シャヘド136自爆無人機が約1300機飛来、通常の3倍規模:ウクライナ迎撃戦闘2024年9月分の傾向
2024年9月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で1441発でした。出典:ウクライナ空軍司令部
9月の1441発は8月の970発から大幅に増えていますが、これは長距離自爆無人機「シャヘド136」の飛来数が781発(8月)→1331発(9月)と大きく増えたことに由来します。この増大傾向は8月21日から始まっており、シャヘド136の飛来数が急増するとともに迷走し未到達となる機体の報告も増えています。シャヘド136の飛来数は過去最高を2カ月連続で更新しており、9月分の1331発は過去1年間(2023年9月~2024年8月)の1カ月当たりの飛来数の平均値436発の3倍以上に達しています。
これはロシア軍のシャヘド136の供給体制に劇的な変化が現れたことを意味しています。イランからの完成品輸入からロシア国内の生産工場でのライセンス生産に切り替えて、大規模量産体制が軌道に乗ったおそれがあります。
※追記:囮機が大量に混じっていたことが判明
- 無人機1900機飛来も囮無人機が大量に混じっていると判明:ウクライナ迎撃戦闘2024年10月分の傾向(2024年11月1日)
- シャヘド自爆無人機の飛来時に囮用の未知のタイプの無人機が大量に混ざっていることが確実に(10月20日)
- シャヘド136自爆無人機以外の新型無人機が大量飛来している可能性が大(10月10日)
※当記事では迎撃難易度でミサイルを「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類。迎撃困難な高速目標と迎撃容易な低速目標を混ぜた数を比較してもあまり意味が無いため。なお集計からKh-31P対レーダーミサイルとKh-59空対地ミサイルは除外している。
○2024年9月:1441発(1155撃墜、80%) ※184未到達を除外で92%撃墜
- 弾道ミサイル:38発(9撃墜、24%) ※北朝鮮製KN-23は24発
- 転用ミサイル:18発(0撃墜、0%) ※S-300は12発(ハルキウ飛来再開)
- 巡航ミサイル:54発(39撃墜、72%) ※7未到達を除外で83%撃墜
- 自爆ドローン:1331発(1107撃墜、83%) ※170未到達を除外で95%撃墜
※この他に種類不明ミサイル4発が報告されている。これは集計に入れていない。
※自爆ドローンは報告時点でまだウクライナ領内に滞空し迎撃戦闘中だった事例が4回7機分ある。これは集計の簡略化の為に未到達扱いとする。
弾道ミサイルの9月の傾向
弾道ミサイルは9月合計飛来数が38発で、このうち北朝鮮製KN-23の可能性があるものが9月2日~9月27日の間に4回で合計24発が報告されています。9月2日に16発の大規模攻撃があり、このうちの一部は転用ミサイルのS-300/S-400が混じっている可能性(弾道飛行を行うので短距離飛行だと判別が難しい)があります。
なお9月1日にも弾道ミサイルを中心とする大規模攻撃があったのですが、こちらは何故かウクライナ空軍司令部からは報告されておらず集計に反映されていません。この9月1日の攻撃を除外すれば、弾道ミサイルの9月の傾向は先月の8月とほぼ同じです。北朝鮮製KN-23の飛来数も8月と同じ24発なので、発射が8月から再開されたKN-23が増えた分だけ弾道ミサイルの飛来数が確実に増大しています。
転用ミサイルの9月の傾向
転用ミサイルのS-300地対空ミサイル対地攻撃運用によるハルキウ攻撃は再開されました。ただしハルキウへの発射数は推定10発前後と多くはありません。2024年3月の61発と比べると低調な投入数に止まっています。
またKh-22空対艦ミサイル対地攻撃運用の使用例が9月4日、12日、27日の3回2発ずつ合計6発あります。このうち幾つかは洋上の採掘リグを狙ったもので、12日に発射した2発のうち1発が付近を航行していた小麦を輸送する民間貨物船に意図せず命中した可能性があります。ただし民間貨物船に命中したミサイルの種類やロシア軍の攻撃意図ははっきりせず確定ではありません。巨大なKh-22空対艦ミサイルが命中したにしては損傷が少ないようにも見えます。
巡航ミサイルの9月の傾向
9月の巡航ミサイルは54発で先月の138発と比べてかなり少なくなっています。特に長距離型のKh-101は20発に止まっています。巡航ミサイルは先月の8月26日の大規模攻撃(関連記事)で大量消耗した分の補充が追い付いていないようで、暫くは使用を控えて新規生産分を貯め込む備蓄期間に入っているようです。
- Kh-101:20飛来17撃墜
- Kh-69:31飛来19撃墜7未到達
- イスカンデルK:3飛来3撃墜
9月は艦船発射型のカリブル巡航ミサイルの飛来はありませんでした。Kh-101とKh-69は空中発射型、イスカンデルKは地上発射型になります。なおKh-69についてウクライナ空軍司令部は「Kh-59/69」という表記で報告することが多く、短射程のKh-59が混じっている可能性があります。Kh-59単独表記の場合はこの記事では集計から除外しています。
自爆ドローンの9月の傾向
9月のシャヘド136自爆無人機の飛来数は1331発もの非常に多い数となっています。過去1年間(2023年9月~2024年8月)の1カ月当たりの飛来数の平均値436発の3倍以上に達しています。この増大傾向は先月の8月21日から始まっています。
