新型コロナを「神風」にした小池東京都知事の圧勝
フーテン老人世直し録(521)
文月某日
東京都知事選挙は現職の小池百合子東京都知事が圧勝した。得票数は366万票で歴代2位、得票率も前回選挙で獲得した44.5%を上回り60%近くにまで達した。
驚いたのはどの政党の支持者からも得票していることだ。NHKの出口調査によると自民党支持者の8割近く、公明党支持者の9割半ばを獲得したのは当然としても、宇都宮健児氏を推薦した立憲民主党支持者の3割以上、共産党支持者の2割が小池氏に投票し、小野泰輔氏を推薦した日本維新の会支持者も3割近くが小池氏に投票している。
自主投票を決めた国民民主党支持者でも宇都宮氏や山本太郎氏より小池氏に投票した人が多く、無党派層では小池氏が全体の5割余りを、宇都宮氏が2割近く、小野氏と山本氏がそれぞれ1割を獲得する構図になった。
地方首長選挙ではよほどの失政がない限り現職が2期目の選挙に強いのは常識だ。しかも危機になれば現職優位は強化される。それはそう思っていたのだが、告示の前日に行われた日本記者クラブ主催の主要候補者共同記者会見を見て、小池氏の余りの精彩のなさに、フーテンは小池氏は勝つが圧勝はできないのではと思った。
ただそのためには野党陣営の誰かが巧妙なシナリオを書き、小池氏の得票を減らすための工作をやらなければならない。それはその後の政局にも影響するので、都知事選挙がただの地方選挙ではなくなり政治を面白くする。そういう趣旨のブログを書いた。
しかし候補者同士が一堂に会して討論したのは、日本記者クラブ主催の会見以外にSNS上でもう1回行われただけ。テレビでは全くなかった。有権者が候補者を比較検討する機会が絶無に近かったことが今回の選挙の最大の特徴だった。
選挙演説は候補者が耳触りの良いことを一方的に聴衆に訴える。それだけでは確かな判断ができないという理由で、「55年体制」後の日本では米国の大統領選挙を左右する「テレビ討論」を真似する動きが始まった。
選挙ではどの候補者も有権者に好まれる政策を選挙公約に並べて売り込みを図る。それが実現可能なのか、デメリットはないのかを問いたださないと候補者の主張を鵜呑みにするわけにはいかない。そこで候補者同士に討論させ、本気度や候補者の人間力を確認する必要がある。
国政選挙に次ぐ重みのある東京都知事選挙では、必ず日本記者クラブ主催の共同記者会見をNHKが中継し、その後テレビ各局が候補者をスタジオに招いて質問するのが恒例だった。それが今回は皆無だったのである。理由は新型コロナの感染を防止するためだと言う。
日本記者クラブ主催の記者会見も一堂に会さず、全員が違う場所からリモートで参加する方式だった。新型コロナ対策の最前線に立っていることを見せたい小池氏は防災服姿で現れ、会見が終了するや否や画面から立ち去り、忙しい姿をアピールした。
つまり小池氏にとっては新型コロナ対策に忙殺される姿を見せつけることが最大の選挙戦術だった。そのため小池氏はこの選挙が通常の選挙とは異なることを徹底する。有権者に候補者を比較検討する討論会をなくしたのはそのためだ。しかもそれは小池氏の弱点を防御する方法でもある。
仮に候補者同士の討論や共同会見が行われていれば、まず問われたのは4年間の小池都政の評価である。大体それがなければ選挙をやる意味がない。選挙をやる意味は、過去の実績に対する評価と、将来の政策に対する評価を有権者に比較検討させることである。
過去の実績が評価されれば、有権者は現職を続投させることになる。実績が評価されなければ、各候補者の将来の政策を比較検討することになる。その中から最も期待できる政策を掲げる者を選ぶ。今回の選挙ではこの比較検討の機会が有権者に与えられなかった。
だがNHKが都知事選挙に合わせて行った「都民1万人アンケート」によれば、小池氏が前回選挙で公約に掲げた「7つのゼロ」に対する評価は、「待機児童ゼロ」で評価する者22%、評価しない者62%、「介護離職ゼロ」で評価する者6%、しない者72%、「残業ゼロ」で評価する者13%、しない者72%、「電柱ゼロ」で評価する者9%、しない者72%、「満員電車ゼロ」で評価する者6%、しない者82%、「多摩格差ゼロ」で評価する者6%、しない者60%、「ペット殺処分ゼロ」で評価する者15%、しない者53%と散々な結果である。
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