浅田真央選手「スマイル」の心理学:素晴らしき世界で最高の人生を送る秘訣
■天才少女浅田真央→苦悩のアスリート
12歳の天才少女真央ちゃん。三回転を連続三回。幼いころの浅田真央選手は、楽しそうにクルクルと回っていました。
そして19歳で始めてのオリンピック。銀メダル獲得という立派な結果だったのですが、金メダルを期待されていた彼女はフリーの演技で思ったような演技ができず、「あっという間に終わってしまった」と涙ながらにインタビューに答えました。
21歳のとき、母親が病気のため亡くなります(享年48歳)。真央さんはグランプリファイナルの舞台となっていたカナダから緊急帰国ましたが、最期を看取ることはできませんでした。あまりにも早すぎる死でした。
フィギュアスケートはお金のかかるスポーツです。二人の娘を一流のスケーターにするために、ご両親は苦労を重ねてきました。特にお母さんは、情熱的だったようです。いつも浅田真央選手の側にいて、彼女を支え続けます。浅田家にとっては、何よりもスケートが第一の生活でした。
スケートのために小学校を休みがちになっていったときも、「娘の人生がかかっている」と頭を下げ続けたといいます。前のコーチを頼んだのも、今回の佐藤信夫コーチを頼んだのも、母親でした。母親の必死の依頼でした。
その母親が亡くなります。有名人の辛いところは、こんなときもゆっくり悲しむまもなく、活動を続けなければならないことです。
■佐藤信夫コーチと浅田真央選手
報道によると、佐藤信夫コーチと浅田選手は当初しっくり行かない部分もあったようです。浅田選手は、自分の一番の持ち味であるトリプルアクセルに誇りを持ち、こだわってきました。しかし佐藤コーチは、ジャンプを根底から見直すために、トリプルアクセルを封印させます。
一年目、結果はついてきませんでした。浅田真央選手らしからぬ演技が続きます。国民からも「どうした浅田」と不安の声も聞かれ始めました。しかし、次のNHK杯で、佐藤コーチの指示に従った浅田真央選手は、3年ぶりにメダルを獲得します。ここに、浅田真央選手と佐藤信夫コーチの固い絆ができあがりました。
■ソチオリンピック、ショートプログラム
23歳になった浅田選手。金メダルを期待されるソチオリンピック。心身共に好調で挑んだ今回のソチオリンピック。しかし、まさかの失敗。茫然自失です。
■ショートプログラム後
フィギュアスケートのジャンプは、とても微妙なものだそうです。午前中はできていたのに、午後はできなかったりします。ほんの少しの力みが、バランスを崩させます。
メダルはほぼ絶望。こんな大失敗の直後、上手くいくわけがありません。フリープログラム10時間前の練習でも、浅田選手は、精彩がありません。
佐藤信夫コーチは、練習中の浅田選手を呼び、激しい口調で語ります。ショートプログラムの得点は三分の一。まだ三分の二ある。まだ半分も終わっていないのに、その気合の入らない練習は何だ!
