2018年に反響が大きかった10の事件、その後どうなった?
2018年に配信した拙稿のうち、反響が大きかった10の事件を挙げ、この1年の動きやその後の状況について振り返ってみました。
【第1位 】
スプレー缶でも大量にガスを放出して引火すれば、建物を吹き飛ばすほどの破壊力があり、それこそテロにまで応用される危険がある、ということが示された事件だ。
顧客から手数料を取りながらも実際には除菌消臭作業を実施していなかったのではないかとか、各店舗に重いノルマが課せられていたのではないか、といった不動産業界の闇にも飛び火しており、騒動は収まりそうにない。
警察は不動産店の店長に単なる過失ではなく重過失があったとみて、鋭意捜査を進めている。
12月22日で発生から2年となる新潟県糸魚川市大規模火災事件では、負傷者17名、被害建物147棟、被害総額10億円超を数えた。
大型コンロの消し忘れで出火元となった中華料理店の店主は、2017年に業務上失火罪で在宅起訴され、禁固3年、執行猶予5年の有罪判決が確定している。
今回の事件はこれよりも被害規模が小さいが、店長の刑事処分や量刑を決する際、一つの基準となるだろう。
なお、糸魚川の事件では、思わぬ強風により被害が拡大したこともあり、災害救助法や被災者生活再建支援法に基づいて公的な被害者支援が図られたが、今回の事件では望めない。
不動産店の運営会社が復旧費用を全額負担し、休業補償も行うとのことだが、具体的な金額のほか、慰謝料の支払いにまで及ぶのかは未知数だ。
【第2位】
「新たな展開を迎えた日大アメフト部のタックル事件 今後の捜査や刑事処分の見込み」
被害者側の刑事告訴を受け、警察による捜査が進められた。
しかし、複数の角度から試合を撮影した動画を分析したり、他の部員ら200人超から事情聴取をしたものの、証拠上、当時の監督やコーチによる違法行為の指示までは認定できないとされ、刑事事件としては危険タックルを行った部員による単独犯として処理されることとなったと報じられている。
そのとおりであれば、3名とも在宅のまま書類送検され、部員については被害者側が寛大な処分を望んでいることから、起訴猶予による不起訴で終わるだろう。
他方、当時の監督やコーチについては、同じく不起訴でも、犯罪成立が前提となる起訴猶予ではなく、「疑わしきは罰せず」の観点から嫌疑不十分となるはずだ。
それでも、事件後の日大の対応の悪さや、記者会見で関係者が示した傲岸不遜な態度に起因する悪印象は消えてなくならない。
医学部でも、OBの親族を優遇する不適切な入試が行われていたことが明るみに出るなど、日大の不祥事は続いている。
大手予備校によると、日大の志望者も激減しており、日大ブランドの凋落ぶりは明らかだろう。
【第3位】
10月17日の合法化施行後、カナダでは嗜好用大麻が売れに売れ、在庫不足に陥る一方、大麻産業に新規参入する企業も増えているという。
米国ニューヨーク州も2019年に嗜好用大麻を解禁する方針だ。ニュージーランドも2020年に合法化の是非を問う国民投票を実施する。
しかし、大麻を巡るわが国の状況は、こうした海外の動きに全く影響されていない。
11月から12月に限っても、音楽プロデューサーや追手門学院大アメフト部主将、DJ、造園業者、民泊経営者らが所持容疑で、アメフト社会人リーグの選手らが輸入容疑で、姫路の中学3年生が譲受未遂容疑で、次々と逮捕されている。
12月27日にも、横須賀の自宅で大麻草120本余りを栽培した疑いで無職の男が逮捕されたばかりだ。
【第4位】
警察がのべ14万人以上の警察官を投入して行方を探したが、逃走犯の男はその網の目をかいくぐり、自転車を使った日本一周旅行を装って逃走を続けた。
堂々と記念撮影にまで応じるほどだったが、万引きの失敗で足がつき、逃走から50日近くを経て山口で逮捕され、加重逃走罪のほか、逃走中の窃盗などで次々と起訴された。
