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話題の「ミシュランガイド東京2023」を読み解く 発表会に参加したグルメジャーナリストの視点

東龍グルメジャーナリスト
ミシュランガイド東京2023 (C) 東龍

「ミシュランガイド東京2023」が発表

2022年11月15日16時に「ミシュランガイド東京2023」の情報が解禁されました。12時30分からは記者会見、14時からは発表会が行われており、私も参加していました。

ここ最近は新型コロナウイルスの影響でオンライン発表会だったので、「ミシュランガイド東京2020」以来となる実に3年ぶりのオフライン開催となります。今年の「ミシュランガイド東京2023」について、個々の飲食店がどうだったかではなく、全体的に注目したいところを紹介していきましょう。

参考として、コロナ禍のミシュランガイドについて執筆した拙記事も、ご興味があればお読みください。

「ミシュランガイド東京2022」が、コロナ禍でも「実食調査」にこだわった理由(東龍)/現代ビジネス | 講談社

世界で最も星をもつ都市

「ミシュランガイド東京2023」のアンヴェール (C) 東龍
「ミシュランガイド東京2023」のアンヴェール (C) 東龍

掲載軒数は全部で422軒(新規55軒)となりました。

内訳は、ビブグルマン222軒(新規38軒)、一つ星149軒(新規16軒)、二つ星39軒(新規1軒)、三つ星12軒(新規0軒)、ミシュラングリーンスター12軒(新規0軒)。ミシュラングリーンスターの12軒は全て、星やビブグルマンとして掲載されていました。

ちなみに、ミシュラングリーンスターの定義は「持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストラン」であり、サステナビリティに力を入れているレストランであるといえます。したがって、ミシュラングリーンスターだからといって、必ず星が付いているわけではありません。

東京の星つきレストランは200軒となり、今年も世界で最も星が多い都市となりました。アジアのベストレストラン50やラ・リストでも、上位にランクインしている東京のレストランが多いだけに、これも納得の結果です。

三つ星は前年と同じ

「ミシュランガイド東京2023」の三つ星 (C) 東龍
「ミシュランガイド東京2023」の三つ星 (C) 東龍

三つ星として掲載されたのは、以下12軒。

カンテサンス/フランス料理

まき村/日本料理

神楽坂 石かわ/日本料理

虎白/日本料理/

鮨 よしたけ/寿司

ロオジエ/フランス料理

龍吟/日本料理

麻布 かどわき/日本料理

かんだ/日本料理

茶禅華/中国料理

レフェルヴェソンス/フランス料理

ジョエル・ロブション/フランス料理

ミシュランガイドが日本に上陸した2007年の「ミシュランガイド東京2008」から、16年連続で三つ星として掲載されているのが「カンテサンス」「かんだ」「ジョエル・ロブション」の3軒のみです。

今年の三つ星レストランは前年と全く同じ顔ぶれとなりました。三つ星が前年と同じになったのは「ミシュランガイド東京2018」以来です。

三つ星の内訳は、日本料理6軒、フランス料理4軒、寿司1軒、中国料理1軒。寿司1軒。寿司は予約可能店だけを対象にしたことによって「ミシュランガイド東京2020」から2軒減って1軒となり、フランス料理は「ミシュランガイド東京2021」から1軒増えて4軒となりました。

東京のフランス料理は非常にレベルが高いので、台頭しているのは納得できます。ちなみにイタリア料理では、三つ星レストランはまだ現れていません。

ビブグルマンの定義

ビブグルマンの定義は「価格以上の満足感が得られる料理」。「ミシュランガイド東京2022」までは6,000円以下、「ミシュランガイド東京2019」までは5,000円以下と記載されていましたが、「ミシュランガイド東京2023」からは具体的な価格は表示されなくなりました。

