無人機1900機飛来も囮無人機が大量に混じっていると判明:ウクライナ迎撃戦闘2024年10月分の傾向
2024年10月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で1978発でした。出典:ウクライナ空軍司令部
10月の1978発は9月の1441発と比べて大幅に増えており、8月の970発と比べると2倍になっています。この異常な増え方はほぼ全てが長距離無人機が増えたことによるもので、10月集計の無人機は1912発と総飛来数の97%を占めています。
しかしこれは「安い囮無人機が大量に混じっていた」という絡繰りがあることが判明しています。シャヘド136自爆無人機と思われていた飛来機の中にゲルベラ囮無人機(機種は推定)が大量に混じっていたのです。
8月後半から急増し始めた長距離無人機の飛来について、当初はシャヘド136自爆無人機のロシア国内工場での大量生産が軌道に乗ったと考えられていました。しかし違っていたのです。
- ~10月05日:攻撃無人機「シャヘド136/131」
- 10月06日~:攻撃無人機
- 10月18日~:敵性無人機
ウクライナ空軍司令部は10月6日から撃墜報告の図表から「シャヘド136/131」を外し、10月18日から「攻撃無人機」という表現を止めて「敵性無人機」に改めています。10月初旬ごろに、ゲルベラ囮無人機が混じっていることに気付いたのです。
目標に未到達の無人機が大量に出始めたのは大量生産での粗製乱造による結果ではなく、最初から囮役だったので燃料が尽きたら墜落していただけ。そして自爆機と囮機の飛行性能が似通っており判別が付き難い。これによりシャヘド136自爆無人機がどれだけ飛来しているかも今や正確には分からなくなってしまいました。おそらくですが現在では飛来する無人機の半数以上が囮機である可能性があります。
また10月の他の目立った傾向では、Kh-101巡航ミサイルの飛来が1発もありませんでした。Kh-101は8月26日の大量使用(関連記事)の後に、9月4日に6発使用があった以降は2カ月近く発射が途絶えています。ただしKh-101発射母機のTu-95戦略爆撃機は訓練を繰り返しており、航空基地の弾薬庫へKh-101を補充する動きもみられ、8月26日の大量使用で消耗したミサイルの在庫を補充できるまで発射を控える備蓄期間に入っているものと見られます。
※当記事では迎撃難易度でミサイルを「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類。迎撃困難な高速目標と迎撃容易な低速目標を混ぜた数を比較してもあまり意味が無いため。なお集計からKh-31P対レーダーミサイルとKh-59空対地ミサイルは除外している。
○2024年10月:1978飛来690未到達1108撃墜(撃墜率86%)
- 弾道ミサイル:25飛来2撃墜(撃墜率8%) ※北朝鮮製KN-23は9発
- 転用ミサイル:14飛来0撃墜(撃墜率0%) ※S-300のハルキウ飛来無し
- 巡航ミサイル:22飛来3未到達8撃墜(撃墜率42%) ※Kh-101の飛来無し
- 敵性ドローン:1912飛来687未到達1098撃墜(撃墜率90%) ※囮を含む
※他に種類不明ミサイル5飛来0撃墜(撃墜率0%)
※撃墜率は未到達を除いて計算。
※Kh-35対艦ミサイル対地使用が1飛来(0撃墜)の報告があり、転用ミサイルに分類。
※10月7日のドローン飛来数についてウクライナ軍は正確な数を報告しておらず(空軍司令部)、民間モニター(@war_monitor_ua)の計測数を採用。
※ドローンの表記をウクライナ空軍司令部に倣って敵性ドローンに変更。なお日々の迎撃戦闘報告時点でドローンがまだいくつか滞空中だった事例が10回42機以上あるが、これは飛来数に含める。含めない場合は撃墜率93%以上。
弾道ミサイルの10月の傾向
- イスカンデルM弾道ミサイル×13飛来0撃墜
- イスカンデルM/KN-23弾道ミサイル×9飛来0撃墜
- キンジャール空中発射弾道ミサイル×3飛来2撃墜
イスカンデルMとKN-23は飛行中の見分けは付き難いのですが、「イスカンデルM/KN-23」の報告をKN-23疑いとしてカウント。KN-23疑いは10月は9発で9月は24発だったので半減以下になるも、まだ在庫がある模様。弾道ミサイル全体の飛来数も先月より減少。
10月7日のキンジャールの2撃墜は首都キーウ上空ですが、これはキーウが狙われたのではなく、キーウから240km西方のフメリニツキー州のスタロコスティアニティヴ航空基地を標的にキンジャールが滑空飛行している中間段階で、キーウ配備のパトリオット防空システムが中間迎撃に成功したものと推定されています。(10月7日迎撃戦闘・宇空軍司令部)
転用ミサイルの10月の傾向
- S-300地対空ミサイル×11飛来0撃墜
- Kh-35空対艦ミサイル×1飛来0撃墜
- Kh-22空対艦ミサイル×2飛来0撃墜
転用ミサイルの使用は先月に続き低調になった上に、S-300のハルキウ飛来が再び途絶えました。
ただしロシア軍はハルキウ攻撃を戦闘機からの滑空誘導爆弾に切り替えているようです。なお滑空誘導爆弾はウクライナ空軍司令部の長距離ミサイル・ドローン迎撃戦闘報告には含まれていません。
巡航ミサイルの10月の傾向
- Kh-69空対地ミサイル×21飛来3未到達7撃墜
