なぜ鉄板会席が生まれ、なぜ幻の神子原米が提供されるのか?
鉄板焼と会席料理
鉄板焼や会席料理と言えば、どちらとも高級なイメージを持っていると思いますが、みなさんはどちらの方がお好きですか。
この鉄板焼と会席料理をどちらとも楽しめる鉄板会席コースが「ウェスティンホテル東京<スイーツブッフェの魔術師>はいかにチーズデザートブッフェを流行させるのか?」でもご紹介したウェスティンホテル東京「恵比寿」で2015年3月から行われているのです。
「グランド ハイアット 東京「けやき坂」の鉄板焼はどこが新感覚なのか?」や、「リニューアルを始めたザ・リッツ・カールトン東京、「ひのきざか」鉄板焼の妙味」など、新しい鉄板焼を色々とご紹介していますが、鉄板焼と会席料理を合わせたコースは全く新しいと言えます。
鉄板会席コースは一体どういったものなのでしょうか。
フルコース仕立て
コース内容を尋ねると、恵比寿アシスタントシェフ 成宮精三郎氏は「前菜、蒸し物、焼き前菜、揚げ物、シーフード、箸休め、肉料理、食事、デザートと、会席料理と鉄板焼をバランスよく取り合わせた贅沢なフルコースになっている」と説明します。
「会席料理なので季節をしっかりと表現しており、コース内容は2ヶ月毎に新しくなる。4月は春をテーマとしているので桜や春野菜を使っている。また、料理だけではなく、女性のお客さまに人気のカクテルも、同じように季節毎に新しくしている」と紹介します。
神子原米の食事
広報担当は「料理の最後を締める<食事>では、2005年10月21日に日本から初めてローマ教皇に献上された神子原米をご提供している。食味がよいことに加えてとても希少なお米」と述べます。
神子原米は、石川県羽昨市神子原地区で栽培されているコシヒカリで、その高い食味が評価されていることに加えて、年間500俵程度しか生産されないので入手することも難しく、通常のコシヒカリの3倍近くの値段となっているのです。
どうして、これほど希少な神子原米を使うことになったのでしょうか。
総料理長 沼尻寿夫氏は「恵比寿牛はその素晴らしさを広く知っていただいている。この恵比寿牛の後にご提供する<食事>も最高のものを召し上がっていただきたいと考えた。色々と検討を重ねていった結果、採算を度外視してでも神子原米をご提供することにした」と丁寧に答えます。
不動の地位
「恵比寿」は1994年10月14日にウェスティンホテル東京がオープンした時から存在感を示しており、高層階から絶景を眺めながら鉄板焼を食べるというデートのスタイルを流行させ、2010年4月1日からは恵比寿牛を提供するなどして、鉄板焼で不動の地位を確立したと言って過言ではありません。
それだけに新しい試みを行わず、オーソドックスな路線を守ろうとしていたと思っていましたが、どうしたのでしょうか。
さらなる満足を
沼尻氏は「本格的な鉄板焼をご用意しながらも、お客さまにより満足していただけるようにと、以前から新しい鉄板焼を思案していた」と切り出し、「鉄板焼だけではなく、会席料理も召し上がれたら、もっと喜んでいただけるのではないかと考えた」と振り返ります。
鉄板焼で会席料理を提供するのは面白い試みですが、会席料理では焼き物以外の料理もあるので、簡単なことではないでしょう。
そのことに触れると沼尻氏は「ウェスティンホテル東京の鉄板焼の料理人は技術力が高いので、もっと腕を奮える機会がないかと以前から模索していた。熟練した鉄板焼の料理人であれば、焼くだけではなく、蒸したり揚げたりする料理もおいしく作れる」と自信を持ちます。
鉄板で作る会席の特徴
では実際のところ、鉄板焼で会席料理を作ると、どういった特徴があるのでしょうか。
成宮氏は「通常、蒸し物は厨房で作ってすぐにご提供しても、やはり水分が逃げてしまう。しかし、270度の鉄板焼で蒸してすぐにご提供すれば水分が逃げず、食味が落ちない。また、絶妙な火入れができるので、カラスミを中はレアに外はカリカリに焼いたり、桜海老を煎餅状にして焼き揚げたりすることもできる」と当然のことのように説明します。
女性の鉄板焼の料理人
成宮氏の発言を受けて広報担当は「技術力を高めていくことはもちろん、より細やかなサービスをしていくためにも、女性料理人の育成に力を入れている。鉄板焼で、2人も女性の料理人がいるところは、他にはないのではないか」と話します。
私も女性の料理人に焼いてもらったことは、これまでに一度もありません。鉄板焼は対面式なので、女性の料理人であれば男性の料理人とはまた違った細やかなサービスを提供できるのではないでしょうか。
恵比寿牛はロースがおいしい
恵比寿牛についても改めて問うと、成宮氏は「鉄板会席コースでは恵比寿牛のロースとフィレの食べ比べを行っている」と贅沢な試みを紹介し「フィレのレア、ミディアムレア、ミディアムを召し上がっていただいてから、最後にロースをご提供する。繊細で軽いものから、だんだんと味のしっかりしたものを食べていただくことによって、よりおいしく感じられる。部位や焼き加減の違いも楽しんでいただきたい」と笑顔で話します。
さらには「一般的にロースよりもフィレの方が高価だが、恵比寿牛では是非ロースを召し上がっていただきたい。赤身がおいしいくて脂身に勝っているので、洗練された力強さがある」と述べます。
神子原より
この先について尋ねると成宮氏は「次は三陸の食材にフォーカスしたフェアを行う。夏にはハモ、秋にはマツタケを使った鉄板会席をご提供するので、是非ご賞味いただきたい」と答える一方で「鉄板会席は早速反響をいただいているが、留意しなければならないことがある。この鉄板会席では料理人の腕が如実に表れるので、これまで以上に技術力を高めていかなければならない」と真剣な面持ちで話します。
石川県で最も広い面積を誇る神子原の棚田の頂上から見渡す景色には、近代的な建物がなく、田と山と民家ばかりが映る美しい千枚田が広がっていると言われています。そこで栽培された神子原米が石川県を飛び出し、高層ビルが林立する東京のグルメシーンの中で20年以上も異彩を放つ「恵比寿」の<食事>として提供されるようになったことは、神子原から1万キロ近くも離れたローマ法皇に献上されたことよりもずっと、感慨深いものであると私には感じられるのです。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。
参考
レストラン図鑑にも恵比寿が詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。