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天才MFシャビが現役引退。名将グアルディオラを超えるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
現役引退を発表したシャビ・エルナンデス(写真:ロイター/アフロ)

 2019年5月20日、カタールのアル・サッドでプレーするシャビ・エルナンデスが、アジアチャンピオンズリーグの試合を最後に、39才でスパイクを脱いでいる。

 FCバルセロナの司令塔として、シャビは一つの時代を作った。リーガエスパニョーラ優勝8回、チャンピオンズリーグ優勝4回、スペイン国王杯優勝3回、クラブワールドカップ優勝2回。あらゆるタイトルを取り尽くしている。スペイン代表の主力としても、2度の欧州王者(2008,2012)だけでなく、2010年南アフリカW杯では世界王者にも輝いた。

「自分は39才まで、長く現役生活を送ることができた。自然な引退だよ。気分は落ち着いているよ」

 シャビは現在の心境をそう語っている。

「一つの素晴らしい時代を終え、次は監督として挑みたい。魅力的なサッカーを見せられるように。自分たちがプレーを支配し、ボールを握ってね。私はそういうサッカーで育ってきたし、それ楽しんできた。バルサでも代表でも、そのスタイルでタイトルを勝ち取っている。サッカーにはいくつもやり方があるのは尊重するけど、自分にはそのスタイルが勝利するために最高の方法なのさ。自分の中で培ったプレーコンセプトを選手たちに伝えたい」

 現代サッカーに金字塔を打ち立てたシャビの本性と、その未来とは――。

シャビとはどんな選手だったか

「僕は周りの選手がいなければ、無力も同然だよ。パスをする選手がいなかったら、なんの役にも立たない。そういう選手だ」

 10年以上前のインタビューだが、当時、バルサを意のままに操っていたシャビが語っていた言葉は新鮮だった。

 シャビは、チームメイトがいてこそ成り立つのがサッカー、と強調。それは単純な謙虚さではなかった。ボールプレーヤーとして得た、悟りの境地だったのである。

 シャビは、生粋の司令塔だった。サッカーそのものを動かせる才能を持っていた。彼がパスをするとき、そのボールには必ずメッセージがあった。大袈裟に言えば、行き先を示す道標とでもいうべきか。絶好のタイミングで、いい体勢でパスを受けた味方に、アドバンテージを与えていた。優位性によって守備を崩す、その現象を発生させたのだ。

 しかしその技術の本質は、カメルーン代表FWのサミュエル・エトーの賞賛にあるのかも知れない。

「シャビはパスが素晴らしい、と言われる。でもそれより、囲まれてもとにかくボールを失わないのさ。そのおかげで、周りは信頼して走り出せる。彼を中心にチームが回るんだ」

パスが上手いのではなく、ボールを失わない

 パスの技術が高い選手は、実は少なくない。バルサでは、各年代のチームに「シャビの後継者」がいる。例えば、セルジ・サンペール(ヴィッセル神戸)もその一人に数えられる。

 しかし高いインテンシティでボールを失わず、あえて自らにディフェンスを集め、味方のスペースを創り出せる。そんな芸当が可能な選手は一握り。シャビはその頂点にいた。

「ボールを持っていれば、負けることはない」

 それこそ、かのヨハン・クライフがバルサに植え付けた哲学である。

 その点、シャビは最高の守備者でもあった。派手なインターセプトや屈強なスライディングタックルよりも、ボールを失わない。ボール技術によって、攻守の両輪を回していた。ボールを失わない能力こそ、実はバルサイズムの核なのだ。

シャビと名将グアルディオラの関係

「自分をグアルディオラ(バルサで司令塔として活躍した後、監督としてもあらゆるタイトルをもたらした)の後継者と見る人は少なくないだろう。私は、その見方に怯んだりはしない。なぜなら、選手時代も同じポジションで同じスタイルだったから。たしかに、それに立ち向かうのは難しかった。きっと、今回もそうなんだろう。今は指導者としての経験を積むことだね」

 シャビはそう意気込みを語っている。まずはスペイン、マドリードで指導者ライセンスを取得。カタールに戻って、1年間は指導者として、プレッシャーのない中で自らのプレーコンセプトを試すことになるだろう。

 その後、バルサの監督になる日が訪れるはずだ。

「自分はゼロから始めようと思っている。今バルサを指揮するのは、いきなりフェラーリに乗ってしまうようなものさ。まずは小さな車を動かせるように」

 シャビはそんな喩えで本心を明かしている。

「カタールサッカー協会は、2022年のカタールW杯まで私が国内で指導者活動することを望んでいる。将来のことは分からない。きっと、バルサ次第だろう。私は、バルサで監督の仕事をするのが目標であることを隠さない。先日のアンケート調査で、シャビをバルサ監督に、という人が多くて、とても励みになった。自分は偉大な監督の下でプレーしてきた自負もある。きっと上手くできると信じているよ」

 シャビは司令塔として、集団を改善させた。そのパスやキープやドリブルによって、タイミングを創り出す。各選手の力を10%高め、敵を打ち破るための活路を開いた。それはスペクタクルと呼ばれ、ロナウジーニョやメッシのスーパープレーを生んだ。

 その仕事を監督でやることは、理論的には難しくはない。はたして希代の司令塔は、最高の名将となれるのか――。その答えは、これから明かされる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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