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エムバペの移籍のタイミングと、輝くヴィルツ。

森田泰史スポーツライター
ボールをコントロールするエムバペ(写真:ロイター/アフロ)

キリアン・エムバペが、移籍を決断した。

正確に言えば、エムバペがパリ・サンジェルマンからの退団を発表した。「ついに」という思いと、「やっと」という思いが、去来する。

エムバペに関しては、すでに幾度か、筆を執った。だが、それでも、まだ少し言い足りないところはある・

■移籍のタイミング

エムバペは過去3度、レアル・マドリー移籍に近づいていた。2017年夏、モナコからパリ・サンジェルマンに移籍した時。2021年夏、マドリーから移籍金2億ユーロのビッグオファーが届いた時。2022年夏、契約満了に伴いフリーになることが決まっていた時。この3度である。

しかし、エムバペは、そのチャンスをフイにした。

エムバペがモナコにいた頃、マドリーには「BBC」が鎮座していた。カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウドの3トップだ。エムバペは彼らの控えになることを恐れ、パリ行きを選んだ。

その選択は、理解し得る。スポーツ的側面に準ずるものだからだ。だが2021年夏、とりわけ2022年夏の残留においては、そうではなかった。年俸3500万ユーロ(約56億円)に、契約ボーナスは3年間で2億4000万ユーロ(約384億円)で契約延長。これでは、「お金に目が眩んだ」と言われても仕方がない。

ロシアW杯で優勝に貢献したエムバペ
ロシアW杯で優勝に貢献したエムバペ写真:長田洋平/アフロスポーツ

2017年から2014年までパリ・サンジェルマンでプレーしたエムバペだが、ビッグイヤーとバロンドールの獲得は実現できなかった。その間、獲得したビッグタイトルはジュール・リメ杯(2018年/ロシア・ワールドカップ)のみだ。

エムバペは25歳でマドリッドに到着する。決して、ベテランという年齢ではない。だが18歳以降、何度なく訪れた機会を蹴り、辿り着くことを顧みれば、若いともまた言えないだろう。

そして、エムバペは、マドリーで「英雄の歓迎」を受けるわけではない。

あえて言えば、彼がパリ・サンジェルマンでグズグズしている間に、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエスが台頭した。彼らはすでにチャンピオンズリーグ優勝を経験している。また、現在、マドリーではビッグイヤーのタイトルを複数有しておりバロンドールまで獲得しているルカ・モドリッチが、控えという立場を受け入れている状況だ。

エムバペがスタメンを張れない、というシチュエーションには流石にならないだろう。しかしながらパリで「王様」として君臨していたようには、当然、いかない。

左サイドでのプレーを好んでいるエムバペだが、そこにはヴィニシウスがいる。ヴィニシウス(左WG)、エムバペ(CF)、ロドリゴ(右WG)という並びの3トップを考えるのが妥当だ。

今季のチャンピオンズリーグでベスト4敗退に終わったパリSG
今季のチャンピオンズリーグでベスト4敗退に終わったパリSG写真:ロイター/アフロ

ただ、エムバペの問題はポジションではない。アクティトゥット(姿勢)だ。

エムバペは、マドリーで、王様ではない。今季のチャンピオンズリーグ準決勝で、バイエルン・ミュンヘンを下した後、「このチームでは、FWまで全員守備をする」と語っていたのはヴィニシウスだ。イタリア人のカルロ・アンチェロッティ監督は守備を重視する。「ソフトタッチ」と称され、選手マネジメントに定評のある指揮官だが、意外にそこは厳しい。

極端に言えば、7年間、あまり守備をせずにプレーしてきたのがエムバペだ。彼が新たなマドリーにフィットするには、相当の決意と覚悟が必要になるかも知れない。

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■新たなターゲット

エムバペの獲得を決定的としているマドリーだが、その動きを止める様子はない。次のターゲットと目されているのが、フロリアン・ヴィルツだ。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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