「シリア革命」開始から12年:震災で喘ぐシリア北西部で盛大な祝典が催される
「アラブの春」がシリアに波及し、「シリア革命」と呼ばれることになる反体制運動が開始されてから、3月15日で12年が経った。
分断、占領、爆撃、制裁に苦しむシリア
「シリア革命」は「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれることになるいわゆる「シリア内戦」へと発展、シリアは現在、紛争解決を見ないまま、分断と占領を特徴とする膠着状態にある。
分断とは、シリア政府(バッシャール・アサド政権)、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)を主体とする反体制派、トルコが「分離主義テロリスト」とみなし、米国の支援を受けるクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)による国土の分断を意味する。一方、占領とは、トルコによるシリア北西部および北部の実効支配、米国(有志連合)によるPYD支配地各所への部隊駐留、ヒムス県タンフ国境通行所一帯地域(55キロ地帯)の占領、そしてイスラエルによるゴラン高原の一方的な占領、ロシア軍や「イランの民兵」の展開(さらにはトルコによるアレキサンドレッタ地方のハタイ県としての編入)を指す。
シリアはまた、米国、ロシア、トルコ、イラン、イスラエル、「イランの民兵」が代理戦争を行う主戦場となっており、これらの国や勢力による爆撃、ミサイル攻撃が絶えない(「トルコ・シリア地震発生以降、シリアで爆撃を行っていないのはアサド政権だけという知られざる事実」などを参照)。また、米国やEU諸国は、シリア全土に対して経済制裁を科し、国民の生活を逼迫させている。
死者総数は60万人以上
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が「シリア革命」記念日に合わせた声明によると、12年間の紛争による死者総数は少なくとも61万3407人(うち氏名が確認できたのは50万3064人)に達しているという。同監視団がどのように、情報を入手し、死者数の統計を算出しているのは不明だが、その内訳は以下の通りだという。
民間人
16万2390人
内訳は男性12万1407人、女性1万5437人、子供2万5546人。
死因は以下の通り。
- 政府の刑務所・拘置所での拷問4万9410人
- シリア軍による砲撃、狙撃5万2596人
- シリア軍の航空兵器による攻撃2万6403人
- ロシア軍の砲撃8696人
- ロシア軍かシリア軍か特定できない爆撃2504人
- 諸派(反体制派)による殺害2353人
- ジハード主義者(反体制派)による殺害905人
- 死因不明1302人
- 戦場での処刑453人
- 銃や刃物による襲撃2039人
- 禁止された兵器による殺害1028人
- 劣悪な生活状況による死亡982人
- 爆発4708人
- 米主導の有志連合による殺害2677人
- イスラエルの爆撃・砲撃20人
- トルコ軍による殺害4728人
- シリア民主軍やクルド人部隊による殺害444人
- その他226人
非民間人
34万674人
内訳は以下の通り。
- シリア軍9万1929人
- 親政権・イラン・ロシア民兵6万7349人
- レバノンのヒズブッラー1736人
- 親イラン・ロシアの外国人民兵8700人
- 武装・イスラーム主義諸派(反体制派)8万221人
- 離反兵(反体制派)3596人
- シリア民主軍1万1095人
- クルド人部隊4万1266人
- ジハード主義グループ(反体制派)2万8110人
- トルコ軍251人
- 親ロシアの外国人傭兵266人
- 身元不明およびその他2916人
なお、上記の数字には、シリア政府の刑務所や拘置所で拷問によって殺害されたとされる5万5000人以上、クルディスタン労働者党(PKK)の戦闘員3200人以上、ダーイシュ(イスラーム国)によって拉致・殺害されたとされる3200人、シリア政府や親政権民兵の捕虜となった4100人以上、武装・ジハード主義諸派、ダーイシュ、シャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)によって拉致された1800人以上は含まれていないという。
震災という更なる苦しみ
分断、占領、爆撃、経済制裁に加えて、2月6日、トルコを震源地とする大地震(トルコ・シリア地震)が発生し、シリア、とりわけ北西部が甚大な被害を受け、支援の遅れが指摘されていることは周知の通りである(「「有史以来最大規模」の地震と「今世紀最悪の人道危機」の二重苦に喘ぐシリア」を参照)。
国連人道問題調整事務所(OCHA)が2月14日に発表した推計によると、地震による死者は5791人(うちシリア北西部4377人)に達している。また、世界銀行が3月3日に発表したグローバル緊急災害後被害評価(GRADE)報告書によると、シリアでの直接的な物的被害が51億米ドル、すなわちシリアのGDPの約10%に及んでいる。
自粛なき祝典
そんな多重苦に苦しむシリア各地で、「シリア革命」12周年を祝うデモが盛大に行われた。
シリア人権監視団、反体制系サイトのイナブ・バラディー、ザマーン・ワスル、MMCなどによると、シャーム解放機構の支配下にあるイドリブ県のイドリブ市、トルコ占領下の「平和の泉」地域のハサカ県ラアス・アイン市、ラッカ県タッル・アブヤド市、「オリーブの枝」地域のアレッポ県アフリーン市、「フーフラテスの盾」地域のアレッポ県バーブ市、北・東シリア自治局の支配下にあるラッカ県のラッカ市、タブカ市、ダイル・ザウル民政評議会(北・東シリア自治局)の支配下にあるダイル・ザウル県アブー・ハマーム市、ジャルズィー村などで、記念デモが行われ、体制打倒、自由、変革、難民・国内避難民(IDPs)の帰還などが改めて訴えられた。
このうち、シャーム解放機構の支配下にあるイドリブ市では、サブア・バフラート広場で大規模集会が開かれ、トルコ・シリア地震によってシリア北西部が甚大な被害を受けたにもかかわらず、活動家らは、横断幕や巨大な壁画を設置したほか、燃料不足が懸念されるなか、車列をなしてイドリブ市に参集するなどして、革命記念日を盛大に祝った。
震災の苦しみを感じさせないデモ参加者の姿を見て、自由と尊厳を求める市民の強さを示すものだと称賛の声を上げることも可能かもしれない。だが、数々の地震を経験し、それに対処してきた日本人のなかには、政治的な示威行動を行う以前に、全身全霊で取り組むべき別のことがあると感じる者も少なくないだろう。