関連:ロシア軍のシャヘド136自爆無人機の飛来数が大幅に増大している傾向、それにともない迷走数も増大
ロシア軍はシャヘド136をイランからの完成品輸入からロシア国内の生産工場でのライセンス生産に切り替えつつあり(関連記事)、大規模量産体制が軌道に乗ったおそれがあります。あるいはまだ把握されていない新しい生産工場が追加で開設されている可能性もあります。
シャヘド136は量産性の追求の為に使用部品を安価なものにグレードを落としている可能性があり、これが製造不良による迷走機の増大を招いている可能性もあります。ただし9月分の迷走機の報告は1331飛来中170が報告されているので全体の13%程度であり、致命的なほどに多いというわけではありません。(なお他に報告時点で滞空中が7機ある)
シャヘド136自爆無人機の飛来数が今後もこのペースで飛来し続けるとウクライナ軍の防空システムの負担は増えて迎撃ミサイルの多大な消耗を強いられてしまいます。全てを対空機関砲に任せるわけにもいかず、NATOからの迎撃ミサイルの補充を拡充する必要が出てくるでしょう。
※追記:囮機が大量に混じっていたことが判明
- 無人機1900機飛来も囮無人機が大量に混じっていると判明:ウクライナ迎撃戦闘2024年10月分の傾向(2024年11月1日)
- シャヘド自爆無人機の飛来時に囮用の未知のタイプの無人機が大量に混ざっていることが確実に(10月20日)
- シャヘド136自爆無人機以外の新型無人機が大量飛来している可能性が大(10月10日)
【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移
- 2024年09月:38発(9撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
- 2024年08月:40発(9撃墜) ※うちキンジャール×3(1) ※1未到達
- 2024年07月:22発(4撃墜) ※うちキンジャール×1(1)
- 2024年06月:16発(1撃墜) ※うちキンジャール×3(1)
- 2024年05月:10発(0撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
- 2024年04月:20発(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
- 2024年03月:29発(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
- 2024年02月:13発(1撃墜)
- 2024年01月:57発(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
- 2023年12月:37発(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
- 2023年11月:5発(1撃墜)
- 2023年10月:7発(0撃墜)
- 2023年09月:2発(1撃墜)
- 2023年08月:7発(1撃墜) ※うちキンジャール×7(1)
- 2023年07月:7発(0撃墜)
- 2023年06月:9発(9撃墜) ※うちキンジャール×9(9)
- 2023年05月:23発(21撃墜) ※うちキンジャール×7(7)
※イスカンデルM、キンジャール、KN-23(北朝鮮製)
【高速目標】転用ミサイル発射数の推移
- 2024年09月:18発(0撃墜) ※うちS-300×12(0)
- 2024年08月:11発(1撃墜) ※うちS-300×8(0)
- 2024年07月:2発(0撃墜) ※うちS-300×0(0)
- 2024年06月:1発(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
- 2024年05月:19発(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
- 2024年04月:42発(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
- 2024年03月:69発(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
- 2024年02月:37発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
- 2024年01月:67発(0撃墜) ※うちS-300×45(0)
- 2023年12月:32発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
- 2023年11月:17発(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
- 2023年10月:11発(0撃墜) ※うちS-300×11(0)
- 2023年09月:3発(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
- 2023年08月:12発(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
- 2023年07月:37発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
- 2023年06月:22発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
