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ミシュランガイドに初めて登場した「Newセレクション」とは? これから起きる3つの変化

東龍グルメジャーナリスト
Newセレクション (C) ミシュランガイド

日本で最もよく知られているレストランガイド

ミシュランガイドは、日本で最もよく知られている、権威あるレストランガイドです。ミシュランガイドで用いられている星の評価を意識して、「星付きレストラン」や「三つ星の手土産」といった表現がよく使われています。

三つ星レストランを全て回ってみる人や、同じジャンルの同じ星を食べ比べてみる人も少なくありません。レストランの星の数を覚えていて、新年度版が刊行されると、どのレストランに星が付いたり付かなくなったり、増えたり減ったりしたか、すぐにわかる人もいます。

多くの人がミシュランガイドに関心を寄せていますが、公式ウェブサイトで最近ある新しい動きがありました。それは、「Newセレクション」というコンテンツが公開されたことです。

先行公開:ミシュランガイドNewセレクション―3月

ミシュランガイドが公式ウェブサイトをオープン

2015年4月16日に、ぐるなびとミシュランガイドが提携して、クラブミシュランというサイトをローンチしました。日本で初めてとなるミシュランガイドの公式ウェブサイトで、私もミシュランガイド掲載店を紹介する記事をいくつか書いたことがあります。

クラブミシュランは2022年9月30日にクローズし、ミシュランガイドが独自にグローバルで公式ウェブサイトをオープン。10月7日に発表された「ミシュランガイド京都・大阪2023」では、書籍よりも早い10月4日に公式ウェブサイトで情報が公開されました。

これ以降、公式ウェブサイトではいち早く情報が掲載されるようになっており、ミシュランガイドが公式ウェブサイトに力を入れていることが窺えます。

検索とオリジナル記事

公式ウェブサイトには、レストラン検索とマガジン=オリジナル記事もあります。

レストラン検索では、店名や地域、位置情報から調べられ、そこからさらに、新規店か否か、料理の評価、料理カテゴリー、サービスや施設、価格でフィルタリングできます。「お気に入り」に登録して、気になるレストランをリストアップできるのも便利です。

オリジナル記事には、最新情報を扱う「News & Views」、ミシュランガイド発表会を詳しく紹介する「Michelin Guide Ceremony」、番外編ともいえる「Dining Out」、特集記事の「Features」、人にフォーカスする「People」、地域を巡る「Travel」というカテゴリーがあります。記事の幅は多岐にわたっており、ミシュランガイドの新しい妙味を引き出すスパイスとなっています。

「Newセレクション」が追加

そして2023年3月3日、「Dining Out」カテゴリーに登場した記事が「Newセレクション」でした。2023年3月版として、以下のレストランがミシュランガイドに追加されたと紹介しています。

東京

マス/MAZ(イノベーティブ)

トワヴィサージュ/TROIS VISAGES(フランス料理)

港式料理 鴻禧/Koshikiryori Koki(中国料理)

西麻布 野口/Nishiazabu Noguchi(日本料理)

京都

アンペイジ/anpeiji(フランス料理)

天若/Tenjaku(天ぷら)

大阪

柏屋 大阪北新地/Kashiwaya Osaka Kitashinchi(日本料理)

シナエ/SINAE(フランス料理)

東京の「マス」や「トワヴィサージュ」は非常に素晴らしい注目のレストランで、私も取材して記事を書いたことがあります。

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何が変わっていくのか

「Newセレクション」に掲載されたレストランは、星やビブグルマンが付いていません。次年度の発表の際に評価が明らかになります。

今回が2023年3月版と記載されているように、「Newセレクション」は継続的に発表される方向です。毎月公開されることも期待されており、もしもそうなれば非常に楽しみなことでしょう。

ミシュランガイドの新しい試みについて、関係者に話を聞きましたが、まだオフィシャルにアナウンスできないので、当記事では紹介しません。

「Newセレクション」が公開されることによって何が変わっていくのか、私の見解を3つ述べていきましょう。

存在感の高まり

ミシュランガイドは地域別に刊行されており、発表会の場で、ビブグルマン、一つ星、二つ星、三つ星、ミシュラングリーンスター、アワードの全てが発表されます。その際に大きな注目を集めますが、たとえば「ミシュランガイド東京」が盛り上がるのは、例年であれば11月下旬であり、年に1度だけです。

他の世界的なガイドやランキングなどでは、できるだけ多く露出するために、本発表とアワードの発表を分けたり、新しい取り組みをリリースしたりして話題づくりに努めています。

「Newセレクション」が定期的に発表されるようになれば、ミシュランガイドが耳目を集める機会が増えるのは明白。その存在感がさらに高まるのではないでしょうか。

星やビブグルマンの候補

「Newセレクション」に掲載されているレストランは、評価なしとなっており、次年度の発表で評価が判明します。ただ、掲載店数が少ないことから推測するに、掲載店舗のほとんどに星やビブグルマンが付くのではないでしょうか。

もしもその通りだとすれば、「Newセレクション」掲載店は、星やビブグルマンがほぼ確約されることになります。「Newセレクション」は“ミシュランガイドの登竜門”として脚光を浴び、大きな役割を担うことになりそうです。

勝手に憶測を進めてみれば、いずれは「Newセレクション」掲載時に、星やビブグルマンが付与される未来が訪れるかもしれません。そうなれば、「Newセレクション」の発表は、メディアが張り付くほどの一大イベントになることは必至です。

レストラン関係者のモチベーション向上

レストランのオーナーやシェフなど、関係者が大きな目標としているのはミシュランガイドの星です。その証左に、ミシュランガイドの発表会には、招待された関係者のほぼ全てが参加します。

「星をとることが目標」から「三つ星に絶対なる」と温度感に差はありますが、ミシュランガイドに掲載されることが、大きな名誉であり、人生の誇りであることに違いはありません。

ミシュランガイドの発表は年に1回ですが、「Newセレクション」が毎月や隔月のスパンで発表されることによって、レストラン関係者の気持ちがより引き締まり、モチベーションがより向上するのではないでしょうか。

より幅広いレストランガイドに

ミシュランガイドにおける星の定義を紹介しましょう。

三つ星は「そのために旅行する価値のある卓越した料理」、二つ星は「遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理」、一つ星は「近くに訪れたら行く価値のある優れた料理」です。

話題の「ミシュランガイド東京2023」を読み解く 発表会に参加したグルメジャーナリストの視点(東龍)/Yahoo!ニュース

ミシュランガイドではレストランの評価を、モビリティに置き換えて三つ星の「そのために旅行する」から一つ星の「近くに訪れたら」まで巧みに表現していますが、「Newセレクション」の登場によって、ミシュランガイドは「年1回の権威的な格付け」から「すぐに新しい注目店を紹介」までと、より幅広い役割を担うレストランガイドになったのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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