価格をひとつの目安にすると、難しいところがあるので、シンプルに「価格以上の満足感が得られる料理」とするのが現実に即しているでしょう。

理由は2つあります。

まず、全体的に飲食店の価格は上がっており、何をどのようにオーダーするかによって、価格が異なるからです。次に、価格で切ってしまうと、ラーメンやカレーといったリーズナブルなカテゴリは問題ありませんが、コースをメインに提供しているレストランは対象外となってしまうからです。

ファインダイニングもビブグルマンに選ばれていたり、ビブグルマンと一つ星を行き来するレストランもあったりするだけに、価格は関係がなくなってよかったと思います。

ミシュラングリーンスター

「ミシュランガイド東京2023」のミシュラングリーンスター (C) 東龍
「ミシュランガイド東京2023」のミシュラングリーンスター (C) 東龍

近年、ミシュランガイドが重点を置いているのがミシュラングリーンスター。今年は以下12軒が掲載されました。

カンテサンス/フランス料理/三つ星

シンシア/フランス料理/一つ星

傳/日本料理/二つ星

フロリレージュ/フランス料理/二つ星

ラチュレ/フランス料理/一つ星

ファロ/イタリア料理/一つ星

ラ ペ/フランス料理/一つ星

ヌー トウキョウ/フランス料理/一つ星

クローニー/フランス料理/二つ星

NARISAWA/イノベーティブ/二つ星

マ・キュイジーヌ/フランス料理/ビブグルマン

レフェルヴェソンス/フランス料理/三つ星

ミシュラングリーンスターは、東京では「ミシュランガイド東京2021」から始まり、この年は6軒。翌年の「ミシュランガイド東京2022」では14軒に増えました。今年はその中から12軒が引き続き選出されています。

少なからぬ飲食店、特にフランス料理やイタリア料理はサスティナブルな活動に注力し、ミシュラングリーンスターへの関心は高いです。ミシュランガイドも、どういった基準で、どれくらいの飲食店にミシュラングリーンスターを付けるのか、まだ試行錯誤しているのではないでしょうか。

記者会見と発表会

左から順番に、ミシュランガイド事業部執行役員の本城征二氏、「レフェルヴェソンス」生江史伸氏、代表取締役社長の須藤元氏 (C) 東龍
左から順番に、ミシュランガイド事業部執行役員の本城征二氏、「レフェルヴェソンス」生江史伸氏、代表取締役社長の須藤元氏 (C) 東龍

記者会見では、ミシュランガイドの歴史、評価基準、調査員制度、星の定義などが改めて説明されました。

その後に、三つ星でミシュラングリーンスターとして掲載されている「レフェルヴェソンス」の生江史伸氏と、ミシュランガイド事業部執行役員の本城征二氏によるトークセッションを開催。生江氏は自身が行っているサスティナブルな活動について紹介し、サステナビリティはガストロノミーに課せられた使命であり、それが多様性や差別化にもつながると説明していました。

記者会見後の発表会はコロナ禍とあって、全ての掲載店が招待されていたわけではありません。招待され、登壇した飲食店は、新規掲載の飲食店、三つ星の飲食店、ミシュラングリーンスターの飲食店だけでした。つまり、ミシュラングリーンスターは三つ星と同じような扱いだったのです。会場での発表順・登壇順では、ミシュラングリーンスターが、新規ビブグルマンや新規星付きレストランよりも前になっていました。

記者会見や発表会の構成や演出からも、ミシュランガイドがミシュラングリーンスターを重要に考えていることが窺えます。

飲食店にとって明るい光

星の定義を改めて紹介しましょう。

三つ星は「そのために旅行する価値のある卓越した料理」、二つ星は「遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理」、一つ星は「近くに訪れたら行く価値のある優れた料理」です。

飲食業界はコロナ禍で非常に厳しい環境に置かれていましたが、ミシュランガイドの発表を対面で行えたことは、飲食店にとって明るい希望でした。「そのために旅行する価値のある卓越した料理」を食べられる日常が、1日でも早く完全に戻ることを切望しています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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