六本木にステーキハウスが多い理由
六本木ステーキハウスの系譜
ここ最近、たくさんのステーキハウスが六本木にオープンしています。
あまり実感が湧かない方のためにも、六本木周辺のステーキハウス、および、ステーキが有名なレストランの系譜と、各店の特徴を挙げてみましょう。
- ステーキハウス ハマ
1964年、2013/11/22移転リニューアルオープン
- オークドア(The Oak Door)
2003/04/25、グランド ハイアット 東京
- アウトバック・ステーキハウス
2006/11/15
- タワーズグリル(Tower's Grill)
2007/03/31、ザ・リッツ・カールトン東京
- ユニオン スクエア 東京(Union Square Tokyo)
2007/03/31、ニューヨーク
- 37 Steakhouse & Bar (サーティーセブンステーキハウスアンドバー)
2010/3/15、プライムステーキ
- ウルフギャング・ステーキハウス(Wolfgang's Steakhouse)
2014/2/1、マンハッタン、プライムグレード、Tボーン
- ルビージャックス(Ruby Jacks)
2014/04/08、「TWO ROOMS GRILL」系列店
- いきなり!ステーキ
2014/7/15、スタンディング、グラム単位で注文
- BLT STEAK TOKYO (ビーエルティーステーキトーキョウ)
2014/9/19、ハワイ、熟成肉、プライムグレード
- ザ・ステーキ
2015/03/20、お一人様用カウンターも
2014年から増加
古くは鉄板焼の元祖とも言えるステーキハウス ハマに始まり、オークドアやタワーズグリルなどホテル系のラグジュアリーなレストランを経て、昨年2014年にウルフギャング・ステーキハウス 六本木がオープンしたのを機に著しく増えていることが分かります。
アメリカ系だけかと思ったら、いきなり!ステーキの「ペッパーフードサービス」やザ・ステーキの「ダイヤモンドダイニング」など日本系の大企業も奮って参画しています。
六本木にこれだけ多くのステーキハウスがオープンしているのはどういうことなのでしょうか。
肉ブームのおさらい
ステーキと六本木の関係について考える前に、まずは現在の肉ブームについておさらいしてみましょう。ポイントになるのは以下3点です。
- 赤身
- 熟成
- 塊
赤身
日本で高級な牛肉と言えば、神戸ビーフや松阪牛、近江牛や前沢牛といった黒毛和牛を指します。これは脂肪が霜降りのように入った牛肉への信仰があるからです。それが健康志向が高まったり、土佐のあかうしなど褐毛和牛への評価が高まったりした影響で、赤身ブームが生まれました。
熟成
熟成肉はこの赤身ブームと密接に関係しています。というのも、熟成させるのは脂肪ではなく赤身であり、赤身が注目されたからこそ熟成が注目されたという文脈があるからです。他の赤身と差別化するために、熟成肉が生まれたと言ってもよいでしょう。
ただ、「グルメブーム、2014年の振り返りと2015年の展望」でもご紹介したように、熟成肉には定義がないので、危うい部分もあります。
塊
論点がずれるので熟成肉に関する問題はさておき、肉ブームはさらに進化していきます。
炭火や溶岩石では飽きたらずに薪を使ったり、グリルやオーブンでもなく窯で焼いたり、骨付きや塊の肉がもてはやされたりしています。
その中でも写真に映えて受けがよいのは塊肉であり、なるべく大きなポーションで提供しようとするレストランが増えています。レストランとしては同じ売るのであれば、単価を高くして売上も増やしたいので、塊肉を売り出す方向性はまだ続くでしょう。
ステーキへ
肉ブームを簡単におさらいしようと思ったら、長くなってしまいましたが、ここからステーキに火がつきます。
先に述べた肉ブームの3要素である「赤身」「熟成」「塊」は、実はステーキと非常に相性がよいのです。霜降り肉への信仰は強く、ステーキでも黒毛和牛は花形ですが、値段が高いのでステーキは必ず黒毛和牛という人は少ないでしょう。むしろほとんどの人は普段からアメリカ牛やオーストリア牛のステーキを食べており、霜降り肉のステーキよりも赤身のステーキの方が食べ慣れているはずです。
