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カナダ大麻ドリンク 日本人が飲んだらどうなる

前田恒彦元特捜部主任検事
アメリカ・ワシントン州で販売されている大麻入りのコーヒー(提供:Legal/Splash/アフロ)

 ついにカナダが嗜好用大麻の合法化に舵を切った。商機と見た業績不振の大手ビールメーカーも、大麻入り飲料への参入を検討中だ。では、これを日本人がカナダで飲んだらどうなるか――

【なぜ合法化に至ったか】

 カナダは1923年から大麻を規制しているが、既に2001年には医師の処方箋に基づく医療用大麻を合法化していた。

 今度は10月17日から嗜好用の大麻も合法化する、というわけだ。

 実際に数多く使用されている現実があり、国内の市場規模も42億~62億カナダドル(約3250億~4800億円)相当と推計されている。

 犯罪組織に牛耳られるくらいであれば、引き続き輸出入を禁じた上で、国内に政府公認の製造販売ルートを作った方がマシだと考えたわけだ。

 そこから税収を得られるし、ヤミ業者からの入手や未成年者への販売、1回の最大所持量などを厳しく規制できるからだ。

 既に隣国のアメリカではカリフォルニア州やコロラド州など9つの州で嗜好用大麻が合法化されており、大麻入りの炭酸飲料コーヒーなども販売されている。

 それでも、国家レベルの合法化は、2013年の南米ウルグアイに続き2例目となる。

 大麻といえば何かとオランダが引き合いに出されるが、実は今も所持や使用は違法という建前になっており、一定量以下の自己消費であれば起訴しないといった政策的な取扱いが行われているため、処罰されていないにすぎない。

 その意味で、今回のカナダの合法化は、G7を筆頭とした先進国の中でもかなり思い切った政策と言える。

【わが国は厳しい】

 他方、わが国では、使用こそ処罰の対象から外されているものの、所持や譲渡、譲受、栽培、輸出入は大麻取締法で厳しく規制されている。

 営利を目的とせず、個人で使用するためであっても、次のとおり刑罰は重い。

栽培、輸出入:7年以下の懲役

所持、譲渡、譲受:5年以下の懲役

 覚せい剤と違って使用が処罰されていないのは、自然界にも自生しているなど、体内に入った大麻が何に由来するものなのか、尿や血液の鑑定では特定できないからだ。

 使用はその前提として乾燥大麻や大麻樹脂などの所持があるので、客観的に明らかな所持行為だけを処罰すれば足りると考えたわけだ。

【国外犯規定に引っかかる】

 重要なのは、薬物犯罪に対する国際的な取締りの強化を目的とした1991年の法改正で、こうした処罰規定が国外における行為にも適用される、という点だ。

 すなわち、大麻を合法化している国であっても、単にその国の法律で処罰されないだけで、日本の法律で処罰されることに変わりはない

 使用こそわが国の法律でも処罰されず、カナダで大麻ドリンクを飲んだだけだとセーフだが、その前提として購入したり所持したという事実があるわけで、理屈の上ではわが国の大麻取締法が定める譲受罪や所持罪が成立する。

 刑法で「国外犯」と呼ばれるもので、これには犯罪の性質ごとに様々なパターンがある。

 例えば、アニメ映画「ルパン三世 カリオストロの城」の中で「ゴート札」と呼ばれる偽札が描かれ、1万円札も偽造されていたが、これが実話であり、実在の国での出来事であれば、わが国の通貨偽造罪で犯人グループを処罰することができる。

 同様に、カナダで日本人が人を殺したり、カナダ人が日本人を殺せば、死刑廃止国であるカナダの法律とは別に、犯人をわが国の殺人罪で処罰することが可能だ。

【実際の検挙は困難、しかし…】

 とはいえ、こうした国外犯の検挙は実際には困難だ。

 国家主権の問題があり、他国にはわが国の捜査当局の捜査権限が及ばず、証拠の収集ができないからだ。

 大麻ドリンクの例も、理屈上はわが国の譲受罪や所持罪が成立するが、帰国後、立件されることはないだろう。

 既に消費され、瓶なども廃棄されており、どこで誰から入手したもので、それが本当に大麻入りのものだったのか、鑑定によって客観的に確定することができず、警察としても検挙しようがないからだ。

 もっとも、繰り返しになるが、国外における大麻の所持などがわが国の大麻取締法に触れ、違法であることは揺るがない。

 使用についても、たとえ法律上は処罰の対象外だとしても、なお世間の目は厳しい。

 カナダ旅行中に大麻ドリンクを買ったり飲んだりしている写真をSNS上にアップするなどしていれば、炎上を招いたり、職場や学校などから処分を受けたりする可能性が大だ。

 現に、2016年には、スノーボードの強化指定選手2名が、嗜好用大麻が合法化されているアメリカ・コロラド州で合宿中、大麻を使用していたとして、日本スキー連盟から競技者登録の無期限停止処分などを受けている(うち1名は2017年12月に復帰)。

 ただ、むしろ大麻ドリンクについて懸念されるのは、密輸だ。

 大麻入りの炭酸飲料やコーヒーなどの外見は通常のエナジードリンクやボトルコーヒーとあまり変わらないため、乾燥大麻や大麻樹脂に比べると、罪悪感が薄くなりやすい。

 わが国では手に入らない珍しい土産物だということで、軽い気持ちでスーツケースに入れて持ち込もうとしたり、国際郵便で送れば、輸入罪などで検挙され、逮捕、起訴されるので、注意を要する。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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