- 2023年05月:17発(0撃墜) ※うちS-300×12(0)
※S-300/S-400(地対空ミサイル転用)、Kh-22/Kh-32(空対艦ミサイル転用)。P-800オーニクス対艦ミサイルの使用は2023年11月11日が最後の報告。
【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移
- 2024年09月:54発(39撃墜、72%) ※7未到達を除外で83%撃墜
- 2024年08月:138発(111撃墜、80%)
- 2024年07月:54発(40撃墜、74%) ※6未到達を除外で83%撃墜
- 2024年06月:105発(81撃墜、77%)
- 2024年05月:79発(62撃墜、78%)
- 2024年04月:71発(55撃墜、77%)
- 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
- 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
- 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
- 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
- 2023年11月:4発(4撃墜、100%)
- 2023年10月:5発(4撃墜、80%)
- 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
- 2023年08月:114発(90撃墜、79%)
- 2023年07月:92発(78撃墜、85%)
- 2023年06月:163発(144撃墜、88%)
- 2023年05月:145発(133撃墜、92%)
※Kh-101/Kh-555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69
【低速目標】自爆ドローン発射数の推移
- 2024年09月:1331発(1107撃墜、83%) ※177未到達を除外で96%撃墜
- 2024年08月:781発(654撃墜、84%) ※72未到達を除外で92%撃墜
- 2024年07月:426発(373撃墜、88%) ※17未到達を除外で91%撃墜
- 2024年06月:328発(309撃墜、94%)
- 2024年05月:355発(347撃墜、98%)
- 2024年04月:287発(258撃墜、90%)
- 2024年03月:596発(511撃墜、86%)
- 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
- 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
- 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
- 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
- 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
- 2023年09月:503発(396撃墜、79%)
- 2023年08月:162発(145撃墜、90%)
- 2023年07月:238発(201撃墜、84%)
- 2023年06月:199発(166撃墜、83%)
- 2023年05月:399発(362撃墜、91%)
※シャヘド136/131。イラン製だが、2024年3月にロシア国内のライセンス生産工場の稼働が確認されている。
※報告時点で「滞空中」の7機は集計の簡略のため「未到達」に入れる。
【総合計】
- 2024年09月:1441発(1155撃墜、80%) ※184未到達を除外で92%撃墜
- 2024年08月:970発(775撃墜、80%) ※73未到達を除外で86%撃墜
- 2024年07月:504発(417撃墜、83%) ※23未到達を除外で87%撃墜
- 2024年06月:450発(391撃墜、87%)
- 2024年05月:463発(409撃墜、88%)
- 2024年04月:425発(316撃墜、74%)
- 2024年03月:810発(610撃墜、75%)
- 2024年02月:475発(332撃墜、70%)
- 2024年01月:582発(385撃墜、66%)
- 2023年12月:776発(609撃墜、78%)
- 2023年11月:406発(308撃墜、76%)
- 2023年10月:308発(233撃墜、76%)
- 2023年09月:598発(475撃墜、79%)
- 2023年08月:295発(236撃墜、80%)
- 2023年07月:374発(279撃墜、75%)
- 2023年06月:393発(319撃墜、81%)
- 2023年05月:584発(516撃墜、88%)
※2023年5月からキーウ配備のパトリオット防空システム実戦投入開始。
※低速目標の迎撃率はずっと高いまま安定しており、総合計の迎撃率の増減は「高速目標がパトリオット未配備地域を狙ってきた数」に起因している。
※報告数はウクライナ空軍司令部の発表したものであり、未報告のミサイルなどもあるため(前線部隊の戦術目標への弾道ミサイル使用などは入っていない)、数は厳密には正確なものではないことに留意。