- イスカンデルK巡航ミサイル×1飛来1撃墜
ウクライナ空軍司令部は「Kh-59」および「Kh-59/69」と表現を使い分けており、ここでは後者をKh-69としてカウントしています(ただしKh-59も混ざっている疑いがある)。当記事では射程が短いKh-59を長距離攻撃から除外しています。
10月はKh-101の飛来が無く(2カ月近く飛来が無い)、本格的な長距離巡航ミサイルはカリブル系のイスカンデルKが1発のみとなっています。おそらく巡航ミサイルは使用を控える備蓄期間に入っています。
敵性ドローンの10月の傾向
- 1912飛来
- 1098撃墜
- 687未到達(うち31機がロシアやベラルーシに向って迷走)
- 42以上滞空中(日々の迎撃戦闘報告時点でまだ滞空中の機体がある)
記事冒頭で説明した通り飛来数が1912機にも達していますが、安い囮用無人機が大量に混ざっていることが発覚しています。8月後半からの無人機飛来数の急激な増大の原因はこれでした。
自爆機と囮機の飛行速度が似通っているために飛行中の判別は難しく、撃墜してしまうとそれが自爆機か囮機かもわからくなってしまうので(数が多過ぎて残骸の調査を全て行うのは非現実的)、2024年8月以降の自爆無人機の飛来数の実態が分からなくなっています。
10月は敵性無人機の飛来数の3分の1以上が未到達です。そのほとんどが囮機でしょう。また撃墜機にも囮機が多く混じっている筈です。すると飛来数の半分以上が囮機であってもおかしくはないのです。あるいは囮機が3分の2以上を占めているのかもしれませんが、もう正確な判別は困難です。
【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移
- 2024年10月:25飛来(2撃墜) ※うちキンジャール×3(2)
- 2024年09月:38飛来(9撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
- 2024年08月:40飛来(9撃墜) ※うちキンジャール×3(1)
- 2024年07月:22飛来(4撃墜) ※うちキンジャール×1(1)
- 2024年06月:16飛来(1撃墜) ※うちキンジャール×3(1)
- 2024年05月:10飛来(0撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
- 2024年04月:20飛来(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
- 2024年03月:29飛来(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
- 2024年02月:13飛来(1撃墜)
- 2024年01月:57飛来(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
- 2023年12月:37飛来(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
- 2023年11月:5飛来(1撃墜)
- 2023年10月:7飛来(0撃墜)
- 2023年09月:2飛来(1撃墜)
- 2023年08月:7飛来(1撃墜) ※うちキンジャール×7(1)
- 2023年07月:7飛来(0撃墜)
- 2023年06月:9飛来(9撃墜) ※うちキンジャール×9(9)
- 2023年05月:23飛来(21撃墜) ※うちキンジャール×7(7)
※イスカンデルM、KN-23(北朝鮮製)、キンジャール
【高速目標】転用ミサイル発射数の推移
- 2024年10月:14飛来(0撃墜) ※うちS-300×11(0)
- 2024年09月:18飛来(0撃墜) ※うちS-300×12(0)
- 2024年08月:11飛来(1撃墜) ※うちS-300×8(0)
- 2024年07月:2飛来(0撃墜) ※うちS-300×0(0)
- 2024年06月:1飛来(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
- 2024年05月:19飛来(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
- 2024年04月:42飛来(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
- 2024年03月:69飛来(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
- 2024年02月:37飛来(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
- 2024年01月:67飛来(0撃墜) ※うちS-300×45(0)
- 2023年12月:32飛来(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
- 2023年11月:17飛来(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
- 2023年10月:11飛来(0撃墜) ※うちS-300×11(0)
- 2023年09月:3飛来(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