警察や検察の見立ては監視が緩い留置担当者の日を狙ったというものだが、取調べでは黙秘を貫いており、事件の背景や全貌は不明のままだ。
他方、富田林署の署長や留置担当者ら7名が減給や戒告の懲戒処分を受けたほか、大阪府警本部長の辞職も決まった。
しかし、警察が不祥事に際して自らに不利な情報を小出しにする姿勢も明らかとなっている。
例えば、留置担当者が内規で禁止されている私物のスマートフォンを持ち込み、野球中継などを見ていた間に逃走されたという話だったが、実はそれがアダルト動画だったという点だ。
注意散漫になっていたこと自体が問題であり、スマホで何を見ていたとしても関係ないのかもしれないが、他人に音声を聞かれたくないということでイヤホンを装着し、男が接見室のアクリル板を破壊した音すら気づかなかったというのが真相ではなかろうか。
【第5位】
「なぜ警察はチケキャン元社長らを詐欺で立件するに至ったのか ネットを舞台としたダフ屋行為の罪と罰」と「ついにチケット転売規制法が成立へ 気になる今後の運用と残された課題」
国会でチケット転売規制法が成立し、来年6月に施行される。
警察はこうした新規立法の必要性を認めつつも、チケットキャンプ運営会社の元社長らを刑法の詐欺罪で立件したように、むしろダフ屋が転売目的を隠し、嘘をついて興行主側から転売禁止チケットを手に入れ、だまし取ったという部分を重く見て、詐欺罪を果敢に使おうとしてきた。
仕入という早い段階で検挙できるし、「詐欺」という罪名のインパクトは大きい上、最高刑は懲役10年と重く、罰金刑がないからだ。
事案によっては、転売サイトを詐欺罪の共犯で、ダフ屋から購入した者を盗品等有償譲受罪で、それぞれ検挙できる。
もっとも、こうした刑罰の導入や興行主側が「ダメ!絶対」と叫ぶだけでは、不正転売の根絶は無理だ。
厳格な本人確認措置の導入や、手数料の安い公式リセールサイトの開設などが不可欠であり、興行主側の本気度の高さや、消費者のモラルが試される法律だと言えるだろう。
【第6位】
「佐川氏に『刑事訴追を受けるおそれ』がなくなったから再喚問で証言義務あり? 本当か」
大阪地検は、5月、虚偽公文書作成罪などの容疑で告発されていた佐川宣寿前理財局長ら38名を嫌疑不十分で不起訴にした。
大阪の特捜部に期待した人も多いだろうが、そもそもこの組織にはこうした政治色の強い全国区の事案を立件できるだけの捜査能力などない。せいぜい詐欺や横領、脱税、自治体レベルの疑獄くらいが背丈にあった事件だろう。
今回のケースは、虚偽公文書作成罪には当たらないとしても、証拠隠滅罪は成立すると考えられる。捜査中の状況下で売買に至る経緯を削除すれば、オリジナルの決裁文書の「証拠」としての価値を滅失・減少させることになるからだ。
告発した市民団体などは、不起訴処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てた。
市民感覚に基づいて審査が行われるわけだから、不起訴に対する検察の理由づけには相当の説得力が求められるし、だからといって検察の判断を容認するとは限らず、今後についてはなお予断を許さない。
【第7位】
「検察はTOKIOメンバーによる強制わいせつ事件の刑事処分をどうするか」
予想どおり、東京地検は5月にこのメンバーを起訴猶予で不起訴にした。
強制わいせつ罪が成立するものの、事件後、被害者側と示談が成立し、既に被害届も取り下げられているからだ。
刑法改正により、強制わいせつ罪は被害者の告訴がなくても起訴できるようになった。
それでも、被害者のプライバシーや心情に配慮しようという検察の姿勢は従前と変わらないということだろう。
他方、このメンバーは、所属していた芸能事務所との契約が解除となった後、入院して闘病生活を続けているという。
NHK紅白歌合戦の連続出場も、24回で途切れた。
【第8位】
譲位・改元まで4か月と迫る中の12月27日、大阪拘置所で死刑囚2名に対する死刑が執行された。
