コロナ対策から外されていた菅官房長官がコロナ対策の前面に出てきた
フーテン老人世直し録(524)
文月某日
ここにきて新型コロナ対策の前面に菅官房長官が出てきた。19日のテレビ番組で休業と補償をセットにする特措法改正案に言及したのである。安倍総理ではなく菅官房長官が言い出したところにポスト安倍を睨んだ政局の匂いがする。
「Go To トラベル」キャンペーンの前倒し実施が大混乱を招いているように、日本政府のコロナ対策は司令塔がはっきりせず、これまで後手後手の批判を招いてきた。そしてどういう訳か全官庁を束ねる役目の官房長官がコロナ対策の前面に立つことはなかった。
ところがここにきて菅氏は、コロナの長期化を見通したのか、外国のように強制力のある休業と補償のセットを来年の通常国会で法律に盛り込む考えを示したのである。一方の安倍総理は今年5月に、強制力を伴う休業と補償のセットができないことを口実に、緊急事態条項を憲法に盛り込む考えを示した。
しかし菅氏の考えはそれとは異なる。憲法ではなく一般法の改正で強制力のある休業命令と補償のセットを実現するという。緊急事態条項を憲法に盛り込むことは、ナチスが全権委任法を作って独裁政治を可能にしたように、国会を無力化して独裁に道を拓く危険がある。それと異なるところに、フーテンはポスト安倍を睨んだ菅氏の思惑を感じる。
また19日の発言が橋下徹氏との対談であったことや、大阪府の吉村知事が菅氏の発言に近いことをすぐに言い出すなど、この法改正には日本維新の会との連動が顕著である。フーテンには菅氏が自公連立に日本維新の会を加えた三党連立を意図しているようにも見える。
かつて自民党は単独政権を維持できなくなった時、最初は小沢一郎氏率いる自由党との自自連立を、次に公明党を入れて自自公連立、そして小沢自由党が連立から離脱した後、保守党を入れた自公保連立と続けたことがある。二階幹事長や小池都知事は保守党の解党に伴い自民党に迎えられた政治家だ。
菅氏の考えに二階氏らがどう反応して動くか興味津々だが、それにしても安倍総理は国会が閉幕してから記者会見も開かず、国会の閉会中審査にも出席せず、存在感を薄めている。コロナ禍の真っただ中にいる政治リーダーとしてそれで良いのかという気がする。
コロナ禍に日本の政治がどう向き合ってきたかを振り返りながら、安倍総理の政治パワーの変遷をたどり、我が国の政治がどこへ向かっているのかを考えてみたい。
日本で初の感染者が確認されたのは今年の1月15日、だが日本政府は春節で1月下旬に日本を訪れる中国人観光客を「熱烈歓迎」し、新型コロナによる肺炎を「指定感染症」に閣議決定したのは台湾などと比べてはるかに遅い1月28日だった。
2月には横浜港に停泊した「ダイヤモンド・プリンセス号」の感染拡大が世界から注目されたが、安倍総理が陣頭指揮することはなく、加藤厚労大臣が前面に出てブリーフィングを行った。しかしその対応は海外メディアから批判され、日本は武漢市に次ぐ「第二の感染源」と言われた。
そのため安倍内閣の支持率は低下、とりわけ保守層から「習近平国家主席の国賓訪日」に固執する姿勢が批判され、安倍支持者の安倍離れが起こる。これに危機感を抱いた安倍総理は、2月下旬突然に大規模イベントの自粛や学校の全国一斉休校を要請し、果断な姿勢を国民に見せつけようとした。
これを振り付けたのは今井総理秘書官兼補佐官と言われる。そして菅官房長官はその決定過程から外されていると言われた。ポスト安倍を狙う菅氏に今井氏が警戒感を抱いたからだと解説された。安倍側近官僚によって菅氏の政治力は封じ込められた。
しかし専門家会議にも諮らずに学校を一斉休業させたことは、各方面から批判を浴び、また側近官僚が提案したアベノマスクや動画コラボの余りのお粗末さに国民が呆れる。菅氏不在の中で側近官僚のオウンゴールが安倍政権の支持率を低下させていく。
3月6日、安倍総理が新型コロナ対策担当大臣に指名したのは、菅官房長官でも加藤厚労大臣でもなく、西村経済再生担当大臣だった。その頃、欧米に伝播したウイルスの猛威によって、各国の政治リーダーは都市封鎖を行い、ウイルスとの戦争を宣言する。
しかし東京五輪開催を控えていた安倍総理は、各国のリーダーのようにウイルスとの戦いの先頭に立つことはない。そしてなぜか東京都の感染者数は世界各国と比べ少く推移した。理由の一つは検査数を抑えたからである。「日本方式」と称して厚労省は検査に頼らない方式を推進したのである。まさに官僚らしい「忖度」の結果だとフーテンは思った。
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