霜降り肉に再注目せよ、日本三大和牛のしゃぶしゃぶ
肉ブーム
「グルメブーム、2014年の振り返りと2015年の展望」で肉ブームについて紹介し、それ以降は以下の通り肉に関する記事を書いてきました。
- なぜ鉄板会席が生まれ、なぜ幻の神子原米が提供されるのか?
- 肉好きには知っておいてほしい、新肉ブーム「ノーズ トゥ テール」
- 六本木にステーキハウスが多い理由
- グランド ハイアット 東京「けやき坂」の鉄板焼はどこが新感覚なのか?
- リニューアルを始めたザ・リッツ・カールトン東京、「ひのきざか」鉄板焼の妙味
これらの記事で取り上げている料理ジャンルはステーキや鉄板焼であり、肉の種類は赤身肉や熟成肉なので、肉ブームと言われてはいるものの限定的であることが分かるでしょう。
こういった状況で、焼くのでもなく、赤身肉や熟成肉でもないのに、注目したい「肉」があります。
それは、ANAインターコンチネンタルホテル東京の日本料理「雲海」で行われている「日本三大和牛 神戸、松阪、近江の饗宴」です。
日本三大和牛の全てをしゃぶしゃぶで食べられるという、非常に贅沢なコースが供されているのです。
黒毛和牛
「横濱ビーフと共に和牛をめぐる冒険、横浜より」でも、リストアップしたように、黒毛和牛(黒毛和種)には様々なブランドがあります。
特にその中でも極めて評価が高い以下のブランド牛は三大和牛と呼ばれているのです。
- 神戸ビーフ
- 松阪牛
- 近江牛
近江牛の代わりに前沢牛や米沢牛が挙げられることもありますが、上記の3ブランドが最もよく挙げられていると言ってよいでしょう。
この三大和牛は、ANAインターコンチネンタルホテル東京の公式サイトでは以下のように説明されています。
この三大和牛をしゃぶしゃぶで食べられるコースはどのようなものでしょうか。
初めての試み
広報 森直美氏は「三大和牛のしゃぶしゃぶは、初めての試みであった。料金も決して安いとは言えないが、新聞などを始めとして、幅広い媒体で取り上げていただいた」として、反響があったことをまず述べます。
どうしてこのような贅沢なコースを考えたのでしょうか。
和食調理長 吉安健氏は「今は空前の肉ブーム。同じANAインターコンチネンタルホテル東京の中でも、ステーキや鉄板焼はとても人気が高い。日本料理は肉というイメージがあまりない。しかし、日本料理でも肉をおいしく食べられることを知っていただき、このイメージを覆したかった」として、ホテル内の他のレストランから刺激を受けたとします。
どうしてしゃぶしゃぶにしたのかと訊くと、「黒毛和牛の味をそのまま堪能するのであれば、薄切りでシンプルにして食べられるしゃぶしゃぶが最もよい」と答えます。
確かに、ステーキなどは肉の旨味を閉じ込めてがっつりと食べることになりますが、しゃぶしゃぶの場合には適度に脂が抜けるので、黒毛和牛の食味がより強調されることでしょう。
食べ比べ
「六本木にステーキハウスが多い理由」でもご紹介したように、海外では神戸ビーフが圧倒的な知名度を誇っています。神戸ビーフを食べられるレストランを事前に調べてから日本へ訪れる外国人も少なくないと言うほどです。
それに関しては「確かに、外国人のお客さまには神戸ビーフがとても人気がある。しかし、神戸ビーフはもちろん、松坂牛や近江牛など日本にはおいしい黒毛和牛が他にもたくさんある。それならば、旅行の思い出として、日本三大和牛を食べていただこうと考えた」と述べます。
森氏はこれを受けて「日本三大和牛のしゃぶしゃぶをご注文されるお客さまの8割は外国人の方」と吉安氏の考えが正解であったと補足します。
それぞれの和牛
楽しみ方について吉安氏は「どの和牛が好みか食べ比べていただけると、なお楽しくなる。どれも肉質等級A5の肉を使っているが、見た目からして全く違う。近江牛は最も脂が弱くて肉の味を堪能できる。松坂牛は独特の食味がある。神戸ビーフは脂がしっかりとしていてダイナミック」と説明します。
森氏は「どれも最高のお肉なので、失敗したくないという方には、スタッフがお作りする」と述べます。
神戸ビーフも安定供給
ところで、日本三大和牛はどれも引きが強く、特に神戸ビーフは海外への輸出も増えているので、安定供給が難しくなっています。
森氏は「ホテル開業当初の30年程度前から神戸ビーフを取り扱っている。そのため、仕入れ先との信頼関係も築かれており、安定して供給できている」と一日の長があるとします。
KENZO ESTATEのワインや、北村製麺所のきしめんも
肉以外に関して吉安氏は「雲海では日本酒を様々な種類をご用意しているが、ワインは少なかった。しかし、最高級の牛肉を引き立てるためにはワインがよいと考えて、このコースに合わせて評判の高いKENZO ESTATEの『あさつゆ asatsuyu』や『紫鈴 rindo』をご用意した。高級ワインなので、ハーフボトルをご用意して飲み易くしている」と、ワインにもこだわったと話します。
KENZO ESTATEと言えば、辻本憲三氏がカリフォルニア州ナパに設立したワイナリーであり、高級カリフォルニアワインの代名詞です。特に、KENZO ESTATEのフラッグシップワインとして高い評価を受けている『紫鈴 rindo』は赤ワインなので黒毛和牛によく合います。
また「最後は1811年に創業した奈良県の北村製麺所のきしめんが提供される。大変歴史のある製麺所なので、こちらも楽しみにしていただきたい」と加えます。
肉ブームの分水嶺
最後に森氏は「当初は4月16日から6月8日までご提供する予定だったが、ご好評いただいているので、7月22日まで延長することになった」と話しますが、1986年に東京全日本ホテルとしてオープンしたANAインターコンチネンタルホテル東京は来年2016年で30周年を迎え、宿泊客の外国人の比率が7割を超えて、ますます好調です。
ANAインターコンチネンタルホテル東京は、有名人が贔屓にするホテルとして1990年代に一時代を築いたかと思えば、2007年には同ホテルへとリブランドし、さらには2010年にはフランス料理界で前衛的な「ピエール・ガニェール」をオープンし、赤坂洋介料理長の手腕によってミシュランガイドで星を獲得し続けるなど、常にトレンドの最先端にいます。
私は熟成肉はしっかりとした定義もないので衛生面や表記面で危うい課題に直面せざるを得ないと述べてきていますが、時代の寵愛を受けたANAインターコンチネンタルホテル東京が挑戦する、クラシックな霜降り日本三大和牛を伝統のしゃぶしゃぶで食べるというコースは、この氾濫した肉ブームの流れに対して小さからぬ分水嶺の役目を果たすような気がしてならないのです。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。
参考
レストラン図鑑にも雲海が詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。