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フリックがバルサが成功した理由。クーマンが監督を続けていたら”ホラー”だ

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

フリック・バルサの躍進

 今シーズン、ハンジ・フリック監督が新たに率いるようになったFCバルセロナ(以下バルサ)の勢いが止まらない。

 ラ・リーガでは首位を走り、エル・クラシコでは宿敵レアル・マドリードを0-4と敵地で粉砕した。挑戦的なハイラインを敷き、果敢に戦う。それが、スペクタクルな攻撃につながっているのだ。

 クラシコでチームの戦いの基礎を担っていたのは、下部組織ラ・マシア出身の選手たちだった。GKイニャキ・ペーニャ、DFパウ・クバルシ、アレハンドロ・バルデ、MFフェルミン・ロペス、マルク・カサド、FWラミン・ヤマル。先発した11人のうち6人がラ・マシア育ちだった。交代でピッチに立ったダニ・オルモ、ガビも含めたら、8人もプレーしていた。

 ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いた最強時代も、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、カルラス・プジョル、セルヒオ・ブスケッツ、ビクトール・バルデスなどラ・マシア組が主力だった。

「ラ・マシアこそ、バルサだ」

 かつてバルサの中興の祖と言えるヨハン・クライフはそう語っていた。まさに、それを継承した形だろう。

「ボールは汗をかかない」

「自分たちがボールを持っていたら、失点することはない」

「攻撃こそ防御。ワンタッチでボールをつなげたら、相手はついてこられない」

 クライフは、次々にボールゲームを土台にするチーム理念を発信した。それは遺訓と言えるだろう。無様に勝ちを拾うことなど論外だ。

 その点、ドイツ人監督でバルサでのプレー経験もない”外様“フリックが、クライフ主義を正しく踏襲したと言える。

シャビが犯したミス

 逆説すれば、しばらくバルサが低迷してきたのは、その理念で道を誤ったからだ。

 前任であるシャビ・エルナンデス監督は最強時代のMFとして、バルサの戦いをピッチで示している。そして指導者に転身後も、プレースタイルに関しては大筋では継承。2022-23シーズンは、ラ・リーガ優勝をもたらしている。

 しかし、必ずしもラ・マシアを重視していなかった。リキ・プッチやニコ・ゴンサレスを放出。やや執拗なほどにビッグネームの外国人選手を求め続けた。ラ・リーガ優勝も、アンドレアス・クリステンセン、マルコス・アロンソ、ジュル・クンデ、フランク・ケシエ、ロベルト・レバンドフスキ、ラフィーニャと大量補強の結果だ。

 そしてシャビは2023-24シーズンの低迷を、補強が不調だったことに転嫁した。ジョアン・カンセロやヴィトール・ロッキは不発など、彼自身のリクエストは満たされていたにもかかわらず、だ。そして続投が決まった矢先、「今後も補強がない状況で黄金時代の再現は厳しい」と言い訳がましいコメント。これで幹部たちに愛想を尽かされることになった。

 ヤマル、クバルシ、フェルミンを抜擢したのは、シャビ監督の成果の一つだろう。決して、ラ・マシアを軽視したわけではない。プレースタイルの継承にも取り組んでいた。しかし、有力選手に自分のやりたいサッカーを運用させるのが、バルサではなかったはずだ。

クーマンというホラー

 シャビの前任であるロナウド・クーマン監督に至っては、“残留していたらホラー”というレベルだろう。クーマンはクライフのドリームチーム時代の主力だが、バルサ色はまるで感じられなかった。むしろ逆行していた。クラブの柱をぶっ壊し、後戻りも先にも進めない状態にしていた可能性もある。

「球際で脆く、弱い。インテンシティが足りない」

 クーマンは口をついては、バルサの選手たちへの不満を述べていた。おそらく、その見解については間違っていない。実際、フリックも走力を鍛え直し、戦闘力を上げることで、攻撃的なサッカーを強化した。ただ、クーマンが志向したサッカーはインテンシティを軸にしたものだった。傲慢な選手総入れ替えで、クラブの伝統をかなぐり捨て、”別のバルサ”を作り上げようとしていた。

「地ならし」

 その先にあるのは絶望だった。

 クーマンはフィジカルに優れた選手たちを重用した一方、テクニカルな選手を軽んじている。その時代の主力は今回のクラシコ、先発でピッチに立ったのはペドリのみ。例えば落第の烙印を押したラ・マシア出身のオスカル・ミンゲサは、攻撃力のあるディフェンダーとしてセルタで頭角を表し、今やスペイン代表にも選ばれるほどだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e127e996187be55b4956b4559ccf797b2fc0193c

 そもそも、クーマンは人間性に問題があることが指摘されており、そのような監督を招聘したことこそ、バルサが行き詰まっていた証左だったと言える(サンドロ・ロッセイ、ジョゼップ・マリア・バルトメウという会長が、相次ぐ補強の失敗とラ・マシア軽視によって、バルサを追い込んでいる)。

 フリックは、次々にラ・マシアの選手をデビューさせている。それも、試験的ではない。才能を認めたら、しっかり出場時間を与え、才能を引き出している。

 かつてクライフも、自らが認めた選手には積極的に出場機会を与えていた。

「ラ・マシアこそバルサ」

 それがチームの指標である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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