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森保ジャパン、最大の不幸。なぜオーストラリアに勝ち切れなかったか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

森保ジャパンは強くなっているのか?

 10月15日、埼玉。2026年W杯アジア最終予選、日本はオーストラリアと1-1で引き分けている。連勝は三つで途切れたが、途中出場の中村敬斗の奮闘で同点に追いつき、W杯出場へ着実に一歩を進めた。

「すばらしいチームを相手に、良い結果を得ることができました」

 オーストラリアの指揮官であるトニー・ポポヴィッチは勝ち点1が取れた試合結果を愛おしそうに振り返っている。そこに滲んだのは、日本への敬意と畏怖だ。

「多くのチャンスを作り出すことはできませんでした。しかし、他の3チームに14得点してきたアジアでベストの相手に対し、立ち向かっていくチャレンジの姿勢を示すことができました。それは大きな自信をもたらすことになるでしょう」

 オーストラリアは、完全にサッカーを捨てて挑んできた。5-4-1でブロックを敷き、専守防衛。日本の攻撃を食い止めるだけの編成だった。なりふり構わない”弱者の兵法”で、勝ち点1を拾った。

 日本はアジアで、そこまで圧倒的な強さを得たと言える。

 しかし、森保ジャパンは本当に強くなっているのか?

戦力優位でねじ伏せる

 日本は、戦力的優位を見せつけた。

 先発11人の顔ぶれを見ても、カテゴリーが違うほどの差があった。守田英正(スポルティング・リスボン)、久保建英(レアル・ソシエダ)、南野拓実(モナコ)などは5大リーグのトップクラブ所属で、ヨーロッパカップに出場しているが、オーストラリアはほとんどが2部レベル。ストライカーだけを比べても、日本の上田綺世はフェイノールトでポジションを取り切れていないし、ミシェル・デュークもFC町田ゼルビアでスーパーサブだが、前者はチャンピオンズリーグにも出場しているオランダの強豪で、町田はJ1に昇格したばかりのクラブだ。

 そして途中交代のたび、その差は広がっていった。極めつけは、鎌田大地、伊東純也、中村敬斗の3人。中村は左サイドをドリブルで切り裂き、貴重な同点オウンゴールを誘発し…。

 正直、実力差でねじ伏せた試合だった。

 森保一監督が新たに採用している3-4-2-1だが、万事うまくいった、という印象はない。随所に、三笘や久保がサイドを切り崩し、可能性は感じさせた。しかし、なかなか枠にシュートを飛ばせていない。

 一方で、一瞬の隙を突かれる形になった。左からのクロス対応を谷口彰浩がクリアミス。そのままネットを揺らし、オウンゴールになっている。

 ただ、それは偶発的な事故だったのか。

谷口のオウンゴール

 まず、繋ぎのところで鈴木彩艶がややズレたロングパスを南野拓実に送ったことで、簡単に相手に跳ね返されている。これに対し、谷口が競っているが、相手ボールになってしまう。すかさず三笘が詰め寄るが、逆を取られる。そして空白のスペースになった左へ展開され、守田がカバーするが間に合わず、クロスを入れられていた。

 すなわち、失点は”運が悪かった”わけではない。何度かの局面で敗れていたツケが、最後に押し寄せたのである(谷口のクリアは明らかにミスだったが)。

 もし攻撃的なサッカーを掲げているのなら、物足りない。例えばGK鈴木のキックはクリアにも見えたし、パスとしては甘い。立て続けに球際で敗れたことで、クロスを放り込まれているわけで、どれも糾弾するほどのミスではないにせよ、「システムの欠陥」とも言えた。

 3-4-2-1を運用するには、ボールを失わず、ビルドアップし、敵陣に入る巧みさが必要になる。同時に、守備では数的同数でも局面で勝利できないと厳しい。なぜなら攻撃シフトは守備で手薄になる宿命を背負っているからだ。

 サイドのスペースを敵に蹂躙されたシーンは、強豪とのマッチアップを考えた場合、深刻と言える。

森保ジャパン、最大の不幸

 攻撃的なはずのフォーメーションがパワーダウンしている理由は、ミャンマー、シリア、中国、バーレーンから相手の強さがアップしているのはあるにしても、戦術的な欠陥があるからだ。

「前線に人数を懸ける」

 それは発想としては単純に、攻撃的、につながる。しかし、前線までボールをつなぐことができなかったら、その仕組みは破綻する。そして何度か攻め込めたとしても、それをフィニッシュするだけの力がなかったら、やはり劣勢に転じてしまう。両ウィングバックが下がってしまえば、もはや守備的、になるのだ。

 当然だが、相手も対策する。中盤の二人は徹底的にマークされる。サッカーは相手があるスポーツで、論理上、攻撃的な仕組みを壊すための手段を講じるからだ。

 例えば、中盤が封じられた状況では、3バックの一人が必ずボールを前に運ぶプレーをしなければならない。板倉滉の球出しはいくつか非凡なものがあったし、他の二人もその点は工夫していたが、攻め上がるような場面は乏しかった。これでは、このシステムは成功しない。

 レバークーゼンの3-4-2-1はシステムの美しさを感じるが、まずセンターバックにパス出しのセンスが横溢し、攻め上がることもできる。一人で守り切るだけのディフェンス力も装備。彼らがダイナミズムを生み出す中で、中盤のグラニト・ジャカのパスセンスも際立つ。そこで間合いが作れることで、両ウィングバックが攻めの厚みも作り出せるのだ。

 谷口のオウンゴールは凡ミスに過ぎないが、そうした状況を作り出せなかったことこそ、一つの限界と言える。それも、完全に引いたオーストラリアに対して、だ。

 最後、森保監督はスクランブルで勝ったに過ぎず、フォーメーションはフリーズしていた。

 おそらく、森保監督の腰が据わっていないのだろう。攻撃的、と言われるフォーメーションだが、守備的な運用と言わざるを得ない。センターバックのプレーに対し、90分間、改善する指摘もできなかった。

 しかし、真の姿がさらされることはなかなかない。強豪となかなか試合をできないこと。それが森保ジャパンの最大の不幸である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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