにつながれない家庭、子どもたちをどうするかという問題と、学習に向けて子どもたちを励ましたり、フィードバックをしたりすることだ。

 たとえば、次の写真は熊本市教育センターがアップしている資料。オンライン上で課題等のやりとりをして、先生が子どもたちを励ましている様子がわかる。

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 なお、ウェブサービスなどが活用できない学校、家庭に対しては、オフラインでできることもある。たとえば、1ヶ月の休校中に1冊本を読んで、後日ビブリオバトル(書評)ができるよう、メモを作っておくこと、といった課題でもいいのではないか。

休校が長引いたとき、リカバーできるか?

 とはいえ、休校がもっと長引いた場合に、多少のオンライン授業や課題のやりとりくらいで、必要な学習がすべて終えられるだろうか、という問題は残る。オンライン授業ももちろん万能ではなく、通常の授業とちがって、子どもたちの集中力は続きにくいし、たくさんやれるとは限らない。

 そこで、各学校では夏休みを短くしたり、一部の単元はメリハリを付けてスピードアップしたりするなど、一定の対応はとるだろう。だが、それでも授業日数が足りない、という事態は想定される。さすがに小学生らに1日7時間も8時間も授業をするわけにもいかないし、夏休みをすごく短くすることには弊害もあるからだ(熱中症のリスクを抱えたまま、登下校や学習でいいのかなど)。

 それに、すべての単元を終えたいからといって、学校再開後、あまりにもスピードアップしては、付いて来られない児童生徒は、取り残されてしまう。学力格差はもっと広がるかもしれない。

 そんななか、文科省は、つい先日、4月10日付けの通知で、家庭学習ができていれば、授業は行わなくてもよいという異例の特例を発表した。通知文から引用する。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、休業が長期化し教育課程の実施に支障が生じる事態に備えるための特例的な措置として、3.の対象となるやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対し、学校が課した家庭学習が以下の要件を満たしており、児童生徒の学習状況及び成果を確認した結果、十分な学習内容の定着が見られ、再度指導する必要がないものと学校長が判断したときには、学校の再開後等に、当該内容を再度学校における対面指導で取り扱わないこととすることができること。

<要件>

1)教科等の指導計画に照らして適切に位置付くものであること。

2)教師が当該家庭学習における児童生徒の学習状況及び成果を適切に把握することが可能であること。

 留年させたくないし、一部の単元が未履修という事態は避けたいという配慮からの苦肉の策であろう。だが、現場の教員らからは、疑問どころか、「あきれた」、「ふざけるな」という声もあがっている。

●家庭学習だけで学習が定着するなら、教師、学校は要らないということになるのでは?

●現場では、家庭学習だけではしんどい子を何人も何十人も見てきているのに、非常時の措置とはいえ、この通知はなんなんだ?

 そんな意見もある。

 

 難しい問題だ。何を優先させるかによって、政策も変わってくる話だと思う。きちんと、教育課程上、必要な学習を習得させることを重視するなら、文科省の通知のような対応ではなく、思い切って、9月新学年スタートするという案もある。実際に、かなりの数の教員たちからはそういう声は上がっている。が、当の子どもたちにとっては、半年も貴重な時間が余分にかかることになるので、手放しでは歓迎できないだろう。ここでは問題提起にとどめ、これ以上は書かないが、どんな政策、対応にも功罪はある。

最優先は、先生たちが児童生徒とつながりをつくり、キープすること

 そして、3つ目の影響、学級担任や教科担任と児童生徒との関係が築けないままという問題については、今すぐでも、各学校は動くべきだ。前回までの記事で関連することは書いたので、繰り返さないが、オンライン朝の会なども選択肢だろうし、それが難しい家庭には別途電話などでもフォローをしていくことを考えてほしい。

 もちろん、リアルに対面するときほど信頼関係をつくることは難しいが、だからといって、ほとんどなにもしないまま、「課題プリントをやっておくように」だけでは、関係性はゼロのままだ。そんな状態を今後、1~2ヶ月も、場合によっては半年も続けて、家庭学習主体で、子どもたちの学びが続くわけがない。

 要約する。休校が今後も長期にわたるかもしれない想定に立って、国、自治体、各学校等が役割分担しつつ(やっていることが重複するのは時間がもったいないし、なるべく避けたい)、協働していきたい。新しい学習指導要領では、子どもたちの協働的な問題解決力が必要とされるとの認識に立っているが、私たち大人たちのそういう力も試されている。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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