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21世紀のリーガエスパニョーラ、私的ベスト11。メッシ、ロナウドが与えた時代の輝き

小宮良之スポーツライター・小説家
今世紀のリーガを彩ったロナウドとメッシ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 21世紀、リーガエスパニョーラ至高のベストイレブンとは――。

 過去20年、スペインでは豪華なスーパースターたちが競演してきた。彼らは一つの時代を作った。1990年代までセリエAのものだった「世界最高峰サッカーリーグ」の称号を完全に取り戻したのだ。

 以下に独断と偏見で、ベストイレブンを選出した(カッコ内の所属先はリーガ時代の在籍クラブ)。

私的21世紀リーガベストイレブン

GK

イケル・カシージャス(レアル・マドリード)

DF

ダニエウ・アウベス(セビージャ、FCバルセロナ)

カルレス・プジョル(FCバルセロナ)

セルヒオ・ラモス(セビージャ、レアル・マドリード)

MF

シャビ・アロンソ(レアル・ソシエダ、レアル・マドリード)

シャビ・エルナンデス(FCバルセロナ)

アンドレス・イニエスタ(FCバルセロナ)

ファン・カルロス・バレロン(ラス・パルマス、マジョルカ、アトレティコ・マドリード、デポルティボ・ラ・コルーニャ)

FW

リオネル・メッシ(FCバルセロナ)

クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード)

ダビド・ビジャ(スポルティング・ヒホン、サラゴサ、バレンシア、バルサ、アトレティコ)

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20171206-00077905/イケル・カシージャスの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20180611-00086190/セルヒオ・ラモスの記事

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/wfootball/2020/04/26/___split_35/カルレス・プジョルの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20170521-00069839/シャビ・アロンソの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20180428-00084550/アンドレス・イニエスタの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20190602-00126934/シャビ・エルナンデスの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20181207-00106765/ダビド・ビジャの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20160915-00062189/クリスティアーノ・ロナウドの記事

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20180316-00082763/リオネル・メッシの記事

スターが揃った20年

 2000-01シーズンから、10シーズン以上プレーしたことをベースにしている。

 彼らに共通しているのは、サッカーを革新させた点だろう。

 例えばアウベスはサイドバックとして、規格外だった。右サイドでボールを引き出し、攻撃を仕掛ける。ブラジル人は伝統的に優れたサイドバックを多く生み出しているが、中でもアウベスはポジションをアップデートさせた。プレーメイカーのようでも、ウィングのようでもあった。並外れたフィジカル能力を持ち、その力をボールを使って発揮することができた。

「今まで見たことがない選手」

 ジョゼップ・グアルディオラの表現に一票だ。

 もっとも、ここに挙げた選手だけでなく、もう三つ四つ、すぐにベストイレブンは作れるだろう。

 例えば、ラウール・ゴンサレス、ロベルト・カルロス、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、ルイス・フィーゴ、ロナウジーニョ、セルヒオ・ブスケッツ、サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、ロベルト・アジャラ、フェルナンド・トーレスなども遜色はない。90年代とまたがっているだけに選出は難しいが、フェルナンド・イエロも破格の存在だった。現役選手でも、ルカ・モドリッチ、ジェラール・ピケ、マルセロ、ルイス・スアレス、ヤン・オブラクなど枚挙にいとまがない。

デ・ラ・ペーニャの輝き

 10人識者がいれば、10人違うベストイレブンになるだろう。

 個人的には、イバン・デ・ラ・ペーニャの名前を挙げたい。御大ヨハン・クライフが、最後に送り出したラ・マシアの宝。クライフが解任された1995-96シーズン、19歳ながら主力としてクリエイティブなプレーを見せている。「リトル・ブッダ」と呼ばれた彼のパスやドリブルは詩的だった。

 その後、デ・ラ・ペーニャはクライフを失って道に迷い、イタリア、フランスで不遇を受ける。しかし2002年に同じバルセロナのエスパニョールに移籍後は、天才的なパスセンスを見せた。筆者がバルセロナで過ごしていた2005年前後の彼のプレーは神がかり、UEFAカップ(現行のヨーロッパリーグ)に進出させ、スペイン代表にも抜擢され、スペイン国王杯優勝へと導いた。息を吸って吐くように自然に出すキラーパスは、達人の域だった。

 デ・ラ・ペーニャのように、中堅クラブのエースだった選手の輝きも眩しい。リーガ現役選手としては、メッシに次ぐ得点数を稼ぐFWアリツ・アドゥリス、抒情詩のようなキャリアを送るホアキン・サンチェスも、その一人だろう。とにかく、実力派スター揃いの時代だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20181003-00097988/ホアキン・サンチェスの記事

