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マンガ・アニメ・ゲームの国際拠点は本当に作れるの? 「MANGA議連」に聞いてみた(前編)

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:イメージマート)

2014年11月18日に設立された、超党派の国会議員によるマンガ・アニメ・ゲームに関する連盟「MANGA議連」は、2022年12月時点で48人の議員が加盟している。

MANGA議連の活動目的は、漫画、アニメ・特撮およびゲームを文化資源とした、人材育成や産業振興、アーカイブなどの環境整備や促進で、その一環としてミュージアムやイベント施設などを併設した国際的拠点「メディア芸術ナショナルセンター(仮称)」建設の法制化を進めてきた。

だが本法案は、議連の誕生からすでに8年が経過したがいまだに成立していない。また、これまでのMANGA議連の活動状況は、主に新聞で散発的に報道されてはいるものの、その実態はほとんどの人が知らないように思われる。

私見で恐縮だが、筆者は今までにゲームアーカイブ関連の活動を何度も取材し、自身もアーカイブ関連事業をいくつか携わった経験から言えば、ゲームの恒久的なアーカイブを可能とする公的な施設は必須であると考えている。

なぜなら、有志にアーカイブを任せっ放しでは人的にも経済的にもリソースの限界があり、またゲームの経年劣化による故障や廃棄、倒産したメーカーの資料の散逸、あるいは海外への流出がどんどん進んでいるからだ。

(参考リンク:「Yahoo!ニュース個人」の拙稿)

・ゲーム開発者が自ら語る、アーカイブ化されずに日々ゲームが消えゆく悲哀

・大好きなゲームの曲がもう聴けない!? サービス終了で消滅するゲーム音楽の悲しい現実

・貴重な基板は「御神体」 進まぬアーケードゲームのアーカイブ化、問題点は?

MANGA議連は日々どんな活動をしているのか? そして「メディア芸術ナショナルセンター」の建設は本当に実現するのか? MANGA議連の会長を務める自民党の古屋圭司衆議院議員、およびアドバイザーの弁護士、桶田大介氏を取材したうえでまとめた最新の状況を、前・後編の2回に分けてお伝えする。

MANGA議連会長の古屋圭司衆議院議員(※筆者撮影。似顔絵は赤松健参議院議員の直筆)
MANGA議連会長の古屋圭司衆議院議員(※筆者撮影。似顔絵は赤松健参議院議員の直筆)

「国立メディア芸術総合センター」が消えた理由

本題に入る前に、MANGA議連の結成以前に「メディア芸術ナショナルセンター」と同じ目的で、2009年に建設が始まる予定だった「国立メディア芸術総合センター(仮称)」の事業が中止になった経緯から振り返る。

同センターは麻生太郎首相(当時)と文化庁が主導し、2009年に成立した補正予算により117億円を計上したうえで建設される予定だった。当時の朝日新聞などが「アニメの殿堂」と報じた施設と言えば、ご記憶の方も多いのではないだろうか。

古屋議員は「麻生さんは、当時から中国と韓国でマンガやアニメの施設作りを進めていることに対し危機感を持っていました。そこで、麻生さんと私とで文化庁に働きかけたうえで予算を得たのですが、同じ年の選挙で民主党政権に代わり『国営マンガ喫茶』と批判され、事業仕分けにより凍結されてしまいました」と当時の状況を振り返る。

実は「国立メディア芸術総合センター」の事業は、補正予算の成立後から政権が交代するまでの間に、出金を伴う実務をまったく行っていなかった。凍結される前に出金が発生する何かしらの業務を行い、既成事実を作っておけばもしかしたら状況は変わったかもしれないが、何も動いてなかったため本事業が「執行停止」の対象となったことでご破算になってしまった。

2009年の段階で、東京のお台場に同センターを建てる構想がすでに出来上がっていたとの情報もあるが、今となっては後の祭りである。

偶然の出会いから生まれたMANGA議連

古屋議員と、議連設立のキーマンとなった桶田氏が出会うきっかけとなったのは「ニコニコ動画」だった。

2009年4月頃に、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の監事・顧問弁護士も務めている桶田氏が、自民党本部から「古屋議員が、広報本部長としてニコニコ動画で『国立メディア芸術総合センターはクリエイターのために役立つものだ』という講演を放送したいので、アニメーターなどの実態を聞かせてほしい」と電話で相談を受けた。

古屋議員からの相談に応じて以降、文化庁からも連絡を受けるようになった桶田氏は、やがて2014年の電子出版権の新設を含む著作権法の改正につながる、国会議員の「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」を担当することになった。その法改正時の傍聴に出掛けた桶田氏が、衆議院の院内にある蕎麦屋で昼食を取っていたところ、偶然にも古屋議員が隣の席にいた。

