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進む「消費の個人化」~家族消費市場人口を凌駕するソロ活消費市場の人口規模

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

「一人が好き」が4割

そもそも人はそれぞれ価値観がある。外向的か内向的かという大きな区分けでも大体半々に分かれるという。しかし、だからといって内向的な人間が人との関わりのある社会生活が送れないということではない。

「ソロ度」という価値観も同様で、実際に結婚するかどうかとは別に「誰かと一緒がいい」か「一人の方が気楽」かというのは人によって異なる。つまり、結婚したとしても「一人の方が好き」という人間もいるし、時と場合によって両面性を使い分けている。

ソロ度の割合分布については、以前こちらの記事に書いたが、ざっくりソロ度の高い割合は4割となる。これは、20-50代の男女未既婚合算した合計の割合をわかりやすく丸めたものである。

価値観というものは、一生変わらないものではない。環境や人間関係、経済状況などによって都度変わっていくものであり、当然男女や配偶関係や年代によってもソロ度は変わる。

たとえば、結婚しても遊びまわっていた夫でも、いざ子どもが産まれた途端に「家庭が大事」というマイホームパパに転身する場合などがある。また、本人自身の価値観が変わるというミクロ面での変化もあるが、統計上、ソロ度が低い者から順に結婚していき、ソロ度の高い者は年代を重ねても独身のままであったりするため、結果年代別の構成比が影響を受けるという面もある。

過去記事において、ソロ度診断テストを公開しているので、興味があればぜひ試していただきたい。

タイトル上「結婚に向いてないかもしれない」としているが、実際は「誰かと一緒にいるより、一人でいる方が心地よい」「一人で行動ができる」「一人が苦痛ではない」などの価値観診断であり、この結果がすなわち結婚できるかできないかを決めるものではないことに注意。

結婚に向いてないかもしれない診断テスト~独身と既婚者の意識の差から導き出したソロ志向度

男女年代未既婚別のソロ度の違い

ソロ度の男女年代未既婚別の分布の違いをみると、まず、独身の場合、男女ともにきれいに年代があがるごとに高まっている。

興味深いのは、20-30代の時点では「男>女」であるのに対し、40代を過ぎると男女逆転する点だ。独身の場合、40歳をすぎると、女性の方が「一人で生きていく」という覚悟が早くできるのかもしれない。

一方、有配偶の場合は当然ながら独身よりはソロ度が低いのだが、さりとて独身と比較して極端に低いわけではなく、各年代を通じて3-4割存在している。

特に、20代の有配偶男性のソロ度は独身男性とほぼ変わらず、20代での結婚の可否にソロ度はあまり関係ないようである。むしろ、3組に1組離婚する現状を考えれば、「結婚に向いてないくせに勢いで結婚してしまった男=カゲソロ」も多いのだろう。30代で低くなるのも子どもの誕生が影響している可能性がある。

ソロ度の違いはそれぞれの行動の違いを生む。

誰かと一緒じゃないと嫌な人間は、ランチの際にも誰かを誘って行くだろう。旅行も連れだって行く。

一人が好きな人間と大勢で楽しみたい人間とでは、その実施する趣味やレジャーも変わるだろう。そう考えると、マーケティング上も、このソロ度の違いを考慮した方がいい。

写真:アフロ

そして、ソロ度とは単純に結婚の有無だけで決まるものではないので、独身だから独身市場というふうに割り切れるものでもない。逆に、同じ独身でも将来結婚するような「エセソロ」の行動は「ガチソロ」とは違う場合も多い。ソロ度の違いによって市場規模を考えるという新しい視点は重要だろうと私は思っている。

単純に、人口規模だけでいえば、2040年には独身が人口(15歳以上)の半分を占めるのは間違いない。単身世帯は4割に達することも確実である。かつて標準世帯と呼ばれ、全体世帯数の45%を占めていた「夫婦と子世帯」は2割程度まで減少する。ソロ・エコノミー時代が到来することは必至である。

家族市場規模を凌駕するソロ活市場

しかし、単純にそれを独身者市場とみてしまうと見誤る。有配偶や家族という状態での「家族消費市場」と、独身であるという状態に依拠する「独身消費市場」のふたつだけではなく、ソロ度に起因する「ソロ活消費市場」というボリュームも無視できなくなる。

ソロ度の割合から、2020年の国勢調査(配偶関係不詳補完値)に基づき、それぞれの市場人口規模を計算したものが以下である。あくまで20-50代までの現役世代であり、15-19歳及び60歳以上は含んでいない。

昭和時代から通じて市場を牽引してきたのはまぎれもなく「家族市場」だったが、今後は、増える独身人口とともに、既婚者であってもたまにはソロ活をしたいという需要に対応した「ソロ活市場」の重要性は高まる。

事実、ソロ度から推計されるソロ活市場規模は家族市場規模を凌駕する。「+α」としている分は「ノンソロ」の中には、たとえ不本意ではあってもソロ活消費は発生するだろうと思うからである。

2020年時点でこれなのだから、2040年はもっと変わる。

今まで、男女年代別というデモグラ属性や、世代論マーケティングが通用したのは、誰もが同じ年齢帯で結婚し、子を持つという金太郎飴人生を過ごしたからである。50代になっても3割の男性が生涯未婚の時代になれば、そうした年代で区切る意味は薄れる。女性も生涯未婚は2割になる。多くが家庭で専業主婦をする時代と異なり、自分の稼ぎで消費を謳歌するパターンも増える。

望むと望まないとにかかわらず「消費の個人化」は進む 実際、もうスーパーやコンビニ、旅行業界などでは顕在化しつつあるが、こうした消費の個人化に対応した適応戦略が必要になる。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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