- 2023年08月:12飛来(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
- 2023年07月:37飛来(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
- 2023年06月:22飛来(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
- 2023年05月:17飛来(0撃墜) ※うちS-300×12(0)
※S-300/S-400(地対空ミサイル転用)、Kh-22/Kh-32(空対艦ミサイル転用)。Kh-35(空対艦ミサイル転用。
【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移
- 2024年10月:22飛来3未到達(8撃墜、42%)
- 2024年09月:54飛来7未到達(39撃墜、83%)
- 2024年08月:138飛来(111撃墜、80%)
- 2024年07月:54飛来6未到達(40撃墜、83%)
- 2024年06月:105飛来(81撃墜、77%)
- 2024年05月:79飛来(62撃墜、78%)
- 2024年04月:71飛来(55撃墜、77%)
- 2024年03月:116飛来(95撃墜、82%)
- 2024年02月:46飛来(39撃墜、85%)
- 2024年01月:124飛来(102撃墜、82%)
- 2023年12月:109飛来(101撃墜、93%)
- 2023年11月:4飛来(4撃墜、100%)
- 2023年10月:5飛来(4撃墜、80%)
- 2023年09月:90飛来(78撃墜、87%)
- 2023年08月:114飛来(90撃墜、79%)
- 2023年07月:92飛来(78撃墜、85%)
- 2023年06月:163飛来(144撃墜、88%)
- 2023年05月:145飛来(133撃墜、92%)
※Kh-101/Kh-555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69
【低速目標】敵性ドローン発射数の推移
- 2024年10月:1912飛来687未到達(1098撃墜、90%) ※囮機の飛来確定
- 2024年09月:1331飛来1170未到達(1107撃墜、95%) ※飛来数の急増
- 2024年08月:781飛来72未到達(654撃墜、92%) ※飛来数の急増
- 2024年07月:426飛来17未到達(373撃墜、91%) ※囮機の投入開始?
- 2024年06月:328飛来(309撃墜、94%)
- 2024年05月:355飛来(347撃墜、98%)
- 2024年04月:287飛来(258撃墜、90%)
- 2024年03月:596飛来(511撃墜、86%)
- 2024年02月:361飛来(276撃墜、76%)
- 2024年01月:334飛来(271撃墜、81%)
- 2023年12月:598飛来(490撃墜、82%)
- 2023年11月:380飛来(303撃墜、80%)
- 2023年10月:285飛来(229撃墜、80%)
- 2023年09月:503飛来(396撃墜、79%)
- 2023年08月:162飛来(145撃墜、90%)
- 2023年07月:238飛来(201撃墜、84%)
- 2023年06月:199飛来(166撃墜、83%)
- 2023年05月:399飛来(362撃墜、91%)
※シャヘド136/131自爆無人機、ゲルベラ(ガーベラ)囮無人機。囮無人機の機種は推定。
【総合計】
- 2024年10月:1978飛来690未到達(1108撃墜、86%)
- 2024年09月:1441飛来177未到達(1155撃墜、91%)
- 2024年08月:970飛来73未到達(775撃墜、86%)
- 2024年07月:504飛来23未到達(417撃墜、87%)
- 2024年06月:450飛来(391撃墜、87%)
- 2024年05月:463飛来(409撃墜、88%)
- 2024年04月:425飛来(316撃墜、74%)
- 2024年03月:810飛来(610撃墜、75%)
- 2024年02月:475飛来(332撃墜、70%)
- 2024年01月:582飛来(385撃墜、66%)
- 2023年12月:776飛来(609撃墜、78%)
- 2023年11月:406飛来(308撃墜、76%)
- 2023年10月:308飛来(233撃墜、76%)
- 2023年09月:598飛来(475撃墜、79%)
- 2023年08月:295飛来(236撃墜、80%)
- 2023年07月:374飛来(279撃墜、75%)
- 2023年06月:393飛来(319撃墜、81%)
- 2023年05月:584飛来(516撃墜、88%)
※2023年5月からキーウ配備のパトリオット防空システム実戦投入開始。
※低速目標の迎撃率はずっと高いまま安定しており、総合計の迎撃率の増減は「高速目標がパトリオット未配備地域を狙ってきた数」に起因している。
※報告数はウクライナ空軍司令部の発表したものであり、未報告のミサイルなどもあるため(前線部隊の戦術目標への弾道ミサイル使用などは入っていない)、数は厳密には正確なものではないことに留意。