そこで古屋議員が「ぜひ(国立メディア芸術総合センターが中止になった)リベンジをしたいですよね」などと桶田氏と話したのを機に、やがて古屋議員がプライベートでもマンガ、アニメやゲームに詳しい桶田氏に下準備を依頼した。

並行して古屋議員も、ほかの議員に声を掛けて回ったところ、多くの賛同者が集まった結果、2014年11月18日に開催された設立総会で麻生議員を最高顧問に、古屋議員を会長とするMANGA議連が誕生した。

ちなみにMANGA議連の名付け親も古屋議員で、自身も小さい頃から大のマンガ好きで「横山光輝の『伊賀の影丸』などが大好きで『少年サンデー』と『少年マガジン』の発売を毎回楽しみにしていました」とのこと。またゲームについては、筆者の取材中に自身の思い出を語ることはなかったが、現在オンラインゲーム・eスポーツ議員連盟の会長代行も務めている。

(参考リンク)

・麻生氏「『マンガ』は仏語にもなった」MANGA議連で支援(産経新聞)

MANGA議連では、年に2~3回程度のペースで会合を開いており、直近では昨年12月7日に役員会が開催されている。設立当初は30人ほどだったメンバーは、前述したように現在では48人に増えた。これだけ多くの議員が名を連ねていても、古屋議員によると同センターを作るためには著作権法などの改正が必要であり、法改正を実現するにはハードルが非常に高いという。

そこで「メディア芸術ナショナルセンター」を、納本制度や絶版等資料のデジタル化を合法的にできる、国会図書館の支部機能も取り込んだ施設にしたうえで、PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)による民間の協力を得て建設する方法で法案の骨子が作られた。

「メディア芸術ナショナルセンター」法案のイメージ(※出典:2022年4月8日開催のMANGA議連総会「MANGAナショナルセンター法案 説明資料」)
「メディア芸術ナショナルセンター」法案のイメージ(※出典:2022年4月8日開催のMANGA議連総会「MANGAナショナルセンター法案 説明資料」)

国会図書館と共産党が反対を表明

MANGA議連の設立後、各メンバーおよび所属する政党も「メディア芸術ナショナルセンター」の法案はすべて賛成に回った。

かつて「国立メディア芸術総合センター」を中止した、民主党の議員も席を置いている現在の立憲民主党も、古屋議員によれば昨年12月の会合で「立憲民主党の皆さんも了解しています」とのこと。かつて「事業仕分け」で有名になった蓮舫議員も、前述したPFIによる民間の力を活用する案を古屋議員が説明したところ、以前とは態度が豹変したそうだ。

議連が結成され、多くの議員が賛成しているのに、なぜ法制化が現在までペンディングになっているのか? その理由は、法案を成立させるにあたり重要な役割を担う国会図書館と、MANGA議連にメンバーが1人もいない共産党が反対を表明したことだ。

国会図書館、共産党が法制化に反対したのは「国会図書館は立法府であって行政府ではないのに、それが『メディア芸術ナショナルセンター』の中に入るのは三権分立に反する」との理由からだ。

「議員立法は、基本的に院内会派を持つすべての党が了解する必要があるのですが、共産党は非常に硬い態度でした。そこで、共産党以外のメンバーで進めようと根回しもしたのですが、当初は立憲民主党が『共産党ともいっしょにやろうよ』というスタンスで、立憲民主党としては共産党を無下にはできないということで、法案はそのまま店ざらし状態になってしまいました」(古屋議員)

桶田氏によれば、もし法案が2019年までに成立していた場合は「メディア芸術ナショナルセンター」の建設が実現できていた可能性は高かったとのこと。同センターがあれば、日々劣化するゲームのアーカイブがどんどん進み、また昨今のコロナ禍で経営、存続ができなくなったメーカーや関連サービス、特に苦境に陥ったアーケードゲーム業界を、何かしらの方法で多少なりとも救えたのではないかと思うと、本当に残念でならない。

なお国会図書館は、現在ではMANGA議連の構想について理解を示すようになったそうだが、共産党の反対姿勢は今なお変わっていない。そこでMANGA議連は、このままではいつまで経っても法制化が進まないと見て、大幅な方針転換を決断することになった。

<後編に続く>

「メディア芸術ナショナルセンター」設置についての資料(※出典は上記と同じ)
「メディア芸術ナショナルセンター」設置についての資料(※出典は上記と同じ)

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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