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松本人志なしでも成り立つ『水曜日のダウンタウン』の革新性

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:イメージマート)

ダウンタウンの松本人志が1月に芸能活動を休止したことで、彼のレギュラー番組を擁するテレビ局は対応に追われた。

『まつもtoなかい』は『だれかtoなかい』に変わり、『人志松本の酒のツマミになる話』は『酒のツマミになる話』に変わった。そのようにタイトルを変えて存続している番組もあれば、番組名を変えずにそのまま続けられているものもある。

今まで通り番組が続いているように見えても、松本の抜けた穴は大きい。松本なしで放送される番組に対して、どこか物足りなさを感じている視聴者も多いのではないか。

そんな中で、唯一気を吐いているのが『水曜日のダウンタウン』である。この番組はダウンタウンの冠番組であり、浜田雅功が進行役を務め、松本はパネラー席の一角にいた。松本が抜けてからも特定の代役を立てることはなかった。

『水曜日のダウンタウン』は、視聴率の数字だけで見るなら、飛び抜けた人気番組というわけではない。しかし、社会的な影響力はこの上なく大きい番組であり、放送内容がネット上でも口コミでも話題になることが多い。業界関係者の間でも注目されていて、芸人の中にも熱心なファンが多い。

個人的な実感としても、『水曜日のダウンタウン』の潜在的な支持率は高いと感じる。一昔前に比べると、日常生活でテレビについて人と話し合うような機会は激減しているのだが、たまに「昨日、テレビであれ見た?」などと話題にのぼることがあるのは、だいたい『水曜日のダウンタウン』のことだ。

見逃し配信サービスの「TVer」でも『水曜日のダウンタウン』は圧倒的に支持されている。2023年には「TVer」の番組で初めて累計再生回数が1億回を突破したことが報じられていたし、3年連続で「TVerアワード」バラエティ大賞も受賞している。『水曜日のダウンタウン』は「絶対に見逃せない番組」として多くの視聴者から支持されているのだ。

松本が抜けてからも番組自体のパワーが落ちた印象はなく、世間で話題になるような企画を毎週のように作り続けている。『水曜日のダウンタウン』がここまで支持される理由は何なのか。

番組のコンセプトは「説を検証する」というシンプルなものだ。プレゼンターとしてスタジオに現れた芸人が、1つの仮説をプレゼンする。そして、その検証の過程がVTRとして流される。最後にスタジオにいるパネラー陣がそれについてコメントをする。

この番組の面白さの秘密は、「説」自体の面白さと、それを検証する過程の面白さに分けられる。説のフレーズを聞いただけで笑ってしまうようなものもあれば、純粋に結果が気になるようなものもある。「説」という何にでも対応可能な受け皿の広いフォーマットを用意することで、さまざまなテイストの企画を試すことができる。

この番組の特徴は、説の立証をある程度まで厳密にやっていくことだ。出演するタレントにヤラセっぽい挙動があれば、そこを放置せず、むしろ積極的に取り上げて指摘していくことで、そのやり取り自体を面白いものとして見せたりする。そのあたりの臨機応変さと誠実さが、この番組の人気の秘密である。

説によっては、検証が上手くいかなかったり、はっきりした結論が出なかったりすることもある。そういうときにも、結果そのものを強引に変えてしまったりはせずに、見せ方を工夫することで、何とかオチをつけようとする。

通常であれば、ほとんどのバラエティ番組のおいて、企画はあらかじめ着地点を定めておいてから走り出すものだ。だが、『水曜日のダウンタウン』ではあえてそれを行わない。

もちろん、VTRを作るのための下準備や後処理はきっちりやるのだが、現場では起こったことをなるべくそのまま撮ろうとする。そこで生じたことをそのまま捉えて、どう面白くするかは後処理のときにやればいい、という考え方だ。この徹底した割り切りが、この番組独特のカラーになっている。

また、この番組では一般的な倫理観や常識の限界に迫るような、チャレンジングな試みもたびたび行われている。ときにはそれが世間で問題視されたり、批判の対象となることもある。

しかし、番組側はその挑戦的な姿勢を崩すことはない。すでに番組開始から10年を超える長寿番組になっているが、特定の「定番企画」を何度も繰り返し行ったりして守りに入るようなことはなく、新しい企画をどんどん作っている。

この番組は、ダウンタウンの冠レギュラー番組ではあるが、ダウンタウンや松本そのものの面白さをメインコンテンツにしていない。番組側が面白いVTRを作っていて、松本はそれを見てコメントをする役割に徹している。番組の軸を松本が握っていなかったからこそ、彼が抜けてもパワーダウンすることがなかったのだ。

もちろん、この番組であっても、松本が抜けたこと自体は痛手ではある。VTRを見た後の松本の短くて鋭いコメントの切れ味は抜群だったし、スタジオに彼がいることが出演する芸人やタレントのモチベーションにつながっていた面もある。ただ、それでも何とか持ちこたえているのは、番組の芯の部分のクオリティが高いままだからだ。

『水曜日のダウンタウン』は現代バラエティの最高傑作の1つである。2人の船頭のうち1人が欠けている今でも、その輝きは失われていない。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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