そして、以前コーチした松村充さんの話をしました。
村松は、フリー直前高熱で倒れた。二日間食事もとれず点滴だけだった。しかし彼は見事に滑りきった。
この話を聞いて浅田選手は
「自分は病気でも何でもないから大丈夫だ」と吹っ切れたといいます。
佐藤信夫コーチは、かつて村松選手に言ったように、浅田真央選手にも優しく力強く語ります。
「倒れたら、リンクの中まで俺が助けに行くから、安心してやってこい!」
いつもは、リンクの中は1人だと厳しく語るコーチのこの言葉に、彼女はコーチの「愛」を感じたと語っています。
■フリー
三回転を8回。エイトトリプルを完璧に決めて滑り終わった浅田真央は、万感の思いを込めて、天を仰ぎました。
浅田選手は語ります。
自分の思っていた演技ができた。コーチと共に自分のやってきたことは全部出せた。今まで支えてきてくれた人への恩返しができた。コーチにも、スタッフにも、家族にも、ファンにも、恩返しができたと思う。
■エキシビション
笑顔いっぱいのエキシビションです。曲は、カナダのシンガー・IMAが歌う「スマイル/この素晴らしき世界」。
浅田真央選手は語ります。
「使用曲そのままに、観客から大きな声援をもらった。「つらいときも、苦しいときも、笑顔を忘れないでほしい」というメッセージを込めた」。
「このエキシビションで最後だったので、思いを込めて滑りました」
「フリーは人生の中で最高な演技ができた。メダルという結果は残せなかったけど、特別でした」
「バンクーバー五輪もソチ五輪も含めて、最高のオリンピックでした」
自分らしく、今の最高の自分が出せた、自分の苦労と努力が今ここに結集され報われた。そう思えるとき、人は感動の涙を流し、最高の笑顔になれるのだと思います。
浅田真央選手の今回の演技は最高でした。それは、お母さんも知っています。
「(母親の私は本番の演技は見ないけれど)真央がいい演技ができたかどうかは、終わった後の顔を見れば分かる」。
■人生って何だろう。世界って何だろう。
私たちは、毎日人生を過ごしていますが、貯金の額や持っているブランド品やメダルの数が、「人生」ではないでしょう。私たちが、今まで生きてきたことをどう振り返るか、日々どのように生きているのかが、人生ではないでしょうか。
私たちは、世界の全てを経験しているわけではありません。それぞれが経験して、それぞれの人が知っている世界こそが、その人にとっての世界になります。
前回バンクーバーオリンピックの銀メダルは、悔し涙のメダルだったかもしれません。今回ソチオリンピックのショートプログラムは最悪だったかもしれません。
しかし、今の浅田選手にとっては、悔しい銀メダルのバンクーバーと最高のフリーはできたけれど6位だったソチオリンピックと、二つとも最高のオリンピクだと言うのです。
引退かどうかはまだわかりませんが、一つの集大成だったのでしょう。逆境を乗り越え、今できる最高のことができた。そう感じられるとき、それまでのプロセスの一つ一つも、最高のものと感じられるのでしょう。
ある将棋の先生が言っていました。
「将棋と言うのは不思議なもので、結局最後に勝てば、途中の一手一手は、みんないい手になってしまう。」
人生とはそういうものなのかもしれません。心理学的に言えば、過去の思い出が浄化されていくとも言えるでしょう。あのことも、このことも、そのときは辛かったけど、そのおかげで今の私があると。
浅田選手も言っています。
「スケートが私を成長させてくれた」。
ショートプログラム後の心と体の復活は、コーチからの強い叱責と強い愛のおかげでしょう。吹っ切れ、開き直れ、当たって砕けろのチャレンジ精神がよみがえりました。
心理学的に考えれば、人が最高のパフォーマンスを出すためには、厳しい目標と、そして愛されている土台が必要なのです。
おめでとう。ありがとう。浅田真央選手。
*読者からのご指摘による補足(2014.2.24.21:40)
読者のご指摘から知りました(ありがとうございます)。フリーのエイトトリプルの一部は、採点の際に「回転不足」とされました。つまり、「完璧」な演技ではありませんでした。ただ浅田真央選手は、その採点を知った上で、今の自分を出し切った最高の演技と感じたのとでしょう。(「完璧」ではななかったことが、引退をはっきり宣言しないことにつながっているかもしれませんね。)
→「浅田真央選手からのメッセージ:IMA「スマイル/この素晴らしき世界」:傷ついても微笑んで。」:Yahoo個人「心理学でお散歩」
IMA「スマイル/この素晴らしき世界」の歌が聴けます(日本語歌詞つき)。
→浅田真央選手「ザ・アイス2014」This Little Light of Mine あなたの光を輝かせよう
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○吹っ切る、開き直る、当たって砕けろの心理学:迷いと恐れを越えて(心理学と浅田真央選手から学ぶ):Yahooニュース個人「心理学であなたをアシスト!:人間関係がもっと良くなるすてきな方法」
○太陽は雲の上で輝く:現実を無視せず真実を忘れず、嵐と戦う人の役立つために:浅田真央選手のように、チャップリンのように
・スピードスケート清水選手の金メダルで学ぶ緊張とリラックスの心理学