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ロシアW杯に挑む世界最高DF、セルヒオ・ラモスの覚悟

小宮良之スポーツライター・小説家
ゴールを喜び合うスペイン代表主将、セルヒオ・ラモス(写真:ロイター/アフロ)

アンダルシアで見た熱気

 2004-05シーズン、対戦相手は覚えてi

ない。場所はアンダルシア、セビージャの本拠地サンチェス・ピスファンだった。ピッチに立つ彼が放つ覇気は相当なもので、十代の選手には見えない、"旺盛な覚悟"を感じさせた。

「子どもの頃は、遊びたい盛りだよ。周りは、女の子と映画に行ったり、みんなで夜遊びしていたり。俺はその誘いに、『行かない』と言い続けた。何度も、何度も、ね。そのときから、俺にはプロサッカー選手の自覚があった。人と同じことをしていて、プロとして戦えるわけがないさ。16才のときにトップチームで練習できるようになって、その思いはさらに強くなった。俺には、なにかを捨てる必要があったんだ」

 その後、彼は少年時代について振り返っている。そこで悟ったプロとしての覚悟が、若いながらもピッチでの熱量となって出ていたのだろうか。

「怒れる牛」

 当時の彼が両足を踏ん張って、目を血走らせて奮闘する姿は、そんな表現が似つかわしかった。ディフェンダーでありながらも、相手に挑みかかっていくような苛烈さを感じさせた。そして少しでも相手が怯むと、駆け上がってボールを呼び込み、ツノを突き立てたのだ。

 以来、15年近くもの年月が経過している。しかし、男は血が沸騰するような戦いを続ける。前足を蹴り、ツノを突き立て。

 スペイン代表として、4度目のワールドカップにキャプテンとして挑む、セルヒオ・ラモス(32才)の肖像とは――。

リーダーのキャラクターがプレーヤーを形作った

「セルヒオ・ラモスはいいリーダー、いいキャプテンだ」

 スペイン代表のジュレン・ロペテギ監督は、そう評している。 

「腕にキャプテンマークを巻いているだけではない。真のリーダー。連帯意識が強いが、周りには寛容で、自らは常に先頭に立つ。そのためには、強い責任感が必要なのだが、彼には生来的にそれが備わっている」

 リーダーとしてのキャラクターが、プレーヤーとしてのセルヒオ・ラモスを形作っているとも言えるだろうか。

 ほとんど生まれつき、リーダーシップを取れるのだろう。スペインUー19代表でもそうだった。チームで年下選手ながら、周りに「キャプテンはこいつ」として認められる求心力を持っていた。

人との繋がりでたくましくなる

 セビージャでのプロデビューシーズンについて、彼はこう振り返っている。

「トップチームの選手はみんな憧れだった。一緒にトレーニングし、試合するのは夢のようだったね。今思えば、そこで彼らから教えられたことが、自分の身に染みている。少年時代の俺はベテランにとっては、うざったかったかも知れない。そのときに何度も言われたのは『早くプロの世界にたどり着いたからといって、安心するな。一瞬ですべてを失うのが、この世界だからな』って言葉。それは、今も自分の中に残っているよ」

 セルヒオ・ラモスは人と出会い、そのパーソナリティを燃焼することによって、一流の域にたどり着いた選手なのだろう。その点、とてもエモーショナルで、その言動が行き過ぎることもある。好悪が分かれる選手でもあるだろう。

 しかし、強烈な覚悟は見える。

戦い続ける中での成長

「マドリーのようなビッグクラブにいること、それは最大級の犠牲精神を意味する。そんなことは当たり前のことで、口に出すことでもない。自分は勝利者として、他の選手にとっても模範になるような行動が求められる」

 そう語るセルヒオ・ラモスは右サイドバックからセンターバックにポジションを変え、ディフェンダーとして大成している。相応する身体能力の高さや技術レベルがあったからこそ、そうした成長を遂げられたのだろうが、根源的なものは一つだろう。戦うことに対する熱量の巨大さだ。

 セルヒオ・ラモスはどちらかと言えば、冷静沈着なディフェンダーではない。感情を爆発させることによってエネルギーを生み出す選手で、ネガティブな見方をすれば「ポカのあるタイプ」だろう。しかし、大事な一戦では極めて高い集中力を発揮する。なにより、戦場から決して逃げない。全員が後ずさりしそうになったときに、勇敢に一歩前に踏み出すことで、全軍を鼓舞できるのだ。

 真のリーダーと言えるだろう。

代表キャプテンとして挑む初のワールドカップ

 多くのアンダルシア人がそうであるように、セルヒオ・ラモスも陽気で冗談好きで、友人に囲まれているのを好む。しかし、プロ選手としての節制や競争は別。ピッチでは完全なる争闘者だ。

 事実、マドリーでは果敢なディフェンスで欧州3連覇に貢献。今シーズンのチャンピオンズリーグ、ベストディフェンダーと言ってもいい。極限に近い高いプレー強度の中でこそ、判断が冴えた。CL決勝のリバプール戦、押し込まれる展開では単純なクリアも辞さず、フィジカルコンタクトに身を投じ、雨あられの攻撃を跳ね返し続けている。

 そして、ロシアワールドカップは、代表キャプテンとして挑む初めてのワールドカップとなる。

「(かつて世界王者とか過去2年無敗とか)フットボールの世界にメモリーはない。思い出で勝てる試合なんて、ないんだ。謙虚に全力で戦い抜く。それだけだ」

 セルヒオ・ラモスのプロとしての流儀だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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