1988年に投資顧問会社社長と社員を拉致して1億円を奪い、彼ら2人を絞殺してコンクリート詰めにしたコスモ・リサーチ事件の共犯者らだ。
カルロス・ゴーン氏が東京拘置所で勾留され、わが国の刑事司法制度もこれまでにないほど海外から注目される中、死刑執行、特に東京拘置所での執行は当面ないだろうとの見方もあった。
その期待に冷水をかけ、場所は違えど大阪拘置所で年末に執行されたということは、年明け以降も、山下貴司法相の命令に基づき、粛々と執行が続けられることだろう。
特に譲位・改元前のタイミングでの駆け込み執行や、執行される死刑囚の選定作業が注目される。
恩赦制度の下で最も恩恵を受けるのは、死刑囚にほかならない。死刑が無期懲役に変わるということは、命が助かるということを意味するからだ。
しかし、こうした政府の厳しい姿勢を見ると、少なくとも譲位・改元に伴って死刑囚に恩赦が与えられることはないだろう。
【第9位】
「リニア談合事件の捜査手法をめぐり、大成建設の弁護人が特捜部に抗議をした件について」
12月17日、リニア談合事件で勾留中だった大成建設の元常務執行役員と鹿島の元専任部長が保釈された。
カルロス・ゴーン氏らの事件の衝撃で報道の扱いが小さくなったため、知らなかった方も多いだろう。
保釈保証金は前者が1千万円、後者が800万円だった。
3月の逮捕・起訴以来、実に約9か月ぶりに身柄の拘束を解かれたことになる。
この2社と大林組、清水建設が談合し、あらかじめ受注予定業者を決め、見積価格に関して情報交換を行ったとされる事件だ。
にもかかわらず、後2社は法人こそ起訴されたものの、談合担当者は起訴はおろか逮捕すらもされていない。
なぜか。
大成建設と鹿島が容疑を否認し、特捜部に恭順の意を示さなかったからだ。
公判前整理手続が相当進み、来年2月の初公判も決まり、一家団欒の正月が近づいてきたということで、ようやく保釈に至った。
もし有罪になったとしても、私利私欲ではなく、国策であるリニア事業の円滑な遂行のため、また、組織人として会社のために犯した事件だ。
逮捕も起訴もされていない大林組、清水建設の担当者とのバランスからも、間違いなく執行猶予となる事案だ。
9か月という勾留期間分が、そのまま事実上の刑罰に当たる形となった。
これでは、「人質司法」と揶揄(やゆ)されても致し方ない。
ところが、わが国の刑事司法では、こうした事態も決して珍しい話ではない。むしろごく普通の光景と言えるだろう。
真っ先に検察が槍玉に挙げられるが、これを唯々諾々と許しているのは裁判所にほかならない。
裁判所の意識が変わらなければ、わが国の司法制度が根本から変わることはないだろう。
【10位】
「バスケ買春、どこが問題だったか」と「買売春、なぜ違法なのか」
この件は、本音と建前を使い分けるわが国の文化をよく表しているといえる。
わが国でも、建前では違法と言いつつ、実際には性交のサービスまで提供されている一部の性風俗をグレーゾーンとして放置し、黙認しているからだ。
その後も、山口県美祢市長が台湾視察の際に市議らと風俗店を訪れるなどしていたことが発覚し、辞意を表明する事態となっている。
それに至らなくても、財務事務次官や鹿児島県警で広報を担当する副署長といった権力者が女性記者に対してセクハラ発言に及び、問題視され、辞任や減給処分に至っている。
わが国にはセクハラ罪という犯罪はないが、相手の身体に触れた場合、強制わいせつ罪などに当たりうるし、言葉によるセクハラであっても、その内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪に当たりうる。
また、各都道府県の迷惑防止条例は、飲食店など公共の場所で人を著しく羞恥させたり不安を覚えさせるような卑わいな言動に及ぶことを罰則つきで禁じている。
セクハラも犯罪に当たる場合があるので、注意を要する。(了)