大人の日帰りウォーキング 里山の豊かな自然を楽しみながら 旧街道を1日13km歩く旅
「そろそろ、出発しようか」
国道20号より登山道を少し登った先にある、江戸日本橋より26里目(約102km)の一里塚で昼休憩をしていた。大き目のおにぎりとサラダチキンの簡単な物だけれど、里山の美しい景色を眺めながら食べる青空ランチは、最高に贅沢な時間ではないかとも感じる。
朝からここまで歩いた距離は9km程であろうか。
アラ還暦である良人と由美子夫婦は、これからの趣味の1つとして街道を歩く旅を始めて楽しんでいる。江戸時代に造られた五街道の1つである甲州街道を日帰りで歩き繋いでおり、今回で7回目になる。今日は、山梨県にあるJR大月駅を出発し、約13km先にあるJR笹子駅まで歩く予定にしている。いつもより短い距離となっているのは、この先が甲州街道の最大の難所と言われた笹子峠越えだからである。体力が必要な峠越えは、次回のお楽しみにすることにした。
2人が立ち上がろうとすると、遠くから電車が近づいてくる音が聞こえ始めた。良人は急いでスマフォを取り出して準備する。ここまで歩いてくる途中にも、特急が走るシャッターチャンスがあったが、上手く写真が撮れなかった。
「今度こそは…」
走ってきた電車は特急だった。白い車体に青みがかった紫色である「あずさバイオレット」のラインが美しく、すっきりとして見えるデザインは、都心を走っても、里山の自然豊かな景色の中を走っても良く映える。
「何度見ても、あずさはかっこ良いわね。でも、何で名前があずさなのかしら」
東京新宿と長野県松本の間を走る特急あずさは、自分たちの年代には知名度が高い。そう、誰もがあずさと聞くと、
「8時ちょうどの~あずさ2号で~♪」と口ずさむことが出来るが、何故、特急あずさなのかは知らなかった。
特急あずさの名前の由来は、長野県松本市にある上高地を流れる梓川(あずざがわ)とある。梓川は北アルプス(飛騨山脈)槍ヶ岳を水源とし、上高地で焼岳の火山噴火によりせき止められて出来た大正池を流れ、梓湖である奈川渡(ながわど)ダムを経て、松本市内へと流れている川である。
「上高地、行ってみたいね」
歩く旅を続けている2人は体力に自信がついてきたこともある。上高地の大自然の中を散策するのは、これから楽しみたいことリストに追加しておこうか。
再び国道20号甲州街道に合流した先で、旧甲州街道は脇道へと進み、江戸より31番目の宿場である白野宿に到着した。白野宿は、この先の32番目の阿弥陀街道宿、33番目の黒野田宿と共に3宿で1宿の役割をしていた。
宿場内を歩き進んでいると、5人ほどのグループが道路の脇から出てきた。自分たちと同じように街道歩きをしている様子であり、美味しかったねと話をしている。ちょうどお昼休憩をしていたのだろうか。ふと見ると、ラーメンと書かれた旗があった。
そうか、食事が出来るお店があったのか。
さすがに、5人グループの人たちに聞こえそうなので声には出せなかったが、ラーメンを食べたかったかなと、素直に思う。ま、自分で作ったおにぎりも美味しかったし、と、自分で自分を説得しようとするが、こんな日もあるか。少し残念だ。
旧甲州街道はJR中央本線の高架下をくぐり、線路脇の上り坂を進んで行く。
「この辺りは親鸞聖人に所縁があるのか」
旧甲州街道の脇に親鸞聖人念仏供養塚と書かれた場所があった。
およしは働き者でよい女房だったが、夫の浮気に嫉妬してあわれにも池に身を投じてしまった。そして口惜しさのあまり死んでもなお成仏できず、毒蛇となって村人をなやましつづけるようになった。親鸞聖人に供養されたという「よしが池の伝説」が残っているとある。親鸞聖人が毒蛇となったよしを供養するために、池に投げ入れたと伝わる経石も残っているとある。
「昔話では良くあることだけれど、これって浮気をした夫が一番悪いわよね」
由美子の話は正論であるが、当時の風潮が良く出ている昔話であるから仕方がない。
旧甲州街道は国道20号と合流して先に進むと、笹子餅と書かれた看板が目に入った。
「お土産に買って帰ろうか」
5個入りの笹子餅を買ってリュックに入れて先へと歩くと、今日のゴールであるJR笹子駅に到着した。いつもよりは歩いた距離が短かったが、今日もたっぷりと足は疲れている。笹子駅は特急電車が止まらないので在来線で都内に向かって帰ろうか。
今回歩いたコース 約13km
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