赤身のステーキに熟成という魔法のスパイスが加わり、さらにはBSE問題による月齢の高い牛の禁輸も解けて最高級プライムグレードの牛肉やTボーンが輸入されるようになりました。Tボーンは見栄えのよい塊肉であり、プライムグレードの牛肉は黒毛和牛とは違った新たな高級肉なので、どちらとも注目されているのです。
六本木へ
では、ステーキから六本木へと、どのようにつながるのでしょうか。
以下の3つがステーキを六本木へ誘うキーワードになります。
- 欧米人
- オフィス街
- トレンド発信力
欧米人
六本木には戦後直後からアメリカ軍の関連施設があったのでアメリカ人向けの店が多く、「ハードロックカフェ」「トニーローマ」「ウルフギャング・パック」(「ウルフギャング・ステーキハウス」ではありません)「T.G.I FRIDAYS」「ROTI」など、ステーキハウスが増える前からアメリカ料理の有名店があります。
これに加えてスペイン、スウェーデン、ウクライナ、ギリシャ、オーストリアなどヨーロッパの大使館が多く点在しているので欧米人が多くなっています。欧米人にはステーキを食べる文化があるので、欧米人が多い六本木でステーキハウスは受け入れられ易いのです。
オフィス街
六本木には有名人がお忍びで訪れたり、バブル期にディスコが林立したりと、夜の歓楽街というイメージがついていましたが、2003年に「グランド ハイアット 東京「けやき坂」の鉄板焼はどこが新感覚なのか?」でもご紹介したグランド ハイアット 東京を含む六本木ヒルズが、2007年に「リニューアルを始めたザ・リッツ・カールトン東京、「ひのきざか」鉄板焼の妙味」でもご紹介したザ・リッツ・カールトン 東京を含む東京ミッドタウンがオープンしたことで、歓楽街からオフィス街へとイメージが変わりました。
オフィスが多いと、接待やパワーランチといった社用でレストランを訪れることが多くなります。そういった場ではモダンなフレンチやイタリアンよりも、シンプルで分かり易く、かつ、カジュアルな雰囲気で互いに打ち解け易いジャンルのレストランが選ばれるので、内装や雰囲気はオシャレで洗練されていながらも、肩肘張らないステーキは利用され易いのです。
トレンド発信力
六本木はもともと有名人が多く集うことでトレンドの潮流を生み出していましたが、再開発が成功したことにより、ローダーデールやグランド ハイアット 東京「フレンチ キッチン」の健康的なブランチ、六本木ヒルズにある毛利庭園や東京ミッドタウンにある檜町公園の自然な爽やかさによって、艶やかな夜のスポットとしてではなく、明るくて健全なスポットとして取り上げられるようになりました。
また六本木ヒルズや東京ミッドタウンに併設された高級レジデンスに日本を代表する実業家や外資系企業の社員が住むようになったことも、健全性を強化する材料となっているでしょう。
その結果、六本木という街は、夜だけではなく朝や昼にもトレンドのリーチを広げることに成功したのです。
日本人とステーキ
以上のことから、六本木にステーキハウスが多くなった流れを辿ると、六本木はもともとステーキを受け入れる文化があった上に、再開発によってイメージがよくなり、肉ブームとなったことでステーキハウスも出店し始め、それをメディアがトレンドとして取り上げたことによってステーキブームが形成され、その潮流を読んでさらにステーキハウスも増えるという、何ともまどろっこしい事象なのです。
日本人1人が1年間に消費する牛肉の平均量は、1955年に僅か1.2キログラムだったのが今では5.6キログラムにまで増えていますが、アメリカンサイズのステーキは300グラムはあることを鑑みると、ステーキブームによって急激に牛肉摂取量が増加すると日本人の体に何か影響を及ぼすのではないかと心配になったり、日本三大和牛である神戸ビーフが2012年に海外輸出を解禁してから輸出が増えていく一方で、アメリカ牛がどんどん輸入されてステーキになっていく様子を見ていると、食文化を発信することと食文化を守ることは同じではないのではと疑ったりするのですが、この話はステーキよりもじっくりと火を通す必要がありそうなので、考えるのは次の機会にしようと思います。
元記事
レストラン図鑑に元記事が掲載されています。