カシージャスの記憶

 オールタイムのバロンドールを選ぶのは、ベストイレブンよりも難しい作業と言えよう。

 しかし、その所見を記すことで、輝かしい選手たちの実像と、その時代そのものに迫りたい。

〇第3位

カシージャス

 ゴールライン上で守る”線のGK“として、他の追随を許さなかった。シュートに対する反応の速さは、過去20年で最高。その反射神経と体の使い方でスーパーセーブを見せ、「聖なる守護神」の異名を取った。1対1にも強く、「ガンマン」と呼ばれる駆け引きで、対峙した時の強さを見せた。

 プレーエリアの広さや攻撃への関与では、ビクトール・バルデス、テア・シュテーゲンが抜きん出ている。“面のGK”としては、フランシスコ・モリーナも一時代を作った。

 しかしカシージャスの存在感は抜群で、多くの栄光をもたらした。

 今もインタビューでのやりとりを覚えている。「1999年に優勝したワールドユースはサブでしたが」と質問した時、カシージャスは「レギュラーだった」と言い張った。当然、記録は確認した。

 だが、彼は譲らなかった。

「自分はレギュラーだよ、いつだってね」

 彼は冷淡に言った。

 優れたGKは、記憶をポジティブに塗り替える習性があるという。さもなければ、悪い記憶に引きずられる。彼は勝利の記憶だけを頼りに、5度のリーガ制覇、3度のCL制覇、代表としても二度のEURO、ワールドカップを獲得したのだ。

 カシージャスを思う時、この記憶が紐づけされるのだ。

マデイラのロナウド

〇第2位

クリスティアーノ・ロナウド

 ロナウドの生まれ育ったマデイラ島まで、ルーツ取材に出かけたことがある。

 当時はまだ、坂の途中にあるロナウドの実家が残されていた。そこに家族5人が暮らしたとは思えないような“あばら家”だった。近所の人を取材すると、「夜遅くになっても、両親は帰ってこなかった」という。ロナウドは一人坂道にいて、ボールを蹴り、転がってくるボールを蹴り返していたそうだ。

「父親は飲んだくれ。母親は客船の調理係で頑張っていたけど、兄はドラッグ漬けになってしまって。姉がいないと幼いころから一人だった。『自分がサッカー選手になって、家族を一つにする』って子供なのに息巻いていたよ」

 そんな話を聞いた。

 ロナウドが不遜とも言える言動に及ぶとき、どうしても当時取材した光景が思い浮かぶ。

 試合ごと、もしくは試合中でも、ロナウドはプレーを進化させる。デビュー当時の彼は“悪魔のドリブラー”と言われたが、ドリブルの使い手の域を出なかった。それが切り込んでのシュートを極めるようになると、ゴールが増える。そして鍛え上げた肉体を生かし、ゴールに近いポジションへ。様々な得点パターンを見せ、記録的な数のゴールを積み上げた。そして、何より大舞台で勝負に関わるゴールを決めた。

 チャンピオンズリーグは歴代得点数1位。5度の栄冠を勝ち取っている。凄まじいエネルギーを発し、ゴールを取り続けてきた。

 その力の源は、「泣き虫」と言われた子供時代にあったと言える。

 ただ、ロナウドはいつもボールを手放さなかった。憎しみを背負い、ぜいたくな暮らしを求めてサッカーをしていたわけではない。人生を懸けたサッカー愛が、彼を成長させたのだ。

メッシの進化

〇第1位

メッシ

 筆者は偶然にも、メッシのリーガエスパニョーラ、デビュー戦に立ち会うことができた。

「ご褒美ではない。彼が勝ち取ったデビュー戦だ」

 当時、フランク・ライカールトが話していたように、17歳にして十分な力を備えていたと言える。

 しかしファーストインパクトはそこまで強烈ではなかった。左利きの俊敏な選手の域を出ていない。タックルを食らい、おとなしくなってしまう、そんな不安の声も聞かれた。ところが、メッシはプレーするたび、目に見えて成長した。相手ディフェンダーが動きを読んでも、次の試合では加速し、常に講じてきた策を打ち破った。その戦いを重ねることで、いつしか完全無欠な選手になっていた。

「メッシのようなドリブルをする選手は少なからずいる。しかし、あいつはすべての技術を上達させてきた。ヘディングさえもね。彼ほどの選手はいない」

 アウベスはそう言って感嘆の声を上げていた。

 史上最多6度のバロンドールを獲得。多くの関係者が、「史上最高のサッカー選手」に名前を挙げる。メッシは進化の最終形態に入ったのだろう。

次なる時代

 メッシ・ロナウド時代は、眩しい。しかし、そのサイクルも終わりに近づいている。次の世代を背負うのは、ジョアン・フェリックス、アンス・ファティ、あるいは久保建英か。

 彼らはサッカーを革新させるはずだ。

 次の20年、リーガは再び歴史を刻む。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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