最高値続出のアメリカ軍需企業の株価――ウクライナ戦争で西側諸国の国防費増加受けて
ロシアによるウクライナ侵略を受け、欧米や日本など西側諸国で国防費を増額する動きが相次いでいる。これを受け、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスなどアメリカの軍需企業の株価が軒並み高騰し、最高値を更新している。
●欧米中心に国防予算拡大の動きが加速
2月24日のロシアのウクライナ侵攻を受け、ドイツのショルツ首相はそのわずか3日後の27日、現在はGDP(国内総生産)比で1.5%ほどにとどまる国防費を、今後は毎年2%以上に大幅に引き上げる計画を発表した。先の大戦の反省を踏まえ、軍拡に慎重だった戦後ドイツの歴史的な政策転換に踏み切った。
バルト三国のリトアニアも今年の国防予算を従来の対GDP比2.05%から2.52%に増やすことを決めた。また、ポーランドはすでにNATO加盟国目標のGDP比2%の国防費を支出しているが、2023年にはこれを3%に高める。このほか、ベルギーやルーマニア、イタリア、ノルウェー、スウェーデンも国防予算を増額する方針を相次いで表明した。
アメリカのバイデン政権も3月28日、2023会計年度(22年10月~23年9月)の国防費として、前年度比で4%増の8130億ドル(約104兆円)を提案した。
日本も例外ではない。自民党は防衛費を現在のGDP比1%程度から5年後をめどに2%以上に引き上げる案を検討している。
●2021年の欧州の軍事費は4.8%増加
イギリスのシンクタンクIISS(国際戦略研究所)が2月に公表した報告書「ミリタリー・バランス」によれば、2021年の世界の軍事費の合計は前年比3.4%増の1兆9200億ドル(約246兆円)だった。ただし、インフレを加味した実質ベースでは1.8%減だった。
欧州の軍事費は2021年、実質ベースで4.8%も増えた。この伸びは他のどの地域よりも高かった。
アジアを見れば、2021年の国防費の総額は4880億ドルで、2008年の2260億ドルと比べて2倍以上に増えた。中国が2021年のアジア域内での国防予算総額の43%を占めた。
ウクライナ戦争を背景に今後も欧米でもアジアでもさらに国防費が増える可能性が高い。
●アメリカ軍需企業の株価が高騰
S&P500種株価指数(ニューヨーク証券取引所、NASDAQに上場している代表的な500銘柄の株価指数)の航空宇宙・防衛セクターは2月24日のロシアのウクライナ侵攻以来、10%上昇し、S&P500全体の上げ幅の4%を大幅に上回っている(2月23日と4月18日の終値を基に計算)。
アメリカの軍需企業を個別に見ると、世界最大の軍事企業、アメリカのロッキード・マーティンの株価の上昇が目立つ。ロシアのウクライナ侵攻から20%も上昇した。4月13日には最高値を更新した。同社は最新鋭ステルス戦闘機F35の製造でよく知られるが、昨年12月以来、フィンランドやドイツ、カナダなどがF35の購入を相次いで決めている。
日本も、通常離着陸型のF35Aを105機(1機は既に喪失)、短距離離陸・垂直着陸型のF35Bを42機それぞれ配備する計画だ。
ノースロップ・グラマンの株価もロシアのウクライナ侵攻から21%も上昇した。3月7日には最高値を更新した。同社はステルス爆撃機B-2やグローバル・ホーク無人偵察機を製造している。
このほか、アメリカ航空宇宙・防衛関連技術大手のL3ハリス・テクノロジーズの株価もロシアのウクライナ侵攻から20%も上昇した。3月7日には最高値を更新した。さらに、アメリカ防衛大手ゼネラル・ダイナミクスの株価も13%上昇。こちらも3月7日に最高値を更新した。
ウォール街の格言として、恐怖と欲が相場を動かすとの言葉がある。ウクライナ戦争が長期化すればするほど、アメリカ軍事企業の株価が高騰する可能性が高い。西側諸国がウクライナの自由と民主主義を支えようと軍事支援を強化するなか、好むと好まざるとにかかわらず、アメリカの巨大な軍需産業が利益を得ているのは間違いない。
(関連記事)
●ロシアの新型戦闘機スホイ35が墜落――ウクライナ軍が撃墜か