Yahoo!ニュース

ロシア軍のシャヘド136自爆無人機の飛来数が大幅に増大している傾向、それにともない迷走数も増大

JSF軍事/生き物ライター
9月7日、ウクライナ最高議会より。議事堂の前に落下したシャヘド136の残骸

 9月8日にラトビア国防省は、9月7日にラトビア東部のレーゼクネのガイガラヴァにロシア無人機がベラルーシから侵入して墜落したと発表。9月9日に残骸の調査の結果、ロシア軍の「シャヘド型」自爆無人機だったと判明して報告されています。出典:ラトビア国防省

 9月7日のロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃についてウクライナ空軍司令部の発表ではシャヘド136自爆無人機が67飛来58撃墜で、撃墜していない9機のうち6機はロシアやベラルーシなどに迷走し飛び去り3機はウクライナ領土内で勝手に墜落した模様だと報告しています。このうち飛び去った6機のうち1機がベラルーシを突っ切ってラトビアに到達したものと見られます。出典:ウクライナ空軍司令部

 なお9月7日の迎撃戦闘でベラルーシの反体制人権監視団体「ハジュン・プロジェクト」は7~8機のロシア無人機がベラルーシ領内に迷い込んで来たと報告(一時的な侵入を含む)、そのうち1機のシャヘド136自爆無人機(No.6)の飛行経路予想がラトビアに向かう方向でした。おそらくレーゼクネに落下した無人機はこれである可能性が高いと考えられます。

迷走したロシア軍のシャヘド136自爆無人機

シャヘド136自爆無人機の飛来数の急増(平均の3倍)

 ウクライナ空軍司令部の発表を元にすると、2024年8月のシャヘド136の飛来数は781機にも達して過去最大でした。2024年3月の596機や2023年12月の598機がこれまでの最大規模だったので一気に増えています。

 過去1年間(2023年9月~2024年8月)のシャヘド136の飛来数は合計5233機で、1カ月あたり約436機が平均値です。

 しかし既に2024年9月は10日が経過した時点で飛来数がもう364機にも達しています。このままのペースで飛来が続くと9月は1100機近い数となる勢いです。ロシア軍のシャヘド136の調達で何らかの変化があり、投入数が急激に増大している兆候が見え始めています。

364飛来281撃墜64未到達 シャヘド1362024年9月・10日時点

  1. 11飛来8撃墜 
  2. 23飛来20撃墜 ※3未到達
  3. 35飛来27撃墜 ※8未到達
  4. 29飛来22撃墜 ※7未到達
  5. 78飛来60撃墜 ※18未到達
  6. 44飛来27撃墜 ※9未到達
  7. 67飛来58撃墜 ※9未到達
  8. 23飛来15撃墜 ※2未到達
  9. 8飛来6撃墜 ※2未到達
  10. 46飛来38撃墜 ※6未到達

※未到達分を除外すると迎撃率94%。

8月21日から迷走未到達の報告が急増

 シャヘド136の飛来数の急激な増大にともない、迷走数の報告も増え始めました。9月は10日時点で飛来数の約18%が迷走し未到達となっています。この傾向は先月の8月の後半から急に始まっており、8月21日以降にシャヘド136の迷走未到達がウクライナ空軍司令部から多数報告されるようになっています。

 2024年8月分のシャヘド136は781飛来653撃墜72未到達で約9%が迷走し未到達ですが、8月21日~31日の期間に限ると430飛来327撃墜72未到達で約17%が迷走し未到達となっています。

  • 8月21日~31日:430飛来327撃墜72未到達(迷走率17%)
  • 9月01日~10日:364飛来281撃墜64未到達(迷走率18%)

 つまり8月21日~31日の傾向と9月1日~10日の傾向は飛来数も迷走数も似ており、急激に増加した傾向がそのまま続いているということを示しています。

 シャヘド136の迷走数が増えたのはウクライナ軍の電子戦(GPSやグロナスの電波を妨害する)の効果もあると思いますが、急激に増えたシャヘド136の飛来数の傾向に関係があるのではないかと思います。

 たとえば憶測での話になりますが、シャヘド136をイランからの完成品輸入からロシア国内の工場でのライセンス生産に切り替えた際に、使用部品のグレードを落として安いものに変更していた場合です。大量生産の為に仕様を変更して不具合の出た機体が目立つようになったのではという可能性が考えられます。

 ただしシャヘド136の迷走数が増えたといっても飛来数の2割未満であり、飛来数はこれまでの平均の3倍近い数の勢いが最近の約20日間続いています。これが一時的なもので終わるかはわかりませんが、もしこの傾向が常態化すると、迎撃に費やす地対空ミサイルの消耗が無視できないほど多くなってしまいます。

 現状ではシャヘド136については飛来したほとんどが撃墜するか迷走しており実害は少ないのですが、地対空ミサイルの消耗が続くことは避けられません。対空機関砲に任せる割合を多くするにしても限度があります。もし1カ月あたり1000機以上もシャヘド136自爆無人機が飛来する事態が続くようになれば、ウクライナの迎撃戦闘能力はじわじわと削がれてしまいます。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

JSFの最近の記事